写真は、身近な記憶や記録を保存する道具として近代で成功したものの一つだ。
個人的な記憶や記念に始まり純粋なアート制作から、広告や報道といった情報素材にいたるまで、様々な使われ方をしている。

特に広告などにおける写真の存在は、今や必要不可欠なものといってもいいだろう。
しかし、最近の広告写真には、完成度は高いが、以前のような革新的なパワーや面白さを感じないという声も聞くようになった。

果たして、広告写真の魅力は失われてしまったのだろうか?

そんな疑問に対する回答の一つが、リコーフォトギャラリーRING CUBEで開催されている「GR DIGITAL 広告写真企画 作品展」で見ることができる。

「GR DIGITAL 広告写真企画 作品展」は、1月26日に開催された若手写真家の祭典「PHOTOGRAPHERS SUMMIT 6」において行われた「GR DIGITAL 広告写真企画」での出展作品を展示したものだ。「GR DIGITAL 広告写真対決」は、リコーのデジタルカメラ「GR DIGITAL」の広告写真というテーマのもと、プロの写真家3名の作品と全国より多数応募された一般公募作品の中から選ばれたグランプリ作品が対決する企画だ。

クライアントなどの制約を外し、いわばフルスロットルで広告写真に取り組むと、どのような世界が開けるのか、この企画の一番興味深いポイントがそこにある。

今回の写真展開催にあたり、「PHOTOGRAPHERS SUMMIT」代表でもある写真家・山田敦士氏と、出展したクリエイターの方々にお話を伺った。

■表現者としての写真家のパワーを 山田敦士氏

フォトグラファーズ・サミットは、元々写真家同士が、自身で撮影したポートフォリオ(作品ファイル)を持ち寄って見せ合うような、小さな集まりだったんです。そのうち、自分たちの作品をプレゼンテーションしあうようになって、段々と輪が大きくなっていきました。

「広告写真」というのは、元々広告のコンセプトや目的に合わせプランニングされ、効果測定されていく。僕たち写真家は、この過程で「選別」されていくわけですが、表現者が主体となり、新しい流れとして "写真とは何か"を発信したい、という思いでサミットを開催しています。

「GR DIGITAL広告写真企画」においては、「広告写真」という領域に一石を投じたい、というささやかな思いで、そもそも「広告」を出していないリコーのデジタルカメラ「GR DIGITAL」について、あえて「広告」にするとしたら、という自由なテーマで、いままでになかったような広告表現を競いあってもらいました。

デジタル化が進み、誰にでも撮りやすくなった一方で、「写真」の持っている力そのものが弱まっているのではないか、という危機感があります。プロの写真家の作品はこれです、というように、何らかのムーブメントにつなげていければと思っています。

■鈴木孝俊×三和和彦[ファイナルグランプリ]

今回の広告写真企画のテーマ「GR DIGITAL」の最大のメリットである「携帯性」「デザイン」「高画質」にポイントを絞り、一目でその商品性が伝わるものを制作しようと考えました。ただし、いわゆる綺麗なだけの広告を作ったのではフォトグラファーズ・サミットの意味がない。通常の広告ではありえないような、商品をモデルに埋め込み一体化させるなどといった危険な表現に踏み込んだのは、商品のアピールだけではなく、その裏にメッセージを込めたかったからです。

現代社会の「痛み」、そして痛みがあるからこそより輝く「希望」。それは「人生を丸ごと写し撮るような、いつでもどこでも持ち歩ける高画質カメラ」というGR DIGITALのキーコンセプトとも相通じるものであると私たちは考え、このような広告作品を制作するに至りました。

■行貝チヱ×ピート小林×小野寺健介

今回の作品は、「GR DIGITAL」の気軽にスナップできる携帯性と、日常ほどファンタジックなものはないというドキュメンタリー性をテーマにしています。混沌とする世界の中で何を信じて生きていけばいいのか迷いながらも、よくわからないけどなんか"すごい"と思えるものにとにかくシャッターを押すことで自由に表現し、答えを見つけるヒントにできる、それがGRであったらいいなという思いを込めました。目の前の現実を信頼する力、スナッピングする力、生命力などを感じていただければと思います。

サミットで発表したものを、写真展として多くの方にご覧いただけるのは非常にうれしいです。ふらっと立ち寄った人に何かのきっかけになればと思います。

■関川裕太×中田輝昭

普段広告写真ではできない、"ネガティブキャンペーン"という手法にチャレンジしてみました。地球が大きな津波に飲み込まれて沈み行く最後の瞬間まで、銀座のリコーフォトギャラリー「RING CUBE」が残っているという、「リコー不滅」というテーマと、その瞬間までGRを持って撮影しているという、GRの再現力というものを描いています。レタッチャーをクリエイターとして前面に出したいという思いがあり、あえて合成が見え見えの写真を作ってわかりやすくしました。

日本の広告業界でも、"ネガティブキャンペーン"のようなチャレンジングな表現方法が是非広がっていって欲しいと思いますし、是非多くの方に見ていただいて理解を深めていただければと思います。」

■若松浩司 [一般公募グランプリ]



『RICOH AWARD 2010』写真家としての活動を支援する公募展を開催へ

2010年8月30日(月)に渋谷O-EASTにて『フォトグラファーズ・サミット7』が開催されることが決定した。
『フォトグラファーズ・サミット7』では、写真家として作品を制作している作家を支援する目的から「アートとしての写真」をテーマとした公募展が開催される。
・応募作品の撮影機種メーカーは問わず。
・応募作品は、プリントのみ。
・応募期限は8月1日必着。

応募作品の中からWEBでの選考で選ばれたファイナリスト14名が、2010年8月30日(月)『フォトグラファーズ・サミット7』に招待され、イベント内にて優秀作品が発表される。

優秀作品は、RING CUBE 9Fスペースにて展示されるほか、副賞としてリコーデジタルカメラGXRをはじめとする豪華賞品がプレゼントされる。

■フォトグラファーズ・サミットとは?
写真をより身近に感じ、アートとして昇華していくための実験的、野心的なプロジェクト。
新進気鋭のフォトグラファーたちが大型スクリーンを使ったスライドショーを行なう、写真界でもっとも先鋭的なイベント。

フォトグラファーズ・サミット公式WEBサイト
PHOTOGRAPHERS SUMMIT Twitter アカウントはこちら


■「GR DIGITAL 広告写真企画」写真展
期間:2010年6月9日(水)~2010年6月27日(日) ※休館日を除く

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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