最新のWindows Mobile 6.0を搭載したスマートフォン"アドエス"ことAdvanced/W-ZERO3[es]や、薄型端末9(nine)などが好調なウィルコム。国内では他のPHSキャリアがサービス停止に動く中、W-SIMや次世代PHSの開発を行うなど"国内唯一"のPHSキャリアとして孤軍奮闘している。日本の技術により開発されたPHSは海外でも採用されているが、最近は海外のPHS動向のニュースはあまり聞かれなくなっている。では海外のPHSの現状はどうなっているのだろうか? PHSの活発な台湾と中国の例を見てみよう。



■「GSMとのデュアル化と健康志向」-次の一手が見つからない台湾

台湾では2001年から"大衆電信"がPHSサービスを提供している。2006年末の加入者数は約130万で、サービス開始から着々とユーザー数を伸ばしている。しかしすでに台湾は携帯電話加入率が100%を超えており、今後の成長は予断を許さない状況だ。



台湾のPHSは「日本の最新技術」を目玉にサービスが開始された。2001年当時、まだGSM携帯電話市場にはカラー画面を採用した端末は少なく高価であり、デザインも垢抜けないものばかりだった。一方PHSは日本のカメラ付き端末を投入。もちろん画面はカラーで折りたたみ式のスタイルは当時最新のデザインだった。端末価格も固定契約により安価に設定され、基本料金無料、着信無料(携帯電話は着信有料)など携帯電話より安価に高機能端末を利用できる最新サービスであった。



台湾のPHSのサービス開始当初はGSMより高機能・安価な端末が特徴だった



しかしGSM携帯電話の性能は毎年のように向上し、数年でPHSを追い越してしまう。日本ローミングがPHSの利点の一つでもあったが、これもW-CDMAサービスの開始により今では多くの携帯電話がそのまま日本での利用に対応するようになった。主要都市部のみのサービスエリアをカバーするため、2004年に投入した業界初の「GSM+PHSデュアル端末」はヒットしたものの、それ以降は端末機能の大幅な向上は見られていない。また日本メーカーの端末に代わって主力は台湾メーカー品となり、端末の目新しさも欠けてしまっている。



現在、台湾のPHSは上位機種がGSMとのデュアル端末となっており、これ1台でほぼ全世界での利用を実現している。日本ではウィルコム回線を利用したローミング、それ以外の国では別途利用者が用意する別のGSMキャリアのSIMカードを使い、そのキャリアの国際ローミングエリアで利用できるというわけだ。台湾内ではPHSとGSMの同時待ち受けが可能であり、着信無料なことから「発信はGSM携帯、着信はPHS端末」と使い分ける利用者も多かったが、デュアル端末であれば、それが1台で済む。また常時PHSのデュアル端末を携帯していれば、発信時もGSMではなくPHSを利用する機会も増え、収益増に繋がっているようである。



一方でベーシックなローエンド機種は、PHSの弱電磁波をアピールした「健康にやさしい」端末として児童や年配者などをターゲットに販売を行っている。裏を返せば機能や価格で同じレベルの携帯電話と差別化できなくなってしまっているということだろう。もちろん電磁波を気にする利用者には一定の支持を得ているのは事実だが、多くの消費者の目を惹き付けるまでには至っていない。



PHSのウリは低価格&健康志向



サービス開始時に基本料金無料を売りにしたためか、その後、基本料金を有料化しても限定的な無料キャンペーンを行ったり、基本料金で端末代金をカバーできるプランを提供せざるを得ないなど、安価なPHSというイメージから脱却することも難しいようだ。将来PHSの高速データ通信が実現化されたとしても、すでに現時点でHSDPAが安価で携帯キャリアから定額提供されていることや、台湾では国を挙げての無線LANホットスポットの推進を進めていることなどから、PHSの進化によりARPU(事業者の1契約あたりの売上額)を上げるといったことは難しいだろう。"次の新しい一手が打ち出せない"、これが台湾のPHSの現状ではないだろうか。

