最優秀賞を受賞した山本顕史さんの作品


リコーは、常に新しいことに挑戦するマインドもっている。しかも、面白いこととなると、さらにチャレンジ魂に火が付く傾向がある。

2011年7月30、31日の両日に開催された「リコー ポートフォリオ オーディション」は、そうしたリコー魂を感じさせてくれたコンペティションだ。

「リコー ポートフォリオ オーディション」は、写真の町として知られる北海道上川郡東川町の「第27回東川町国際写真フェスティバル」(東川町フォト・フェスタ2011)で、プロ・アマを問わず、写真アーティスト発掘のための公開オーディションを行った。しかも、優秀者は銀座・リコーフォトギャラリー「RING CUBE」において個展を開催することができる。もちろん展示費用はリコー持ちという太っ腹な企画だ。

今回が初開催というポートフォリオ オーディションでここまでやるリコーのチャレンジ精神は、重いニュースの多い最近では、かなり元気をもらえる企画だ。
東川町でのフォトレビュー。オープンな空間で行われた

ポートフォリオ オーディションには59名もの募集があり、事前審査を通過した20名の作品は一般公開形式で、審査員によるレビューが行われた。最優秀賞には山本顕史さん、優秀賞は佐藤志保さん、人見将さん、畠山雄豪さんの3名が選ばれた。
そこで、審査員の飯沢耕太郎氏と鷹野隆大氏に優秀作品の魅力について、お話を伺った。

審査員を務めた飯沢耕太郎氏

審査員を務めた鷹野隆大氏

RING CUBEは、一般の人が行き交う銀座のど真ん中にあるフォトギャラリーだ。優秀賞者はRING CUBEで個展が開催できる。そのため選考時には、写真を好きな人だけでなく、一般の人にも楽しんでもらえるかという視点も重要だったとのこと。いい意味でのエンターテインメント性は大事なのだ。

選考では、飯沢氏、鷹野氏とも、ほとんど同じ人を選んでいったという。応募作品のレベルが高く、個人的な好みなどの違いが若干あるものの、審査結果は同じ人を選出できたという。

■レベルが高かった山本顕史さん
 「ユ キ オ ト」

札幌に降り積もる雪をテーマに撮った山本さんの「ユ キ オ ト」。雪と都市との関わりがテーマとなっている。
飯沢氏は「事前審査の時からこの人はレベルが高いと思っていましたね。」と、最初から目を付けていたことを明らかにした。一方で鷹野氏は「本審査の時に山本さんが最初だったんです。会場に着いたのがギリギリだったので、状況が分からないまま審査が始まって。最初から、すごくレベルが高いなと思いましたね。この先、これ以上のものが続々出てきたらどうしようかと、戸惑いもありました。」と審査の難しさを教えてくれた。

しかし、両氏とも、優等生的な部分があると指摘する。
飯沢氏は「審査のポイントは完成度の高さと将来性です。でも個展が決まっているので、最終的には完成度の高さを優先し、安心して見せられることで選びましたね。」
鷹野氏は「もう少し冒険してもいいと思いました。でも山本さんを外す理由はなかったんです。」
それに応えて、飯沢氏は「写真展では、山本さんがもう少しアイデアを出して冒険してくれるといいかもしれません。こういう完成された人は、一回壊した方が面白い。」

力があるから、少々作品をいじっても問題ないとのこと。何かやってくれそうな予感もあり、やったことがないことにも挑戦すると、さらに楽しい写真展になりそうだ。

■写真に笑いを織り込んだ佐藤志保さん
 「念力」「百物語」

「念力(念じる力)念じている人、念によって起こること」がテーマだが、言葉ではよく分からないかもしれない。しかし、写真を見ると一目瞭然だ。念力では何も変わらないかもしれないし、もしかしたら思い込みや勘違いかもしれない。そこが面白いのだ。

鷹野氏は「写真に笑いがあり、それに付いている言葉が意表を突いている。普通はどちらかに引っ張られそうなものですが、言葉と写真を別々に発想してぶつけている。」と佐藤さんを推薦していた。


「バランスがいいんですよね。笑いがちゃんと取れる、ふっと笑わせる。」(飯沢氏)
「ギャグは難しいんですよ。」(鷹野氏)
「おふざけになるとしらけるし。かといって考えすぎるとつまんなくなる。ところが、これが絶妙なんだよね。」(飯沢氏)
「写真のクオリティも高いし。」(鷹野氏)
「ただ、作品数が少ない。RING CUBEを埋め尽くすとなると、ちょっと大変かもしれない。」(飯沢氏)
さすがに、写真展を前提にしているだけのことはあり、最優秀賞には選びづらかったのだろう。そしてギャグ路線を貫かなくてもいいかもしれないと、話が広がっていった。ギャグは難しいが可能性はある。そのため、今後が楽しみな1人となった。

