1台の携帯電話で2つの電話番号とメールアドレスが利用できるNTTドコモの「2in1」サービスは"仕事とプライベート"、"メイン用とサブ用”など、電話番号を複数利用したい利用者には便利なサービスだ。諸外国でも同様のサービスはあるが、中国には別の方法でそのサービスを実現する携帯電話が存在するのだ。




■海外にもある"2in1"サービス

"1台の携帯電話で2つの電話番号を利用したい"という需要は海外にも存在する。NTTドコモの2in1サービスは今年始まったばかりだが、数年前から同様のサービスを提供している海外キャリアも多い。利用できるサービスは音声通話とSMSで、日本とは違いメールの利用には対応していない。これは海外では携帯キャリアメールを使うことがほとんどなく、SMSで事足りるため実用上これで十分なのだろう。



この海外版2in1サービスは、どの端末でも利用できる。サービスの利用はコマンド操作、すなわち特定の番号を送信することでコントロールできるのだ。たとえば香港CSLの2番号サービス"Mult-Number Service"では、サービスの開始は"*133#00#"、停止は"*133*00#"に電話をかければよい。2つめの番号だけを留守番電話にしたり、転送したり、サービスの利用状況の確認もすべて同様に"*133"ではじまる番号に電話をかけるだけと、サービスの利用は番号操作ですべて行うことができる。また発信時は2つめの電話番号からかけるときのみ最初に"*02"をつけて発信すればよい。たとえば9876-5432に電話をかける場合は、"98765432"とかければメインの1つめの電話番号からの発信となり、"*0298765432"とかければ2つめの電話番号からの発信となるわけだ。



このように海外版の2in1サービスは携帯キャリアのセンター側でサービスを提供しており、利用する端末を選ばない。市販のどの端末、例えば数年前の古い端末でも利用可能なのだ。一方ドコモのサービスは端末の固有機能となっており、現在は904iシリーズのみしか利用できない。もちろん端末固有機能とすることで2in1機能を携帯電話のメニューから操作できるメリットはあるが、海外のように「どの端末でも利用できる」というサービス形態もユーザーフレンドリーではないだろうか。
海外でもドコモ同様の2in1サービスを提供するキャリアがある




■2枚のSIMカードが同時利用できる中国の携帯電話

一方中国では2in1ではなく、電話番号の記憶されたSIMカードそのものを2枚利用できる"デュアルSIMカード対応端末"が販売されている。1台の携帯電話で2つの電話番号が利用でき、もちろん待ち受けは同時だ。携帯電話の待ち受け画面にはアンテナマークが2つ表示され、また携帯キャリア名も2つ表示される。すなわち2台の携帯電話をそのまま1台に融合した端末なのだ。発信キーは通常の緑色のボタンの他に青いボタンや"2"と記載されたボタンがあり、そちらを使って発信すれば2番目のSIMカードの電話番号から発信される仕組みだ。なお同時待ち受けは可能だが同時着信はできず、通話中にもう1枚のSIMカードの電話番号に電話がかかってきた場合は話し中となる。



最初にデュアルSIMカード対応端末販売を開始したのは中国2位の携帯キャリア、中国聯通/China Unicom(チャイナユニコム)である。同社は中国内でCDMAとGSM、2方式のサービスを行っているが、CDMAにリソースを注力しておりコンテンツ配信など先進的なサービスはCDMA方式のみで提供している。ただし顧客の大半はGSM方式を利用していることや、CDMA方式では国際ローミングエリアが狭いなどの弱点があることから、顧客のCDMA利用促進やCDMAサービスの強化を狙い、両方式を1台で利用できる端末を開発。2004年春から「世界風」という名称でサービスを開始した。世界風対応端末はCDMAとGSM、2つの携帯電話ユニットを搭載しており、それぞれのSIMカードを1枚ずつ、すなわち2枚のSIMカードを装着可能である。またSIMロックはかけられておらず、たとえばもう1枚のSIMカードにライバルキャリアである中国移動/China Mobile(チャイナモバイル)のGSMサービスのものを利用することもできる。
世界風対応端末には専用のロゴプリントされると共に、画面にはアンテナマークが2本立っている(写真はモックアップ)




