今やデジタル音楽プレイヤーは、携帯電話と並ぶ生活必需アイテムだ。デジタル音楽プレイヤーは様々な製品が発売されているが、アップル社のiPodほど世界中で利用されている製品はない。アップルは、つい最近も新しいiPodファミリーを発表したばかりだ。

【フォトレポート】アップルのiPod担当ショーン・エリス氏が語る新iPodシリーズ - RBB TODAY

今度のiPod nanoは「レインボー」カラバリ、iTunesの新機能も - ITmedia



デジタル音楽プレイヤーといえば「iPod」と答えが返ってくるほど普及したiPodは、我々の生活スタイルを変えた製品でもある。



では、なぜiPodはこれほど人気を得られたのだろうか。どのようなハイテク技術が盛り込まれているのだろうか。世界を変えてきたiPodの技術の歴史を辿りながら、その秘密をみてみよう。





■iPod以前のデジタル音楽プレイヤー

iPodの話に入る前に、そもそもデジタル音楽プレイヤーとはどういう機器のことだろうか。どういう技術で動いているのだろうか。簡単におさらいしておこう。



●デジタル音楽プレイヤーとは?

デジタル音楽プレーヤとは、デジタル方式で録音された音楽ファイルを再生する機械の総称だが、iPodのように携帯性に特化したプレイヤーを指すことが多い。もともとは音楽を聴くための機械だが、今日では動画やボイスレコーダーなど、音楽再生以上の機能を備えた製品も登場している。





●デジタル音楽プレイヤーの先祖は?

デジタル音楽プレイヤーの元祖には諸説あるが、日本では1979年7月1日に発売されたソニーの「ウォークマン TPS-L2」を起源とする説が有力だ。



「ウォークマン TPS-L2」の初号機はポータブルモノラルテープレコーダー「プレスマン」から録音機能を除いてステレオ再生に対応させたことが誕生のキッカケとなったようだ。



ちなみに「ウォークマン」という名称は日本向けの商品名であり、アメリカでは「サウンド・アバウト(Sound about)」、イギリスでは「ストウ・アウェイ(Stow away)」という商品名で販売された。ところが、日本のお土産として「ウォークマン」を持ち帰る旅行者があとを絶たず、「ウォークマン」の知名度が海外でも広まったこともあり、あとから外国でも「Walkman」という商品名に統一された。



初期のウォークマンはメディアに磁気テープを使用していたが、メディアはデジタル機器の技術革新とともにCD、MD、DAT、ハードディスク、フラッシュメモリーへと変化を遂げていくことになる。





●デジタル音楽プレイヤーの仕組み

デジタル音楽プレイヤーは主に下記の5種類のパーツから構成される。



・音楽ファイルを記録する装置(メディア)

・音楽ファイルを再生するためのデコーダーチップ

・音を増幅させるアンプ

・操作ボタン

・バッテリーなど



ここでデコーダーチップとは、ある一定の規則に基づいて符号化されたデータを元のデータまたは信号復元するチップのことだ。同チップがあるからこそ、MP3形式やATRAC3形式といった様々な音楽ファイルをプレイヤーで再生できる訳だ。





■iPodの技術革新の歴史

iPodは2008年9月現在、利用目的や形状の違いにより「iPod nano」「iPod touch」「iPod shuffle」「iPod classic」の4種類に大別され、これらをまとめて「iPodファミリー」と読んでいる。



iPodはどのようにして生まれたのだろうか。iPodの誕生から今日までの歴史を、そこに盛り込まれた技術とともにみてみよう。



●世界初のiPodが誕生:ハードディスクを内蔵し、膨大な楽曲を手にする

iPodは2001年10月24日、デジタル音楽プレイヤーの世界に初めて姿を現した。初代iPodは記憶メディアに2.5インチサイズで5ギガバイトのハードディスクを内蔵し、約1,000曲の音楽データを持ち歩くことができた。楽曲の再生などの操作はドーナツ型のリングを指で操作する「スクロールホイール」が採用されていた。



