日本に近くて遠いのがアジアだ。アジアは日本と近い民族・文化圏でありながら、日本国内にいるとあまり情報を見聞きできないことが多い。

そんなアジアを、写真と写真家たちの作品を通して知ることができる「アジアの写真家たち2011-インドネシア- Indonesia Nowadays-SectionⅠ」が、東京・銀座にあるリコーフォトギャラリーRING CUBEで開催(5月25日(水)から6月5日(日))された。

今、インドネシアでは、写真がブームになっているという。デジタルカメラの普及により、多くの人がカメラを常に持ち歩き、日常を撮影している。また、インドネシアでは写真ビジネスも活発で、若手のプロ写真家も多いという。

今回の写真展に作品を提供し、来日されたインドネシアの写真家 ユニアドヒ・アグング(Yuniadhi Agung)さんにお話を伺った。日本とは異なるパワーに満ちたアジアの写真家と写真事情を紹介しよう。

■若者に写真家になるチャンスが開けているインドネシア
インドネシアの経済発展はすさまじい勢いがある。現在もインドネシアの首都ジャカルタでは建設ラッシュが続いており、日々、街の姿が変わっていっているという。

インドネシアでは、アマチュアを含めてさまざまな人が写真を撮っているという。
「アマチュアの写真家は数多くいます。主婦や子供もそうですが、身近なものをよく撮っています。Facebookなどで撮った写真を公開しているのです。」と、インドネシアでも日本と同様に写真を愛好する人の裾野は広いとユニアドヒ・アグングさんは語る。

プロ写真の世界は、日本とは少々異なるという。
「インドネシアでは写真で生計を立てている方も多いんです。私のようにフォトジャーナリストもいますし、広告分野で活躍されている方もいます。それほど多くはありませんが、アートとして写真を売っている方もいます。」という。

インドネシアでは、新しい新聞が多く発行されており、そこでさまざまな仕事が生まれているという。また、年配になるとエディターとなるケースが多いそうで、必然的に現場では若い写真家にチャンスが回ってくるのだそうだ。
日本とは違い、若者の人口比率が大きい社会構造も若い写真家が次々に育つ要因になっているようだ。

■どこまでも明るくしなやかに「建物」と「人」がアートとなる写真
インドネシアの働く人と建物をテーマにした作品を見せてくれているのが、ユニアドヒ・アグングさんだ。

建設中の高層ビルの現場で色鮮やかな作業着に身を包んだ労働者が高所での作業にもかかわらず、恐れずしなやかに忙しく働いている。その景色を写真に収めた作品からは、日本の景色とは違った、明るさと力強さを感じることができる。

ユニアドヒ・アグングさんは、自身のスタイルを「建物と人と自然をあわせて撮るような感じが好きなんです。そうすると、写真自体に楽しいという雰囲気が宿るような気がしているのです。」と説明してくれた。


■来日中にミニ写真集を作成!アクティブすぎるフットワーク
ユニアドヒ・アグングさんは、5月30日に来日後、忙しいスケジュールながら、僅かな時間を見つけては新宿・銀座の写真を撮影したという。さらに驚くのは、そうして撮影した写真をフォトブックにまとめ上げていることだ。

フォトブックからは、交差点で笑顔で待つ人たちや、お辞儀をしているかのように自分の靴を見る人、忙しく歩道を駆け抜けるサラリーマンなど、硬質な写真になりがちな東京という都市の景色を、じつにゆったりとした時間を感じさせる作品に仕上げている。

こうした写真の違いをユニアドヒ・アグングさんに聞いてみると、
「ジャカルタでは、人がゆっくりとしていて自分の時間を楽しんでいるのです。」と、東京と違い、ゆっくりした時間の流れの中で育まれた感性が、ユニアドヒ・アグングさんに、しなやかで美しい写真を撮らせているのかもしれない。

ユニアドヒ・アグングさんにフォトブックでお気に入りの作品を聞いてみた。
「おそらく、自分の靴を見ているのだと思いますが、ちょうど、私に向かってお辞儀をしているように見えました。とても日本的だなと思い、撮影したのです。」

このような瞬間を逃さずに、アート作品へ昇華できるところが、ユニアドヒ・アグングさんの写真家としての力量を感じさせる1枚だろう。

「インドネシアは、政治的緊張が続いていますので、写真をとりあえず早く撮ってということが習慣になっていますので。」と話してくれたが、その写真からは日本人とはちょっとセンスが異なる、明るさや力強さが感じられた。

■思い出のリコー「XF-30D」
ユニアドヒ・アグングさんが、初めて写真を撮り始めたのは、小学生の時、お父さんが所有していたリコーのコンパクトカメラ「FX-30D」だったそうだ。
「小学生の頃から写真を撮るのが好きでした。家族が集まる時は、いつも写真を撮っていました。」
もう30年以上も前になるが、いまだにこのカメラは、弟さんが現役で使っているという。

本格的にカメラマンを目指したのは大学時代になってから。
「大学でマスコミュニケーションを専攻していました。ジャーナリストを目指していたのですが、写真が好きだったので、文章ではなく写真を選んだのです。今でも大学の友達と交流がありますが、当時に仲間の多くがカメラマンになっています。」

今後も、「同様のスタイルで撮り続けていきたい。」と語るユニアドヒ・アグングさん。日本人にはないアジアの感性で撮影された写真が、これからも日本を刺激し続けてくれそうだ。

Yuniadhi Agung(ユニアドヒ・アグング)
1975年 生まれ
1999年 Sebelas Maret 大学、マスコミュニケーション学科卒業
2002年 プロとしてのキャリアをインドネシアの主要な新聞「コンパス」にて開始
M Hoesni Thamrin フォトジャーナリスト賞(2005)など国内および国際的な賞を受賞
ナショナルジオグラフィックインドネシア写真コンクール(2008)
ナショナルジオグラフィック国際写真コンクール(2009)

アジアの写真家たち2011-インドネシア-
Indonesia Nowadays-Section

主催:株式会社リコー
期間:2011年5月25日(水)~2011年6月5日(日) ※休館日を除く
会場:リコーフォトギャラリー RING CUBE
東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8階・9階(受付9階)
問い合わせ先:03-3289-1521
開館時間:11:00~20:00(最終日17:00まで)
休館日:火曜日
入場料:無料

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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