株式会社キングジムが発売した「ポメラ」はキーボードによるメモや文章が書ける新ジャンルのデジタル端末だ。手軽に持ち運べる文庫本サイズの本体に折りたたみ式のキーボードと4インチの液晶ディスプレイを搭載する。キーボードを開くだけですぐに文字入力が可能となり、入力したテキストはパソコンに転送して自由に編集することができる。



「ポメラ」はテキストを入力する機能に特化した端末だけに起動時間はわずか2秒。電池の持ちもよく、単4アルカリ乾電池2本で約20時間の使用が可能だ。テキスト専用端末と割り切ってしまえば、ノートパソコンよりも携帯性に優れているほかに、すぐ起動して使えるできる点など使い勝手がよい。



今までにありそうでなかった「ポメラ」は、どのようにして誕生したのだろうか。


■「ポメラ」は、あくまで文具として

「ポメラ」誕生のコンセプトをの開発担当者である株式会社キングジム 立石幸士氏にお話しをうかがってみよう。



編集部:どうして「ポメラ」を開発しようと思ったのですか。

立石氏:「ポメラ」を作る前までは、私はB5版のモバイルノートパソコンを使っていました。たとえば、出張や外出のときには必ずノートパソコンを持ち歩いています。



開発という仕事柄、データを出先で使う場合にはノートパソコンでよい訳ですが、軽いミーティングとなるとノートパソコンはカバンの中でかさばりますし、電源も気になります。ノートパソコンが小さくても、ACアダプタも必要なので、持ち運びには不満がありました。



世の中には折りたたみ式キーボードがありましたので、「これに液晶だけ付けばコンパクトでいいのになぁ」と思ったのが、そもそもの企画の発端となります。



編集部:開発にはどれぐらいの期間がかかったのですか

立石氏:去年の7月から構想を考え、だいたい12月ぐらいまで構想を練っていました。その後開発着手の承認が降りて発売が今年の11月ですから実質の開発期間は10ヶ月ぐらいです。



編集部:企画はおひとりで発案されたということでしょうか。

立石氏:企画自体は私が最初に発案させていただきましたが、「デジタルメモ」というコンセプトのブラッシュアップですとか、細かい仕様や製造工程などの調整に関してはチーム一丸となって取り組んでいます。



編集部:最初から現在の仕様でしたか。

立石氏:「ポメラ」の仕様ですが、

・4インチのモノクロディスプレイ

・B5版ノートパソコン並みのキーピッチがあるキーボード

・乾電池で動作

・駆動時間は数十時間以上

……

といった具合に、まず自分の欲求を1枚の用紙にまとめていったので、もともとの仕様から大きくぶれることはありませんでした。ただ、こういったキーボード付きのデジタルデバイスとなると、何でもできるような気がしてきますよね。



たとえば、メールができないか、ネットができないかなど、いろいろな欲求が出てきましたが、あくまで文房具であると割り切って企画から大きくぶれないように作り上げたものとなっています。



編集部:ターゲット層を教えていただけますか。

立石氏:我々のような出張や会議のあるビジネスマンですが、作っていくうちにもうひとつ見えてきたのが、文章を書くのが好きな人です。ブロガーやモノを書かれる人も、もうひとつのターゲット層になるのではないかと考えています。

写真1「ポメラ」開発の経緯を語る、株式会社キングジム 立石幸士氏



●キーボードと日本語変換へのコダワリ

編集部:キーボードのギミックが非常にユニークですが、これは先ほどおっしゃっていた折りたたみ式キーボードからの発想でしょうか。

立石氏:そうです。折りたたみ式キーボードが各社から発売されておりましたので、あらゆる折りたたみ式キーボードを参考商品として購入して社内で検証して現在のキーボードになりました。



それに加えて、携帯電話の周辺機器を一時期開発しておりまして、携帯電話でシッカリと打ち込める折りたためるキーボードを企画していたこともあり、最初から折りたたみ式キーボードは意識していました。



編集部:キーボードを支える引き出し式の脚はユニークですね。

立石氏:キーボードを開いていただけるとわかるのですが、左側の脚は何もしなくても出ています。ところが、この機構だと、右側のキーボードの下に脚がないと、Enterキーや電源キーを押したときにガタツキが出てしまうので、スライド式の脚を付けました。

写真2 デジタルメモ「ポメラ」写真3 キーボードを支える引き出し式の脚

編集部:日本語変換にATOKを採用した理由は?