初代iPodはMacintosha専用でパソコンと接続してパソコン内の音楽ファイルをiPodへ転送するかたちをとっていた。また機能的な面では、音楽ファイルの再生機能しかなかった。



考えてみると、iPodは初代から四角と丸が特徴的なデザインを採用しており、このデザインは最新モデルの「iPod nano」「iPod shuffle」「iPod classic」にも継承されているのだから驚きだ。





●ハードディスクとiTunesで劇的な進化を遂げるiPod

ハードディスクを内蔵したiPod/iPod classicの世代を追いながらiPodファミリーの歴史をみてみよう。



・第1世代

2002年3月21日、10ギガバイトのハードディスクを内蔵したiPodが発売され、約2,000曲の楽曲を持ち歩くことが可能となった。iPodにカレンダーやアドレス帳などとの同期機能が付いたのも、この頃からだ。そしてiPodは劇的な進化を遂げていくことになる。



iPodが他社のデジタル音楽プレイヤーと大きく異なっていた点はパソコンの「iTunes」で管理していた音楽をiPodで持ち出すという明確なコンセプトのもとに開発されていた点だ。実際、iPodは「iTunes to go」というキャッチフレーズとともに発売されている。





・第2世代

2002年7月17日、Macworldにおいて第2世代のiPodが発表された。ハードディスク容量も増え、約2,000曲の楽曲を持ち歩ける10ギガバイト版とその倍の20ギガバイト版となり、この世代で初めてWindowsに対応した。



初期のiPodのスクロールホイールは機械式であったが、この頃から「タッチホイール」と呼ばれるタッチセンサー式のホイールに変更された。直感的に説明すると、ノートパソコンでよく見られるタッチパッドがiPodに付いたと思えば、わかりやすいだろう。





・第3世代

2003年4月28日、第3世代のiPodとなる「ultrathin iPod シリーズ」が発表された。ハードディスク容量が10ギガバイトと15ギガバイト、30ギガバイトの3製品。2003年9月、15ギガバイトが20ギガバイトへ、30ギガバイトが40ギガバイトへとハードディスク容量が増強され、その後10ギガバイトモデルは15ギガバイトモデルに置き換わることになる。この世代からMacintosh版とWindows版との区別がなくなった。



第3世代のiPodはFireWire端子の代わりに「Dockコネクタ」と呼ばれる専用端子が採用された。USB接続での接続が可能となったのもこの世代からであるが、iPod本体の充電には6ピンのFireWire端子を使用していた。



2003年10月17日、Windows版のiTunesが発表され、サードパーティー製の転送ソフトを利用していたWindowsユーザーもiTunesを利用できるようになる。





・第4世代

第4世代のiPodは2004年7月19日に発表された。前世代からの大きな変更点はiPod miniで採用された「クイックホイール」で、これ以降のiPodやiPod nanoはすべて同ホイールを採用している。



クイックホイールはタッチセンサーに機械式スイッチを組み込んだものだ。これによりホイールと画面の間にあった操作ボタンを省くことが可能となり、見ためもより洗練された。



2004年10月28日、画像の表示能力を高めた「iPod photo」が発表された。最大の特徴は6万5,536色の同時発色が可能な液晶パネルを採用した点で、JPEG/BMP/GIF/TIFF/PNG形式の画像ファイルを持ち歩いて表示することができる。





マイクロドライブで小型化へ - iPod mini / iPod nano

iPodは世代を重ねるごとに本体の薄型化が図られたが、全体的な大きさはほどんど変わらなかった。そんなさなかの2004年1月7日、アップルはiPodよりも小型な「iPod mini」を発表した。「iPod mini」はハードディスクにマイクロドライブを採用したことで、保存可能な楽曲はiPodに比べてはるかに少なくなったが、小さなポケットにも入る本体サイズを実現した。小型のデジタル音楽プレイヤー市場向けのiPodとしては初の製品となる。



