アート写真は世界市場で現代美術としても定着している。そんなアート写真の世界では、日本国内よりも海外で評価が高い写真家も数多く存在する。特に最近では、若手写真家が海外で活動したり、コンペに応募したり、積極的に海外にアプローチして世界デビューを果たしている。

こうした若手作家の活発な活動には、近年の国内の若手発掘活動が大きな影響を与えているといってもよい。今回紹介する国内最大級の写真フェスティバル「御苗場」も、多くの新しい作家を発掘し、世に送り出しているステージのひとつである。

「御苗場」は、2006年の立ち上げから始まった。東京、横浜、大阪など国内で過去8回、2011年5月には初の海外開催となる「御苗場 in NY」を経て、今回開催された大阪港での「関西御苗場」(2011年10月)は、関西では4回目、通算で10回を数えるイベントである。写真家を目指す作家たちの多くが、「御苗場」への出展を通じて、ギャラリーへの所属や海外メディアでの紹介、雑誌の巻頭グラビア、広告撮影など、チャンスを掴んできた。まさに、写真家への登竜門となっている。また、2011年5月に開催した「御苗場 in NY」は、アメリカを代表する写真フェスティバルのひとつ「NYPH 11」で開催し、日本の写真家にとってさらなるチャンスの場を創りだしてもいるといってもよいだろう。

「御苗場」に作品を出品することで、多くの人に自身の作品を見てもらうだけでなく、批評やアドバイスをえられることから「御苗場 」を通して大きく成長する作家も少なくない。

将来性のある若手の写真家を支援するリコーフォトギャラリーRING CUBEも、「関西御苗場」に参加しており、「関西御苗場」で頭角を現し、同ギャラリーの若手展示会「NEXT GENERATION 」でデビューしている作家も多い。

「関西御苗場」は、2011年10月20日(木)から23日(日)まで海岸通ギャラリーCASO Contemporary Art Space Osaka(大阪・港区)にて開催。200名以上の若手写真家の作品が一堂に展示され、その中からRING CUBE賞 2名をはじめとする若い作家が表彰された。

■ 安藤菜穂子(「PHaT PHOTO」編集部 )× NEXT GENERATION 江口 敬・川嵜 徹・東 雅美
写真を「見せる」ことについて、写真雑誌「PHaT PHOTO」編集部 安藤菜穂子さんと、RING CUBEで作品展を開催した若手写真家3名、川嵜 徹さん、東 雅美さん、江口 敬さんのトークショーが1F メインステージにて開催された。
左から、「PHaT PHOTO」編集部 安藤菜穂子さん、川嵜 徹さん、東 雅美さん、江口 敬さん

3人の作品とプロフィール紹介のあと、各人が作品制作における「こだわり」「マニアック」な3つのポイントについて語られた。
川嵜 徹さんは、10月にRING CUBEで公開したばかりの「繁雄」シリーズでの「家族と思わずに撮る」や、新シリーズの「家族」での「顔をあえて写さない」手法について、その真意をあかしてくれた。
・自然光を利用する
・家族と思わずに撮る
・顔をあえて写さない

東 雅美さんは、仕事上がりで雨と路上を照らす照明がマッチするロケーションをとらえることの難しさと大変さをあかしてくれた。特に雨の日の夜という特殊なロケーションでの撮影を垣間見たギャラリーから、白い目を向けられたり、危ない人に間違われた経験なども披露し、会場からの暖かい賛同と応援がわき上がっていた。
・お昼から急に降り出した雨
・光の量
・堂々と撮る

江口 敬さんは、RING CUBEでの展覧会や地元の福島のギャラリーでの展示をはじめ、6回の展覧会を開催し、より先進的な写真表現にチャレンジする勇気を得たという。既存の写真表現や定説に縛られずに、自分が撮りたい表現を求めていくことが今の写真には必要だと説いた。また、大都市に依存せずに、自分が撮りたい場所、活動すべき場所で活動することで、今後の若手作家には、地方で写真が仕事となる環境作りを目指してほしいとも訴えた。
・白とび。黒潰れをおそれない
・小型軽量のカメラ
・福島での田舎暮らし

今後の活動について
新作「家族」で新しい世界を見せてくれた川嵜 徹さんは、さらに地元の滋賀県をテーマにした作品作りを目指すという。
昨年のRING CUBE賞受賞からさらに進化した「ダンス」を披露した東 雅美さんは、新しいロケーションの開拓や新しい手法など、様々な試みで、さらに新しい2012年版「ダンス」を目指す。江口 敬さんは、さらなる表現の冒険と革新を勇気をもって挑み、まだ見たことない表現の世界を目指したいと語った。