立石氏:実は「テプラ」の上位機種はジャストシステムさんの「ATOK」を使用しています。「ATOK」は日本語変換がしっかりとしていますので、自然と「ATOK」に決まりました。



編集部:昔のシグマリオンIIIを使っていた人は「ポメラ」を見てグッときたと思うのですが……。

立石氏:実はこの企画が持ち上がったときに、開発の部長がモバイルギアのコアなユーザーでして複数台持っているのです。ほかにもシグマリオンのユーザー、Palm系の好きなユーザーもおりましたので、その辺の土壌は揃っていました。



開発の段階で部長のモバイルギアをかなり参考にしています。

写真4 左がモバイルギア、右がポメラ写真5 キーボードの試作品

編集部:マニアックな話ですが、CAPSロックとCTRLの入れ替えなどのキーバインドの変更ができると良いという意見もあるようですが。

立石氏:そうですね。発表当初からネット上ではキーバインドの変更ができないのかとか、いろいろご意見をいただいています。ノートパソコンを使い慣れた方々に違和感なく使っていただけるようにと考えておりましたので、キーバインドは考えていなかったですね。



デジタルメモというひとつのジャンルを作りたいと考えているので、いろいろなご意見を次の製品に生かしていけたらと思っています。
●耐久性を重視して良い素材を採用

編集部:開発で一番苦労された点はどこですか。

立石氏:先ほど申し上げたようにコンセプトから大きくずれないというのが苦労した点の1点です。「ポメラ」はテキスト入力だけというシンプルさ故に、「テキスト入力だけで本当に大丈夫なんだろうか」と途中で自信が揺らいだりすることがありました。



「ポメラ」はカテゴリをわければ電子製品ですが、使っていただくユーザーさんに対しては、手帳と同じ文房具のひとつとして使っていただきたいという思いがありました。



文具は格好良くて壊れないものでないといけないので、「ポメラ」もそういった点に注力しました。そのため、75cmからの落下耐久試験をクリアしています。強度を保ちつつ、この大きさを保つために液晶の背面にアルミパネルを、キーボードのヒンジ部に亜鉛合金に、キーボードを水平に保つためにステンレスのフレームと板を採用しています。



耐久性にこだわって素材に良いものを使っていくのは普通のことですが、そのぶんがコストに反映され、現在の値段付けになっています。



編集部:現在の価格は材料費の占める割合が大きいのでしょうか。

立石氏:キーボードはありものを使えば良いという話もあり、そういったものを使えばより安くできたとは思います。ただ本体サイズと折りたたみにこだわったので、キーボードはオリジナルでおこしています。そういった部分が価格に反映されています。



編集部:売れ行きはどうですか。

立石氏:発売してすぐに、最初のロットは売り切れの状態です。あとは流通さんの在庫となりますが、大手量販店ではほとんど売り切れの状態でした。



そういった部分では我々としては嬉しいですが、お客様にはご迷惑をお掛けしており、急いで増産を掛けている状態です。





●「ポメラ」の素朴な疑問と今後の展開

編集部:サスペンドからの復帰が早くて良いと思いましたが、何か工夫があるのでしょうか。

立石氏:OSレスにして立ち上げ重視にしました。企画段階では5秒以内でしたが、それが3秒になり、最終的に電源オフからオンまでが2秒以内となりました。



編集部:保存できるメモリー容量が1ファイルで全角8,000文字とに落ち着いた理由はどこにありますか。

立石氏:「ポメラ」に使っているプロセッサーは32ビットのプロセッサーで、最終的にユーザーさんが使えるメモリーが128Kバイトとなっています。128Kバイトですと、テキストデータでだいたい4万8,000文字前後ぐらいになります。



大きい文章を編集しているときにコピー&ペーストなどを行うと、バックグランドでの処理が必要となります。8,000文字を超える長い文章ですと、処理に時間が掛かってしまうので、何のストレスもなく使えるように考えた結果、8,000文字が区切りとしてよいという結論に達しました。



編集部:プロセッサーが32ビットというのは、電子文具としてはかなり高性能といえるのではないでしょうか。

立石氏:「ポメラ」は2種類のフォントを内蔵していて32ビットでも少し足りないと感じています。



編集部:ビジネス向けの製品は1色での展開も多いと思いますが、カラーバリエーションを用意した理由を教えていただけますか。

立石氏:外に持ち歩いてほかの人に自慢できるものにしたかったんですね。男女を問わずに手帳のように使っていただきたいと思って3色になりました。ボツになった色は十数色あります。



黒と白はビジネスマンにも当たりさわりがない色なので、まず決まりました。もう1色おしゃれなステーショナリーとして遊びたいということからオレンジとなりました。

写真6 カラーバリエーションの試作品写真7「ポメラ」筐体の試作品

編集部:最後に今後の展開を教えていただけますか。

立石氏:デジタルメモという分野を新しく作っていきたいと考えています。ちょっとした出先で写真を撮るときにはカメラを持っていくと思います。同じように出先で音楽を聴きたいなら携帯電話ではなくミュージックプレイヤーを持っていくでしょう。



どんなに便利になってもシンプルで単機能で使える市場は必ずあって廃れることはないと思ってます。そういう需要に向けてデジタルメモという市場はあると考えています。



デジタルメモといえば、キングジムの「ポメラ」だといえるような製品展開をしていきたいと考えておりますので、ぜひ、今後もご期待ください。





デジタルメモ「ポメラ」製品情報

キングジム