画面表示はiPodよりも1行分少なく、タイトルやアーティスト名しか表示できなかったが、2005年9月7日に発表された後継機種の「iPod nano」では、アルバム名も表示できるようになった。



初代iPod nanoはフラッシュメモリーの容量の違いで、2ギガバイトと4ギガバイトの2種類のモデルが存在する。本体サイズは90縦×40横×6.9厚さmm、重さが約42gという小型で軽量な製品だが、6万5,536色表示が可能な1.5インチのカラー液晶を採用し、音楽CDのジャケットや静止画をカラーで見ることができた。



オプションには、iPod nanoをボイスレコーダーにする周辺機器も販売された。その後、iPod nanoは第4世代まで進化を遂げることになるが、一環して小型の音楽プレイヤーを維持している。話を大きなiPodに戻そう。





2005年6月28日、iPodにはUSBケーブルおよびUSB接続のACアダプターが同梱されたが、FireWireケーブルはオプション品で用意された。



iPodの画像をテレビに出力できる「iPod AV ケーブル」、デジカメからiPodへ画像を直接転送できる「iPod カメラコネクタ」などが用意されるなど、iPodを活用できるオプション機器が充実してきたのも、この頃からだ。



iTunesはバージョンが4.9となり、iTunesおよびiPodにポッドキャスティング機能が追加された。





・第5世代

2005年10月12日、第5世代のiPodが発表された。ハードディスク容量は30ギガバイト※1と60ギガバイトのモデルが用意され、第4世代に比べて画面が大きくなった。画面は2.5インチで320×240ピクセルのカラー液晶でMPEG-4/H.264形式の動画が閲覧できるようになり、動画プレイヤーとしての機能が充実した。この世代からFireWireでのデータ転送ができなくなり、リモコン端子がなくなった。



iPodが動画に対応したことで、iTunes StoreでのiPod向け動画の販売が開始された。ちなみに2006年9月12日以降のiPodにはiTunesが同梱されていないので、iTunesがないパソコンではインターネットからiTunesを入手してインストールしなければならない。



オプションとしては、FMラジオチューナー機能付きのワイヤードリモコンが発表され、第5世代以降のiPodおよびiPod nanoでFMラジオ放送が受信できるようになった。



※1 音楽約7500曲、動画約75時間、連続音楽再生時間14時間、連続スライドショー再生時間3時間、連続動画再生時間2時間

※2 音楽約15,000曲、動画約150時間、連続音楽再生時間20時間、連続スライドショー再生時間4時間、連続動画再生時間3時間



あえて液晶をなくして小型化 - iPod shuffle

iPod mini/nanoと並んで小型プレイヤーとして忘れてはなえらない製品が「iPod shufffle」の存在だ。「iPod shuffle」は2005年1月11日、Macworld Conference & Expoにおいて発表され、即日発売が開始された。



「Enjoy uncertainty.」「Life is random.」というキャッチフレーズのもとに、「iPod shuffle」はあえて液晶画面を排除している。具体的には、iTunesのオートフィル機能を使用してライブラリの中からランダムに楽曲を選択肢して「iPod shuffle」に転送する。「iPod shuffle」では、転送された楽曲をシャッフルして聴くというかたちをとるので、好きな楽曲をその場でチョイスして聴くという使い方はできない。



メディアにはフラッシュメモリーが採用され、USBメモリーのようにパソコンのファイルを置くこともできる。初代はパソコンのUSB端子に直接接続するタイプの製品でiPodのような液晶画面がない理由は、転送された楽曲をシャッフルして聴くというコンセプトを持った製品であるからだ。



2006年9月12日、第二世代のiPod shuffleは本体サイズが第一世代のおよそ半分となり、本体とクリップが一体化したデザインで服やベルトに簡単に取り付けられるようになった。発売当初はシルバーだけのカラーバリエーションであったが、のちにグリーン、ブルー、ピンク、オレンジ、レッド、パープル、ピンクと色数を増やしていった。