ライバルキャリアのSIMカードが利用できることは一見すると自社の利益を損ねるように感じられる。しかしこのデュアルサービスは1枚のSIMカードは必ず自社CDMAのものを利用することになる。もう1枚のSIMカードに自社GSMのものを利用してもらえばより収益増につながることはもちろんだが、中国移動のGSM SIMカードを利用できるということは、逆に言えばライバルの顧客を取り込むことも可能になるのだ。ユーザーにとっても自分の利用状況に応じて2種類のSIMカード、もしくは2社のキャリアを使い分けられるわるメリットがあり、この利便性からビジネスユーザーを中心に利用者が増えているとのことだ。




この世界風とは別に、この1-2年の動きとして中国内の中小メーカーも同様の"デュアルSIMカード対応"端末を続々と発売している。ただしこちらはGSMのデュアル端末で、キャリアとは無関係に各メーカーから発売されている。1台の端末内にGSM携帯電話ユニットが2つ搭載されており、挿入した2枚のSIMカードで同時待ち受けできるようになっている。もちろんSIMカードごとに音声通話やSMSを利用したり、電話帳を分けることもできる。2つの電話番号の組み合わせはSIMカードを入れ替えるだけであるから自由自在であり、通信キャリアに別途サービスを申し込む必要もない。また海外渡航時も自国のメインSIMカードと現地のSIMカードを両方同時に利用できるため利便性は高い。キワモノ製品のようにみえるが、実はしっかりした実用性を備えているのだ。

 

大手メーカーからはまだこのようなGSM端末はほとんどなく、これらは中小メーカー製品が中心となっている。これには中国携帯電話メーカーの乱立という背景がある。中国の携帯電話の生産は、2005年2月からそれまでのライセンス制を廃止し認可制となった。以来メーカー数が急増する一方で、中国内での中国メーカーのマーケットシェアは年々減少し現在では3-4割程度にまで落ち込んでいる。このためブランド力や技術力に長けている大手メーカー以外は、低価格化や大手メーカーにない機能の搭載による差別化を行う必要性に迫られることになってしまった。その差別化の一つの答えが、このデュアルSIMカード対応端末なのだ。
バッテリーをはずすと、SIMカード挿入口が2つ用意されている。ここに2種類のSIMカードを装着可能待ち受け画面左上にはアンテナマークが2つ。また画面中央上には通信キャリア名が2段で表示されている




当初は大手メーカーとの差別化として搭載されたこの機能も、続々と端末が登場していることから市場では一定の評価を受けているようだ。中国は国土が広く、地域を移動して携帯電話を利用すれば国内ローミング料金となり、通話料は割高となる。また同一地域内でもプランにより受信無料や発信が安い、などの料金が複数存在している。このため2枚のSIMカードを常時利用することで利用料金をより安く上げることも可能になるのだ。また日本のように携帯料金にインセンティブといった見えない料金が含まれていないため、基本料金や通話料金も安く手軽に2枚目のSIMカードを所有することもできる。"2つの電話番号を使いたければ2つの携帯電話を1台に入れてしまえばよい"という逆転の発想ともいえるこの端末、インセンティブ制度の変更やメーカーブランド端末が発売されるようになれば、いつかは日本での登場もあるかもしれない。





■これもオススメ!海外モバイル通信コラム

"世界で勝つケータイメーカー!PRADA携帯をしかけた"LG電子"躍進の秘密

売れる海外ケータイの秘密!ユーザーニーズに対応できない日本

ドコモは世界に反撃できるか? 海外でiモードは普及するのか?

"日本のケータイビジネスはぬるい?激烈な海外の新製品発表競争と格差

びっくりケータイ集合!こんなものまであるのか?中国面白携帯事情





山根康宏

著者サイト「山根康宏WEBサイト」

Copyright 2007 livedoor. All rights reserved.