携帯電話のパソコン化がますます進んでいる一方で、よりパソコンライクなスマートフォンが日本でも増えてきている。2005年12月にウィルコムから発売されたシャープ製「W-ZERO3」を皮切りに、徐々にではあるが機種数も増えてきており、この夏もウィルコムからはシャープ製「Advanced/W-ZERO3 [es]」、ソフトバンクモバイルからHTC製「X02HT」や東芝製「X01T」が発売される予定だ。今回は、そんなスマートフォンの現状と課題について考えてみたいと思う。



■Windows Mobile 6がリリースされ、スマートフォンも多様化へ

スマートフォンとは、定義によりいろいろ表現することができるので、明確に分け目を決めることは難しい。筆者は主にユーザーやサードパーティなどが、操作性などや基本機能を追加アプリケーションよって大きく変更できるかどうかといったあたりがポイントだと思っている。ただ、このポイントに従うとこの夏にアメリカで発売されたApple製「iPhone」はスマートフォンに含まれないことになる。しかし、iPhoneはスマートフォンと表記されることが多い。そのくらいアバウトなものであるのである。ここではケータイをよりパソコンに近づけた多機能なモバイル端末くらいとしておこう。



こういったスマートフォンは、海外では主にビジネスユーザーを中心として、エグゼクティブなコンシューマユーザーなどに広がりを見せており、携帯電話市場のうち3~5%程度のシェアまで伸びてきている。魅力は、パソコンのようなマルチタスクでいくつもの機能を同時に扱えたり、パソコンとの親和性が高いこと、パソコンのようなQWERTY配列のフルキーボードが搭載されていることにより入力がしやすいなど、いくつもの特徴やメリットが挙げられるだろう。



ウィルコムのスマートフォン「Advanced/W-ZERO3 [es]」



日本でも、ウィルコム「W-ZERO3シリーズ」を筆頭に数機種が登場。まだシェアでは1%に満たないようだが、少しずつ認知度も上がってきている。特に、海外のスマートフォンがW-CDMAなど"3G"に対応してきたことから、W-CDMAを採用しているNTTドコモやソフトバンクで使える機種が増えてきている。この夏も国内向けとして新しく東芝が「X01T」で参入し、「X02HT」を投入するHTCはメーカーブランドとして別途「HTC P3600」および「HTC X7501」も発売する予定だ。これらのP3600やX7501は"SIMフリー"でもあり、購入後、SIMカードを持っていれば、NTTドコモとしてもソフトバンクとしても利用できるメリットがある。



また、機種数もさることながらスタイルや形状も多様化してきている。形状では、W-ZEOR3シリーズのような横にスライドしてQWERTYキーボードが出てくる機種が多いが、W-ZERO3 [es]シリーズのようにダイヤルキーをつけてケータイに近づけたものや「X02HT」のようにBlackberryタイプのようなものも出てきた。また、OSとしてはマイクロソフトからWindows Mobile 6がリリースされたことで目立ってはいるが、企業向けも含めればBlackberryの日本語版も登場してきている。ただ、705NKのようにNokiaのS60などを採用したモデルが継続して発売されているものの、SymbianやLinuxを使ったスマートフォンが少ないのは残念なところではある。



ソフトバンク「X01T」ソフトバンク「X02HT」



■ついにKDDIもau向けにスマートフォン投入を表明

こういった状況の中、auの夏モデルが発表された2007年5月22日にKDDI執行役員 コンシューマ事業統轄本部長の高橋誠氏から、au向けにスマートフォンを開発中であることが公言された。KDDIがこれまでスマートフォンを発売してこなかった理由としては、通信方式の問題やBREWにより企業向けには他社よりも柔軟なアプリケーションをカスタマイズすることができることや、現状でau向けの携帯電話事業が好調であったということが考えられる。しかしながら、端末ができていない段階で公表したということは、他社や市場でのスマートフォンのニーズを把握し、auも選択肢に入れるように牽制したようにもとれる。まだ、どういった機種かはまったくわからないが、アメリカでは周波数帯こそ違うが同じCDMA 1X方式を使ったPalm製「Treo650」なども発売されているだけに、いろいろと憶測と期待が膨らみそうだ。

