タブレット型デバイスとして販売好調なAppleのiPadは他社から類似製品がまだ登場していないことから依然として各国で品薄状態が続いている。特に3G搭載モデルは移動中であってもネットアクセス可能な製品ということもあり、Wi-Fiモデルよりも人気が高まっている。

iPadは携帯電話やスマートフォンとも、ネットブックなどの低価格ノートPCとも異なる全く新しいカテゴリの製品だ。そのため各国の販売状況を見ても、通信事業者が販売を行う国もあれば、Appleストアや家電店のみで販売されている国もある。

日本ではiPad 3GモデルはiPhone同様にソフトバンクモバイルの回線とのセット販売で、SIMロックありの販売となっているためiPad=通信事業者が販売するものというイメージになっている。しかし、香港ではAppleの販売店と家電量販店のみで販売されおり、スマートフォンとは違う位置づけの製品として取り扱われている。

香港のiPadは家電量販店などで販売されている

その香港では7月23日からiPadが正式に販売開始され、各通信事業者間でiPad顧客の激しい争奪戦が始まっている。香港には通信事業者が5社あるが、各社はiPadの販売は行っていないものの全社がiPad向けのマイクロSIMカードを提供している。香港で販売されているiPadはSIMロックがないため、香港の消費者はiPad本体を購入後、自分の好きな通信事業者を選択できるのだ。

香港の携帯電話普及率はすでに150%を超えており、誰もが携帯電話回線を持っている状態だ。そのため各通信事業者はいまさら「新規顧客獲得数」で争うことはせず、より高い料金プランの提案や付加サービスの提供による収益アップに努めている。3-4年前からはUSBタイプの3Gモデムが市場に登場し、ネットブック向けのデータ通信回線で「もう1回線契約」を獲得する動きが加速化している。そして競争は毎年のように値下げを生んでおり、3Gのデータ定額料金は日本円にして2000円/月を切るところまで引き下がっている。

iPadもネットブック同様にデータ通信定額プランが各社から登場しているが、当初はネットブック向けと同じ料金体系であった。ところがネットブックよりも可搬性が高く、ネットアクセス端末として常用するユーザーが多いこともあってか、各社はiPad向けの料金の引き下げを開始。3Gの定額プランはネットブックと比較して15%程度引き下がり、2.5Gの低速回線を提供している事業者においては約600円/月まで定額データ通信プランを値下げした。

さらにそれを受け、3G事業者は「iPhone契約を持っている場合、iPad向け定額プランを割引提供」という回線のセット契約を開始。たとえばHutchison社ではiPhoneのデータ定額プランに加入していると、iPad向け定額プランは約550円/月だ。iPadは携帯電話やスマートフォンよりも利用頻度が少ないことから、ここまで安価な料金を提供してもネットワークへの負担は少ないと判断しているのだろう。この「iPhone+iPad」で2回線契約を目論むHutchison社の動きは今後他社にも広がりそうである。
各社iPad専用プランを続々と投入している

このほかにも各通信事業者社は、iPad向けにプリペイドプランも用意しており、「契約するほどは頻度高く使わない」という利用者にも自社回線を手軽に使ってもらおうとサービスを強化している。香港ではiPadをAppleオンラインストアで購入すると、SmarTone-Vodafone社のプリペイドSIMカードが無償で購入できる(残高は無いのであとから追加する必要あり)。iPadを購入後、そのまますぐに自社回線を利用してもらえるように「まずはSIMカードだけ」という販売を行っているのだ。一方Hutchison社はプリペイドのデータ定額プランを値下げ。約3000円/月定額料金をわずか2週間で約2000円/月まで引き下げた。このようにプリペイドサービスでもiPadの顧客競争が始まっているのだ。
わずか2週間で販売価格、定額料金が引き下がったiPad用プリペイドSIMカ(価格は香港ドル)

各社がここまで激しい値下げ競争を繰り広げるのも、iPadがSIMロックのない単体販売がされていて各社が自由に競争できるからである。事業者によっては料金は引き下げずに「高い回線品質」を謳うところもあり、消費者は料金と品質を比較して選んでいる。香港のiPadはSIMロックが無いため定価販売であるが、データ定額料金の値下げが続いていることで、結果として「高い買い物」にはならないのである。

日本では日本通信によるマイクロSIMカードの販売が開始されたものの、日本国内ではSIMロック無しのiPad/iPhone4は正規販売されていない。SoftbankはSIMロックありのiPhone/iPadを販売することで安価な本体価格と料金を提供できることをアピールしているが、仮にAppleジャパンが単体販売を開始すれば、香港と同様にソフトバンクモバイルとNTTドコモ、そして日本通信の間で料金引き下げの動きが加速するかもしれない。香港のように、日本でも料金競争が始まることが期待できるかもしれないのだ。

山根康宏
著者サイト「山根康宏WEBサイト」

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