■構えない、自然な雰囲気の人見将さん
 「CASE Ⅰ」

フォトグラムの技法を使いながら、折鶴や人などを表現した人見将さん。「不思議な人」だったと語る飯沢氏は、「写真の力はあって、いろんなところで展覧会をしながら、自分のスタイルを作ろうとしている。」と前にも彼の作品を見たことがあるとのこと。鷹野氏は「作品に、はじけた感じがあっていいですね。本人も構えるタイプではなく、自然体だったので。気負ってこういうことをしているんじゃないんだと。」
自分と作品の関係が無理のないように作っているとのことだ。

飯沢氏は「考えるより、思いつきを膨らませるんです。フォトグラムは結構あるのですが、コントロールが効かない。印画紙があって、光が当たって。光の当て方ひとつで変わるので、プリントしてみないと分からないんですよ。」

今回の写真の中では折鶴シリーズが気に入ったようだ。
飯沢氏は「いろんなことをやろうとしている衝動が形になり始めているんじゃないかな。でも、まだ形になっていないので、もう少し見てみたい。1人で個展をやるよりは、もう少し積み重ねる形で磨いていったら。その時に見たいですね。」

■しつこいまでに石を撮り続けた畠山雄豪さん
 「滲透」

鷹野氏が押していた畠山さん。「石をずっと、季節ごとに撮っていて。淡々としているんだけど、温かい感じがして。手触り感があって。」と、鷹野氏は作品の魅力を教えてくれた。
飯沢氏は「物を撮っていて気になり始める。石の形とか、たたずまいとか。石と水が混じり合う瞬間とか。結構しつこく撮っているんですよ。そういう営みは好きなんですけどね。」とのことだ。

優秀賞3人のバランスも大事だ。飯沢氏は、畠山さんのRING CUBEでの展示プランとして「写真を床に並べる、というのがあったんです。そういうアイデアを出してきたので、面白いと思って。」
このアイデアが、最終的な決め手になった。

最優秀賞こそ逃したが、優秀賞の3人もとてもレベルが高かった。そこで、当初は予定のなかった優秀賞3人でのグループ写真展も決定された。
それぞれの個性がぶつかり合う3人のグループ写真展も、エキサイティングな作品が期待できるだけに、今から楽しみだ。

レベルが高かったという今回の「リコー ポートフォリオ オーディション」だが、選ぶ側も楽しかったし、応募者側もそれなりにいいものを学べたんじゃないかと飯沢氏は語る。
「選ばれた人は、今回の経験を活かして、もう一歩飛躍してほしいですね。応募者は、いろんなタイプの人が出てきてほしいというのはありますね。」

鷹野氏は「写真からイメージが広がる人と、追っていかないとイメージがつかめない人。最終的には、それが選ばれる人、選ばれない人につながったんじゃないかという気がします。」と振り返った。

鷹野氏は「1枚、1枚の写真の質では、ほとんど差がない。」と語り、一方飯沢氏は「たとえば山本さんの写真は、この写真の次にこの写真が来る、という必然性みたいなものが伝わってくる。作品を作る際、写真をどういう風に並べるか、というのはとても重要。自分の写真では、何度も並べなおしてみないと分からないけど。だから人の写真を見るのもいいと思う。写真集から、こういう並べ方をしているんだというのを体で覚えることが大事。」と、次回の参加者へのアドバイスを残してくれた。
一般の人も自由にフォトレビューを見学していた

めったに、これほどハイレベルな59作品が集まるものではないが、それが現実のものなった「リコー ポートフォリオ オーディション」の参加者は、来年はさらに増えそうな勢いだ。飯沢氏は「文化として考えるのなら10年ぐらいはやらないと。」と語るように、リコーのチャレンジ精神のみせどころともなりそうだ。

はやくも来年の「リコー ポートフォリオ オーディション」が気になるが、まずは秋に銀座のリコーフォトギャラリー「RING CUBE」で開催される山本顕史さんの個展から堪能しよう。

飯沢耕太郎
写真評論家。1954年、宮城県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、筑波大学大学院芸術学研究科博士課程修了。数多くの公募展の審査員のほか、学校の講師なども務めている。

鷹野隆大
写真家。1963年、福井県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、1990年代中頃から写真を発表し始める。2006年に「第31回木村伊兵衛写真賞」受賞。

リコー ポートフォリオ オーディション
主催:東川町 東川町写真の町実行委員会
協賛:株式会社リコー
本審査:2011年7月30日(土)、7月31日(日)
会場:写真の町東川町文化ギャラリー
審査員:飯沢耕太郎(写真評論家)/鷹野隆大(写真家)

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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