海外の家電店や携帯電話ショップ、通信事業者の販売店に立ち寄ってみると、日本とは異なるデザインを採用した端末がずらりと並べられている。中でも最近目立っているのが大型ディスプレイを搭載したフルタッチ端末だ。

iPhoneの登場以降、各メーカーは対抗製品として、また差別化のために続々とフルタッチフォンを投入。スマートフォンだけではなくフィーチャーフォン、そして比較的価格の安いローエンド端末にまでフルタッチ化の波は押し寄せている。折りたたみ端末が主流の日本市場とは端末のトレンドが大きく異なっているのだ。

だがすべての携帯電話がiPhoneのようにフルタッチ化しているわけではない。フルタッチ端末の流行とは別に、ここ1-2年で急増してる端末スタイルがあるのだ。それはQWERTYキーボードを備えた縦型の端末である。

若干幅の広い本体の上部にディスプレイ、下部にQWERTYキーボードを備えたそのスタイルはちょっと前ならビジネス向けスマートフォンという印象を受けるものであった。だが最近登場している製品はカラフルなボディーや曲線を多用したスタイリッシュなデザインになっており、ターゲット層はビジネスではなく若者や一般ユーザーなのだ。
縦型のQWERTYキーボード搭載端末といえばBlackBerryがすぐに思い浮かぶだろう。このBlackBerryも海外ではビジネスユーザーだけがターゲットではなく、今では低価格な製品「Curve」を投入することでSMSやメールを多用する若者にも受け入れられているのだ。事実、BlackBerryのマーケットシェアはついに世界のトップ5の仲間入りを果たしており、ビジネス層だけではなく幅広いユーザーから支持されたことがシェア向上の大きな要因にもなっている。

他社のラインナップを見ても、Nokiaは従来1モデルだけであった縦型QWERTYキー端末を5-6機種も投入。Samsungも4-5機種と、このスタイルの端末だけでも複数の機種を展開しているのだ。なおその中には縦型スライド+QWERTYキーという変形モデルもある。また大手メーカーだけではなく、たとえばAlcatelは昨年後半から市場に投入したモデルの実に三分の一が縦型QWERTYキースタイルとなっている。

調査会社iSuppliによるとAlcatelは2010年第1四半期にマーケットシェア10位にランクイン。昨年同期と比較すると販売数は160%の伸びで、これはiPhoneの伸び(130%、iSuppli調査)を上回っているほどである。同社の販売数を牽引したのは紛れも無くフルキーボード搭載端末といっていいだろう。これらのメーカー以外からも多数のQWERTYキー搭載端末が今年は続々と市場に登場している。

Nokia C3はコンシューマーを意識したデザイン

ではなぜ海外ではQWERTYキーボードを搭載した端末が好まれるのだろう。まず第一に端末の画面サイズが大型化し、長い文章が書きやすくなったことが挙げられる。従来のQCIFなど小さい画面解像度ではせいぜい数十文字を表示できるくらいであり、長文を書くには不適であった。だがQVGA、HVGAと解像度が向上するに従い100文字以上の長文を書くことも苦ではなくなったのだ。

また従来は携帯でのメッセージ利用はSMSが主体であり、短文のメッセージが好まれる傾向があった。だが最近では携帯電話でメールを使うことはもちろん、インスタントメッセージのアプリを立ち上げ友人のチャットを見ながら自分もリアルタイムに文字を打つ、という使い方が増えている。より文字入力する機会が増えたことにより、文字を快適に入力できるQWERTYキーボードが好まれているわけだ。特にFacebookなどのSNSサービスの普及により、携帯電話で文字を打つ頻度は年々増加しているのである。
AlcatelのOT-255(左)。ヨーロッパやアジアで携帯電話事業を提供しているHutchisonが自社向けに販売するINQブランドの端末にもQWERTYキー搭載タイプがある(右)

海外ではこのようにハードウェアとソフトウェアが進化したことにより、10キーによる文字入力よりもフルキーボードによる長文入力がが好まれるようになってきているわけだ。

すなわち携帯電話が音声通話の道具からコミュニケーションの道具へと進化するに従い、ユーザーが求めるキーボードインターフェースも数字キーではなくQWERTYキーへと変化しているのである。これだけ各メーカーからQWERTYキー搭載端末が増えている事実を見ても、それを求める消費者の数が増えていることを裏付けているといってよいだろう。

ちなみにQWERTYキーを搭載する場合、BlackBerryのように画面と縦型に配置するデザインと、本体の横にスライドさせて搭載させる2つの方法が主流である。

横スライド式のキーボードは各キーのサイズを大きくとることができるため、キーボードそのものの操作性は縦型タイプよりも高い。だが横スライド式の問題点は文字を入力するときにどうしても両手が必要となってしまうことだ。歩きながら文字入力や電話をかける操作を考えると、やはり縦型にQWERTYキーを配置するスタイルのほうが使いやすいようである。

日本メーカーの海外進出の話が聞かれて久しいが、海外の消費者が求めている製品を提供できなければ海外での成功はありえない。

日本市場で日本の消費者に現在提供している端末と、海外の消費者が求めている端末は同じなのだろうか?

日本の端末は、機能が優れていると言われるが、高機能端末として海外ではすでに多数のスマートフォンが発売されており、高機能というだけでの差別化は難しい。海外で流行の端末スタイル、デザインを追求しトレンドを作っていくことは、機能以上に重要なポイントになるのではないだろうか。

山根康宏
著者サイト「山根康宏WEBサイト」

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