いつの時代も新しい感性をもった作家が時代を切り開いていくが、その道は決して平坦ではない。
挑戦的な企画の写真展を次々開催するリコーフォトギャラリー「RING CUBE」が、また新しい試みを開始した。

「RING CUBE」では、8階の企画展示スペースのほかに、9階に小さな写真展ができるフォトスペースがある。このスペースを使った有望な若手写真家の写真展「NEXT GENERATION」だ。

日本では、写真コンテストなどで受賞した将来性のある若手写真家でさえ、その後発表の機会を十分に得られずに世に出られないケースが多い。こうした状況の中、無償で展示スペースを提供して新しい感性の有望な写真家を多くの人に見て、知ってもらおうという思いからスタートした。

記念すべき第1回は、13歳から写真の世界に入った杉本 春奈さんだ。

■光の中で主張する柔らかいのに堅い植物たち
今回の作品は、全10点。テーマは、人が自然にふれる機会の大切さだという。人は誰かといることで無意識のうちにストレスを感じて生きているので、作品を観た人が自然にふれて、そうしたストレスから解放してもらいたいという。今回、杉本さんは、ハイキーのカラー写真に和紙を使ったプリントで作品を仕上げている。

杉本さんの写真は、実に不思議な空気感と溢れる光に満ち作品だ。
カラー写真でハイキーな作品を作ることは非常に難しいレンジの世界だ。光量オーバーの世界では、少しでもオーバーに傾くと、色や形が崩れ、写真にすらならないからだ。

しかし杉本さんの写真は、単にハイキーという作品ではない。通常ハイキーな写真は形や色が光に埋もれて淡くなっていくのだが、杉本さんの作品の中の植物たちは、驚くほど生命力に溢れ、その存在を主張しているのだ。

こうした微妙な柔らかさの中にフォルムの強さを表現する作品は、見たことのない新しい感覚だ。

杉本さんが、なぜこうした作品が作れるようになったのか、たどり着いたのか。
理由は、これまでの活動に中にかくされていた。

■13歳からはじめた写真を巡る旅(経験)が豊かな感性を育む
最初に写真の魅力を体感したのは、祖父のコンパクトフィルムカメラだという。そのカメラで撮った桜が自分の予想を超えて美しく撮れた感動が彼女を写真の世界に導いたそうだ。

本格的に写真を撮りはじめたのは、マニュアルフォーカスの一眼レフ フィルムカメラ。当時は家の周りや兄弟などをモノクロやカラーで撮った。デジカメは嫌いだったそうだが、14歳で、マニュアルモードが使える写り方の好きなデジカメを知って、購入してデジカメでも撮影するようになった。

写真展を開催しはじめたのは、いまから5年前の2005年だ。
当時17歳の彼女が写真展を開催したいと思っていた頃に、「フォトアートドットコムオープン記念写真コンテスト」で金賞を受賞。そのときの賞金を個展の費用にしたという。初めての個展での作品は、同年代の友人を被写体に人を撮ったものだった。

プロ写真家や経験者から、多くのアドバイスをうけたが、そのころの自分には、まだよくわからなかったと彼女はいう。

しかし、彼女はその経験から、デジカメでマニュアル撮りを試しながら写真と深くかかわっていった。そして、モノクロ写真で2005年「JEANS FACTORY CONTEMPORARY ART AWARD 2005」 優秀賞を受賞する。このとき、写真以外のアート作品の作家達と交流をしたことがよい経験となる。

2007年の2回目の個展「Photo Cinema」では、スライドショーの作品を上映した。1枚の写真でもなく、動画でもない、写真にしかできない時間と奥行きを杉本さんは、作品作りを通して身につけたようだ。

そして、2008年の個展「-Moment-」では、モノクロで色にまどわされない植物の生き物としての力強さや、カラーで知っている人の自分が知らない表情を作品にしたという。

■強さと儚さ、柔らかさと堅さ 写真に封じ込められた世界
2010年 リコーフォトギャラリー「RING CUBE」でのNEXT GENERATIONの作品は、観ていると、ただのハイキー調のカラー写真と見逃す人も多い。しかし、足を止め、じっくり写真を観た人には、違った世界、感性が伝わっているようだった。

新しい感性と作品は、見逃されてしまいがちだ。今回の「NEXT GENERATION」のように、より多くに人がふれる機会を得ることは、作家にとっても写真好きの人にとっても、嬉しい限りだ。

■プロフィール
杉本 春奈 / Sugimoto Haruna
1986年 高知県生まれ
オフィシャルページ

個展
2005年 「17」(高知市文化プラザかるぽーと市民ギャラリー/高知)
2007年 「Photo Cinema」(Peace Cafe/高知)
2008年 「-Moment-」(graffiti/高知)
     「光の絵」 (odd eye/高知)
   「Plants」 (Chubby's Kitchen/高知)
2009年 「-SIRIUS-」(graffiti/高知)
2010年「inside」(沢田マンションギャラリー room38/高知)

受賞歴
2002年 「コニカQPデジタルフォトコンテスト」入賞
2004年 「フォトアートドットコムオープン記念写真コンテスト」金賞
2005年 「JEANS FACTORY CONTEMPORARY ART AWARD 2005」 優秀賞
     (高知市文化プラザかるぽーと市民ギャラリー/高知県)
2009年 「第29回高知県女流展」 立体部門 青潮賞・高知美術振興会奨励賞(高知県立美術館/高知県)
    「ALSACE WINE PHOTO CONTEST 2009」グランプリ(東京ミッドタウン/東京都)
    「関西御苗場2009」 レビュアー賞 Gallery Kai 推薦(海岸通ギャラリーCASO/大阪府)

出版物等
2009年 「MySpace From JP.」vol.2 作品掲載
2010年 「PHaT PHOTO」 1-2月号「 関西御苗場」「ALSACE WINE PHOTO CONTEST 2009」 作品掲載
    「NotForSale」NFS.COM 作品掲載(http://nfsp.chottu.net/)

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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