・第6世代

2007年9月5日、「iPod classic」と呼ばれる第6世代のiPodが発売された。ハードディスク容量が80ギガバイトと160ギガバイトの2つのモデルが用意され、本体や画面のサイズは第5世代を踏襲している。機能的な面では、CoverFlow機能が新たに追加され、コンポーネント接続によるプログレッシブ出力が可能となっている。



ネットプレイヤーの誕生 - iPod touch

同日、第3世代iPod nanoとともに初代の「iPod touch」が発表された。「iPod touch」はフラッシュメモリーを内蔵したiPodの中でも最も高機能な製品だ。「iPod touch」をひと言で言い表せば、マルチメディア機能を備えたPDAといえるだろう。



全面に「マルチタッチ」と呼ばれるタッチパネルを採用しており、画面のタッチに加え、どの程度の速度で画面をなぞっているのかまでを正しく認識することで、画面スクロールの速度を調整することができる。2本の指で画面にタッチしながら指と指の間隔を広げたり狭めたるする直感的な操作で、静止画やGoogle Mapsの画面を拡大縮小する機能まで実現した。



さらにiPod touchを縦から横に回転させると、内蔵された加速度センサーがその動きを感知して画面の向きを自動的に切り替える機能も備わっている。ちなみに加速度センサーは第4世代の「iPod nano」にも備わっており、本体を横向きに回転させるとCover Flow画面に切り替わり、アルバムのジャケットをめくるように表示できる。さらに楽曲再生時には本体を振るアクションで、次の曲に移行する機能を備えている。



話が少しそれたので、iPod touchの話に戻そう。iPod touchで特筆すべき点はパソコンなしでインターネットを楽しめる点も、これまでのiPodにない機能だ。パソコンでお馴染みのウェブブラウザ「Safari」がプレインストールされており、内蔵の無線LANを利用することでネットサーフィンが楽しめる。これにより、iTunes Storeから楽曲や動画を直接入手できるようになった。



ポータブル音楽プレイヤーはパソコンを経由しなければならなかったが、iPod touchは単体でも機能するネットプレイヤーとなった訳だ。YouTubeプレイヤーもあらかじめ用意されており、同じく無線LANによるネット接続でYouTubeの動画を楽しむことができる。



2008年9月9日、第4世代iPod nanoとともに第2世代のiPod touchが発表された。ハードウェア面では、基本的に第1世代のiPod touchを踏襲しているが、スピーカーと音声調整ボタンが新たに追加された。



iPod touchについて少し付け加えておくと、ほかのiPodに比べてアップルストアで扱われているアプリケーションやゲームの数が多いほか、「iPhone Developer Program」に参加することにより、iPhoneおよびiPod touch向けのアプリケーションの開発や配布が可能となる。



iPhone Developer Program





iPodがこれほどまでにデジタル音楽プレイヤーの世界で成功した背景には、そのハイテク技術やiTunesの優れた操作性もさることながら、ユーザーのニーズに合わせて新しい使い方を提案してきた点にある。



とくにパソコンなしで音楽を扱えるようになった「iPod touch」はデジタル音楽プレイヤーの世界に革命をおこした製品といっても過言ではないだろう。iPodはどこまで進化するのだろうか。





参考:

デジタルオーディオプレイヤー | ウォークマン | iPod - ウィキペディアによる解説

iPod touch | iPod mini | iPod shuffle | iPod nano - ウィキペディアによる解説





■こちらもオススメ!最新ハイテク講座 最新ニュース

遊びで終わらない!「携帯ゲーム機」が先生になる時代へ

なぜ勝った? 世界No1シェアをつかんだ“Windows”

繁栄か滅亡か!巨大なエネルギー「原子力」の未来

太陽光発電だけじゃない!環境にやさしいエコ発電の最新事情

除菌も気流の調整も全自動!エアコンの最新事情

【最新ハイテク講座】記事バックナンバー