一人で複数の携帯電話を利用したり、ノートPC用にデータ通信カードを利用するなどの回線を複数契約して利用しているユーザーも多いだろう。利用する端末の数が増えれば回線契約も増えるのは当然のことだが、海外では一つの回線契約で複数の端末を利用できるサービスが存在する。今回は複数契約が不要なこの便利なサービスを紹介しよう。




■複数のSIMカードを発行できる“マルチSIMカードサービス”

携帯電話とデータ通信カード、あるいは普通の携帯電話とスマートフォンのように、複数の端末を同時に利用するユーザーは海外にも多い。たとえばビジネスパーソンであれば音声通話やSMSなど日常に利用するには携帯電話、簡単な業務を処理するためにはスマートフォン、そして本格的に仕事を行うためにはPCカード型端末を装着したノートPCを持ち歩いてパケット定額料金でデータ通信を利用したりと、2台や3台の端末を使いこなしていることも珍しくない。このように複数端末を利用するケースでは端末ごとに回線契約を行うことが多いが、マルチSIMカードサービスを利用すれば、複数の契約を行わずに1回線の契約だけですべての端末を同時に利用することができる。

複数端末を手軽に利用できるマルチSIMカードサービス




マルチSIMカードサービスとは、契約しているメインの回線に加え、同じ電話番号を持つSIMカードを複数枚発行するサービスである。各通信キャリアによりサービスの名称は異なるが、サービス内容はほぼ同一だ。マルチSIMカードサービスの基本的なサービス内容は、このようになっている。



1. 複数のSIMカード、いずれで発信しても相手側にはメインの電話番号が表示される

2. 複数のSIMカード、いずれを使っても料金はメイン契約回線を利用したものとして計算



何枚まで追加のSIMカードを発行できるかは各通信キャリアによるのだが、一般に1枚~数枚程度のようだ。また追加のSIMカードは回線契約の追加ではなく、あくまでもメインの契約回線に付加して発行されるものであるため利用料金も基本料金に比べて低額になっている。たとえば香港CSLの場合は基本料金が最低で2000円/月程度だが、マルチSIMカードサービスは1枚あたり約420円・枚/月(HK$28/月)で利用でき、4枚までの追加発行が可能だ。



実際の利用シチュエーションとしては、やはり携帯電話とスマートフォンの2台を常時利用する組み合わせが多いようだ。両者を別の回線契約した場合は、こちらからかける端末によって相手に通知される電話番号が異なってしまう。相手側が指定番号以外の着信拒否サービスなどを利用していた場合は、こちらの電話番号を2つとも相手にあらかじめ通知しておかなければならない。また名刺にも自分の携帯番号は、2つ書いておかねばならないし、2回線契約すれば基本料金も2倍かかってしまう。



マルチSIMカードサービスを利用すると、こちらが複数の端末を利用していても相手側には常に同じ電話番号が表示される。また複数の端末で音声通話やデータ通信を利用しても、料金はメイン回線の契約プランで利用できるため無駄が無い。2回線契約の場合「今月は携帯電話で利用している回線はほとんど利用しなかったが、スマートフォンの回線はデータ通信をしすぎて超過料金がかなりかかってしまった」といったアンバランスな使い方をしてしまうこともあるだろう。マルチSIMカードサービスであればすべてのSIMカード=1つの回線契約料金で利用できるため、無駄も生じにくいというわけだ。

マルチSIMカードサービスの利用イメージ(CSLの案内)





メイン以外のSIMカードを入れた端末から発信した場合、相手にはやはりメイン契約の電話番号が表示されるということは、相手がこちらに電話をかけてきた場合はどうなるのだろうか? こちらの複数の端末が同時に着信音を鳴らすのだろうか?



実はマルチSIMカードサービスで発行された複数のSIMカードは、それぞれに固有のIDと電話番号が付与されている。ただし各SIMカードを入れた端末から発信した場合は、通信キャリアのセンターで電話番号をメイン回線番号に変換して着信側に通知するのだ。そのため相手から電話を受けた場合に着信するのはメイン端末1台だけとなるのだ。もちろん他の端末で着信を受けたい場合はコマンド操作によって、どの端末で着信を受けたいかを変更することも可能だ。



日本でデータ通信端末を利用する場合は専用プランに加入すれば大幅に安いパケット料金で利用できる。一方海外ではデータ通信端末専用プランといったものが無く、単純なデータ通信用の割引プランがあり、それを音声通話契約に付加できる通信キャリアが多い。日本ではFOMAの音声プランとデータプランは同時に加入ができないが、海外ではそのような組み合わせが可能なキャリアが多いというわけだ。このためマルチSIMカードサービスを利用して、携帯電話とPCカード型端末の両方を安いパケット料金で利用することができるということになる。

普通の携帯電話、メールに適したスマートフォン、ノートPC用のデータカード、ちょっと見せびらかしたいブランド携帯、など複数の端末を所有していても1契約で同時に利用できる




■一人複数台の利用促進に最適

日本では携帯電話の高機能化が年々加速化しており、今やフル機能を詰め込んだ“重戦車”的な端末も多数存在している。しかしそれにより端末サイズの大型化や操作の複雑化、電池の持続時間の減少など、使い勝手が低下してしまうこともあるようだ。またメールと通話利用だけでよければ“機能より外観”ということで、そこそこの機能を持ちながらデザインに優れた端末を選ぶユーザーも増えてくるだろう。日本は基本料金が高く、“1人1台”持つことを前提とした料金システムとなっている。日本でもマルチSIMカードサービスが導入されれば、高機能端末とファッション端末2台を常時持ち歩き、利用シーンによって使い分けるといった新しい使い方をするユーザーも出てくるだろう。



もちろん通信キャリアにしてみれば2回線契約を取れるところを1回線しか取れないことになってしまうが、2台利用するユーザーは“1台目の電池が切れてしまっても、もう1台でメールや通話”ができるため、携帯電話そのものを利用する時間が現在より増えるのではないだろうか。またマルチSIMカードサービスは、複数回線の同時利用も可能なので、昼休みに公園のベンチでワンセグを見ながら別の携帯でメールをするといった使い方もできるわけだ。



便利さはわかっても、日本では多くの人にとってはマルチSIMカードサービスの需要は感じられないかもしれない。おそらく現時点でマルチSIMカードサービスの登場を望んでいるのはイー・モバイルの利用者ではないだろうか。スマートフォン/PDA端末であるEM・ONEとCFカードやUSBタイプのデータ通信端末の両方を所有し、スマートフォンからも、ノートPCからもパケット定額で利用したい場合は2回線の契約を行うか、1回線契約で端末を2台用意してSIMカード(EM chip)を差し替えて利用しなくてはならないからだ。



マルチSIMカードサービスが提供されれば回線契約1つだけで両方の端末が利用でき、ユーザーの利便性は大きく高まる。将来音声サービスを開始した場合でも、マルチSIMカードサービスを導入すれば現在のデータ通信利用ユーザーをスムースに音声サービス利用へ導くことも可能になるだろう。複数の端末を利用するユーザーのために、日本でもマルチSIMカードサービスの導入をぜひ検討してもらいたいものだ。



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山根康宏

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