■「3G解禁までの運命か」-加入者が頭打ちになった中国

中国のPHSは小霊通(Xiao Ling Tong/シャオ・リン・トン)の名称で1998年からサービスが開始されている。中国では携帯電話を"中国移動"、"中国聯通"の2社が全国サービスしているのに対し、固定電話は北京や上海など北部エリアを中国網通、広州など南部を中国電信がサービスしている。すなわち固定2社はNTT東日本、西日本のように中国内を2分した地域別の会社である。固定キャリアは携帯電話ライセンスを持っておらず、小霊通はあくまでも「家庭のコードレス電話をそのまま外にも持ち運べる」という、PHSの基本コンセプトそのもののサービスという位置づけとなっており、加入者数なども固定電話と同一のものとしてカウントされている。



中国の小霊通はユーザー数約9000万と世界のPHS加入者数のほぼ9割を占めるまでに成長している。成長の背景は、携帯電話が発着信課金であるのに対し、小霊通は発信側だけの片側課金であること、通話単価が安いこと、農村部などでは各家庭に固定回線を引くことに時間や費用がかかるが小霊通ならば買ったその場で利用開始できること、などが挙げられる。また加入者増に伴い中国メーカーが続々と端末市場に参入し、安価な端末が多数発売されるようにもなったことも普及を後押しした。



しかし小霊通の成長を携帯キャリアは黙って見てはいなかった。料金の値下げや課金方式の単方向化を小霊通がサービスされているエリアを中心に開始するなど、今では両社の料金や使い勝手の差は大きく縮まっている。また農村部などへも携帯キャリアが積極的に開拓を行っており、"都市部は携帯が強く、地方は小霊通が強い"という図式も成り立たなくなってきている。都市間ローミングの切り札として登場した小霊通用SIMカード"PIMカード"も加入者増には寄与できていないようだ。このため右肩上がりで成長していた小霊通加入者数も2006年12月には初めて減少に転じている。それに合わせてか、端末の生産台数も大幅減が続いている。



2005年10月から中国の小霊通は原則としてPIMカード方式になっている。サイズはSIMカードと同一でGSM/W-CDMA携帯電話同様、端末にPIMカードを入れ替えて利用できる



来年の北京オリンピックのころには開始されるであろう、中国独自の3Gシステム「TD-SCDMA」が始まると小霊通の位置づけはさらに厳しいものになる。TD-SCDMAは3Gであるが最新の高度なサービスだけを提供するものではない。中国メーカーが多額のライセンス料を国外に支払うことなく端末を製造できるようになることから、普及レベルの端末が多数市場に登場することが予想される。TD-SCDMAには固定キャリアにも免許が下りることが予想されており、そうなれば都市毎にサービスしていた小霊通を、全国均一に安価な端末でサービスのできるTD-SCDMAが駆逐してしまう可能性もありうるのだ。



海外の展示会でサンプル出展される中国メーカーのTD-SCDMA端末。ハイエンドばかりではなくエントリー向けモデルも多数用意されている



■PHSの進化は日本だけで進むのか

このように台湾も中国も現在のPHSの位置づけは「携帯電話より安価なサービス」である。たとえ高機能化や高度なサービスを提供しようにも、そこには携帯電話との熾烈な競争が待っている。たとえば台湾メーカーが発売した中国向けのMP3プレーヤー型最新小霊通端末を中国の街中の販売店で見かけることはない。これは高機能で高価な小霊通端末を買うユーザーは携帯電話を買ってしまうからであり、メーカーが発売していても販売店が取り扱わないのだ。日本のように携帯電話とPHSが微妙な棲み分けをしている国は少なく、海外では携帯もPHSも同じ無線電話システムとして直接的なライバル関係にあるケースが多い。また海外では他にもPHS導入を思案中の国があるようだが、いずれの国もコストのかからない安価なシステムとしてのPHSに期待している。



この海外の現状を見ると、日本国内で進化するPHS技術は今後ますます海外のニーズとは離れたものになってしまうのかもしれない。もちろん技術革新は必要なことだが、ウィルコムの開発したW-SIMにしても、それに対応する端末を作るメーカーが海外には存在しないため海外で展開される可能性は少ないだろう。日本国内での競争が厳しく海外市場を見る余裕はウィルコムには無いかもしれないが、せっかく海外で採用された日本の技術をさらに発展させる道をぜひ模索してもらいたいものだ。





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山根康宏

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