愛車を自分好みにカスタム(改造)したいという気持ちは、カーオーナーならば誰しもが持つ普遍的な感情です。普通はクルマをより「格好よく」するために、ホイールを換えたり、車高を低くしたり、エアロを装着したり、車体の色を塗り替えたりします。そうすることでノーマル仕様にはない、"自分だけの車"という満足感を得ているのです。



車のカスタムといえば、走りのためのチューニングは『よろしくメカドック』など、コミックやアニメにもなっておりますが、実際の改造などは、車好きなオーナーだけのものと思っていませんか?



最近、そういった文化をアキバ系オーナーが独自の形で継承・発展させているのをご存じでしょうか。それは、愛車をあえて「痛く」する「痛車(いたしゃ)」というアキバ系らしい?カスタム・ムーブメントです。



痛車という呼称は「痛い車」という意味から来ています(イタリア車の「イタ車」という略称にもかけられています)。ゲームやアニメに登場する美少女キャラが、スポーツカー(※1)やミニバンに堂々と描かれている様は、泣く子も黙り、アキバ系が微笑むインパクトがあります。アキバ系に理解のない人にとっては、思考が停止してしまうかもしれませんし、痛々しくて逆に笑えるかもしれません。いずれにせよ、免疫を持ってない人々にとっては想像を絶する「痛い」存在であることは間違いないでしょう。



※1 痛車におけるスポーツカー:痛車はベースがスポーツカーという場合が非常に多い。現在確認されている車種には「ユーノスロードスター」「RX-7」「フェアレディZ」「ランサーエボリューションIV」「シルビア」「インプレッサ」「スカイラインGT-R」などがある。



オーナー側もそう思われることは百も承知。その上で自分たちを「痛車乗り」と呼んでいるのですから、なんとも"アッパレ"な心がけです。それなりの覚悟がなければ、マニアックな萌えキャラで車体を飾り立てるといった芸当はできないのかも知れません。





痛車オーナーには、単にアニメやゲームが好きといった以上に「好きなものは好きだからしょうがない」的な、過剰なパッションが必要とされます。故に取り上げる元ネタも濃いものが多く、アニメだと『魔法少女リリカルなのは』『ローゼンメイデン』『涼宮ハルヒの憂鬱』などのキャラクターが人気になっているようです。



ちなみに、一般にも知られている『ガンダム』『ドラゴンボール』『ルパン三世』といったメジャーものはどうかというと、現状ではほぼ見られません。これは、メジャーすぎると"痛さ"が薄まって、単にアニメ絵を描いた「アニメ車」にしかならない危険性があるからだと思われます。実際、私が以前エアブラシで『ドラゴンボール』が描かれたミニバンを見た時には、悟空ぐらいメジャーだと「まあアリなのかな」と思えてしまい、痛さは特に感じませんでした(※2)。



※2 『ドラゴンボール』のミニバン:ちなみに見かけた場所は某観光地の広い駐車場で、何かの集会だったのらしく、同タイプの派手なクルマが大集結。エアブラシものは、他にもミッ●ーマ●ス、ナウシカ、浜崎あゆみ、森高千里などが確認できました。感覚的にはデコトラに描かれる歌舞伎絵が変化したような感じに近かったです。オーナーの皆さんは頭髪のブリーチ率が妙に高く、なんとなく元ヤンの香りを放っていました(余談)。



また、自分が応援しなくても十分メジャーなモノではなく、ブレイク前のB級アイドルに夢中になるファン気質にも似た心理が働いているようにも思えます。痛車オーナーにとって最も重要なのは、自分の中の"萌え"が深くて濃いということです。そうでなければ愛車を痛くすることに没頭できるはずがないのです。





さて、痛車に使われるゲームは『水月』『AIR』『SHUFFLE!』といった、泣けたり萌えたりできる18禁エロゲーが人気です。ちなみに元ネタはエロゲーですが、痛車に描かれる場合、エロ要素はパンチラ程度がMAXで、裸は一切ありません。ちゃんと可愛い服を着ていて、水着ですら珍しい部類となっています。純粋にキャラに萌えられるゲームにとって「18禁エロ」という謳い文句は、弱小メーカーがソフトを世に出すための飾りにすぎないのです(ここ重要)。偉い人にはそれがわからんのですよ!



ここで、具体的な車体のカスタム方法にも触れてみましょう。

王道は、切り絵の要領でカッティングシートからくり抜いて貼るのと、カラープリントで画像出力したステッカーを貼るという2つの方法です。中にはエアブラシで塗装したり、キャラ絵をマグネットで貼り付ける手法を取るオーナーもいます。塗装はプリント出力のステッカーには出せない質感が魅力で、あこがれる痛車オーナーも多いようです。



内装にもいろいろな工夫が見られます。助手席に萌えキャラが印刷された抱き枕用シーツを被せたり(デート気分を満喫?)、液晶モニタをリアに装着してアニメを流したり(車内で引きこもれる)、ぬいぐるみなどの各種グッズを車内に置きまくったり(キャラに囲まれるハーレムな幸せ)、コスプレ衣装を飾ったり(ほぼ観賞用)と、こちらも随所にこだわりを感じさせてくれます。



最近は痛車の認知度も上がってきたので、ネットや雑誌で痛車の画像を見ることも珍しくはなくなってきました。ですが、やはり痛車は"直接出会う"ことにサイコーの醍醐味があると思います。私が初めて痛車に出会ったのは、確か秋葉原の「LAOX ザ・コンピューター館」前でしたが、取材で終電に遅れた深夜にも関わらず、もの凄い勢いで写メったのを今でもはっきり覚えています(2年くらい前)。リアルで見る痛車は一味違うのです。愛車を痛くしたいと考えている人は、とにかく一度痛車と出会うことをオススメしておきます。



まだまだ始まったばかりに見える痛車ですが、昔からこうした趣味を持った人はいたようで、いくつか伝説や逸話も残っています。

私が知っているのは、1980年代、当時アニメファンの間で大流行した『魔法のプリンセスミンキーモモ』の主人公・モモの絵を描いたピンク色のスポーツカーが、走り屋が集まる関東方面の峠に出没していたという話です。オーナーのドライブテクニックもかなり高く、異常に目立つクルマの外観も手伝って、走り屋の中では語りぐさになったんだとか。



都市伝説的なエピソードですが、当時のアニメファンの熱狂ぶりを考えると、あってもおかしくない妙なリアリティがあります。本当ならば、今とは比較にならない衝撃があったことでしょう。痛車の未来は混沌としていて見えない部分が多いのですが、今後は80年代の"峠のモモカー"のような伝説として語り継がれるマシンの出現に期待したいところです。ただし、今どき暴走する痛車というのは別の意味で痛くて危険なので、安全運転厳守でお願いしますね。カオスな21世紀、お気に入りのキャラと駆ける「痛車オーナー」に幸あれ。



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レッド中尉(れっど・ちゅうい)

プロフィール:東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。


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