■スマートフォンはどこまで広がるのか?普及への課題はなにか

日本でスマートフォンが立ち遅れたのは、よく言われている高機能な携帯電話がすでに主流となっていたということに加え、ビジネス市場が立ち遅れたことにも起因しているだろう。今後、ビジネス市場が広がっていくにつれ、国内でも海外と同様のシェア程度まではスマートフォンは広がっていきそうだ。ただし、さらに拡大するかどうかには、コンシューマ市場でどこまで受け入れられるかにかかってくるだろう。そうなってくると、やはり現状のスマートフォンの操作性には疑問の残るところも多い。



現状のスマートフォンの課題として、操作性の問題がある。すでに日本のユーザーはケータイの操作性に慣れており、パソコンライクなスマートフォンの操作には戸惑いを感じてしまうことが多いだろう。また、特に日本ではスマートフォンの主流OSとなってきているWindows Mobileにおいては、ユーザーインターフェースの完成度はまだ低いといったこともある。これらはアプリケーションを追加することによって解消できることも多いが、購入後そういったカスタマイズをするユーザーは少ないのが現状だ。これは現在のパソコン環境が抱えている問題とも共通することだと思われるが、クリアしなければならない大きな課題のひとつだろう。



■スマートフォンの利用動向と料金体系を考える

もうひとつ挙げておきたい問題点としては、料金体系の問題だ。ウィルコムのW-ZERO3シリーズが引き続き売れているのは、デザインや使いやすさが改善されているだけではなく、やはり月額基本料金が安いという側面もあるはずだ。



ウィルコムでは、パソコン向けデータ通信サービス「AIR-EDGE」を早くから導入しており、無線容量に余裕がある。そのため、スマートフォンだろうと通常の音声機種だろうとパケット定額オプションも含め料金体系は同じだ。しかしながら、他社のソフトバンクやNTTドコモでは、料金プランこそ同じだが、パケット定額オプションについてはスマートフォン向けの料金となってしまう。今でこそ、スマートフォンでもパケット定額オプションが用意されているが、それでも通常音声機種のパケット定額オプションと比べると割高となっているのだ。



もちろん、それだけの通信量や価値を見出せれば問題ないとは思うが、スマートフォンだからといってパケット通信量が多いとは限らない。特に、着うたフルや着モーションなどのマルチメディアコンテンツを扱うようになった通常音声機種のヘビーユーザーは通信量がかなり多いはずである。もちろん、スマートフォンならP2Pアプリケーションなども利用可能であり、どんな使われ方をするかわからないという点でパケット通信料に多少の保険をかけておくことは理解できなくもないが、普通に利用しているユーザーにとっては、このリスク回避の割高料金は"マイナス"だと思われる。



回線サービスへの保険という意味では、すでにauにはEZアプリを使った1日の通信量が3Mバイト(もしくは6Mバイト)に制限が設けられており、NTTドコモにしても通信が集中する時間・場所では通信速度を制限するなどの規制を行っている。こういった規制を設ける代わりに安くなるほうがいいのか、規制がないまま高いほうがいいのかは難しいところだろう。



このように、いくつか課題を抱えているスマートフォンが、今後どのように課題を克服して広がっていくかは楽しみではある。特に、スマートフォンを投入すると公表し、マイクロソフトといち早くFMCにおけるSaaSに関する契約を行ったKDDIがどうスマートフォンという商品をパッケージングしてくるかは非常に興味深いところだ。



各通信事業社におけるスマートフォンでの料金プラン概要
通信事業社月額料金プランパケット定額オプション
NTTドコモタイプSS
3,402円
Biz・ホーダイ
5,985円
ソフトバンクホワイトプラン
980円
パケットし放題(PCサイトダイレクト)
10,290円
ブループラン
3,213円
パケット定額Biz
5,985円
ウィルコムウィルコム定額プラン
2,900円
データ定額
1,050~3,800円
リアルインターネットプラス
2,100円





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memn0ck(めむのっく)

ケータイ・モバイルライター。個人ニュースサイト「memn0ck(http://memn0ck.com/)」にて、日夜、携帯電話から無線LANサービスまでのモバイルデータ通信サービスについてのニュースを追っている。日常は白衣を着た理系野郎。1976年東京生まれ。著書に「W-ZERO3 [es] パワーナビゲーター」(技術評論社)などがある。



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