各人ともに、RING CUBEでの展示を経て、そこにとどまるのではなく、さらに未来を目指して創作意欲を加速させている姿勢に驚いた。「御苗場」「NEXT GENERATION」を経て、様々な人との出会いと経験により、彼らは作家としてたくましく成長していた。

■「NEXT GENERATION by RING CUBE」写真展ブース
会場中央ステージ右のフロアで「NEXT GENERATION by RING CUBE」写真展ブースを展開し、4人の若手作家が作品を出展した。
「NEXT GENERATION by RING CUBE」写真展ブース

「NEXT GENERATION by RING CUBE」写真展ブース

「NEXT GENERATION by RING CUBE」写真展ブース

○川嵜 徹
1986年 滋賀県生まれ
多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業
多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程デザイン専攻中
■2010年 川嵜徹写真展「繁雄」「先生」「家族」GALLERY B(鎌倉)
■2010年 関西御苗場海岸通りギャラリー・CASO出展(大阪)
■2010年 関西御苗場 RING CUBE賞受賞
■2011年 川嵜 徹写真展「繁雄」開催中(RING CUBE)
川嵜さんと新作「家族」

2011/10/19-10/31
日本の心を再発見!祖父とレンズを通したぬくもりを作品に昇華【NEXT GENERATION】
(銀座リコーフォトギャラリー RING CUBE/東京)


○東 雅美
1977年 兵庫県生まれ。
一眼レフカメラを手に入れ、風景や花を撮り始める。表現の幅を広げたいと思
い、波止場写真教室に通う。
木下アツオ氏に師事。
■2010年 関西御苗場海岸通りギャラリー・CASO出展(大阪)
■2010年 関西御苗場 RING CUBE賞受賞。
■2011年 東 雅美写真展「DANCE」開催(RING CUBE)
東さんと作品「ダンス」

2011/10/5-10/17
家路を急ぐ脚を写した雨の夕暮れ!日常をアートまで昇華させた写真展【NEXT GENERATION】
(銀座リコーフォトギャラリー RING CUBE/東京)


○江口 敬
1972年 東京都生まれ。
独学で写真を学び、2008年から発表活動を始める。
世界と人の内面とが響き合う様を、鮮烈で透明感に溢れた光と色で表現している。
福島県福島市在住。
■2008年 東川町国際写真フェスティバルに出展
■2010年 写真展「銀座鉄道」に出展(RING CUBE)
■2010年 写真展「Beyond」開催(カロス・ギャラリー)
■2010年 江口 敬写真展「Beyond」開催(RING CUBE)
江口さんと作品

リコーRING CUBEによる若手写真家紹介企画で江口さんの作品を展示。以下に取材記事が掲載されています。
2010/12/1-12/13
NEXT GENERATION 江口敬写真展 "Beyond"
(銀座リコーフォトギャラリー RING CUBE/東京)


○堀内珠代(トークショー不参加)
1971年 熊本県生まれ。
横浜フェリス女学院大学音楽学部卒業。
パリの音楽学校エコール・ノルマル・ミュージック・ド・パリに在籍、ソルボンヌ
大学のフランス語科を経たあと、ピアノ教師として6年パリに生活。その後、東京に
居を移しながらも、パリを行き来しながら、常にヴィジョンにあった写真と詩作を
中心とした活動を始める。
2001 年 結婚を機にイタリアに移住。現在イタリア、ヴェネチア県在住。
イタリアを拠点に展覧会、個展の写真活動を続けている。
■2001年 神戸県立美術館IPA国際写真家協会展入選
■2010年 写真展ポルトグルアーロ開催(ヴエネチア)
■2010年 堀内 球代写真展「幻想」開催(RING CUBE)
堀内さんの作品

「詩」を奏でる写真の中の『幻想』イタリアで活躍する女性写真家の素顔【NEXT GENERATION】
(銀座リコーフォトギャラリー RING CUBE/東京)


■2011年 関西御苗場 Vol.9(海外含めた通算10回目) 表彰式
出展者や来場者など多くのギャラリーが見守る中、各レビュアーのセレクトした作家とオーディエンスから選ばれた作家が表彰された。

○RING CUBE賞
RING CUBEからは、運営リーダーの橋本正則氏、スタッフの関根美季代氏によりRING CUBE賞が発表され、久保和範さんと文本貴士さんが受賞した。

久保和範さんは、愛娘をこれ以上なく愛らしく撮りきった写真らしいテイストが高く評価された。文本貴士さんは、モノクロ撮影した写真に着色するという、独自の技術に電通担当者も興味を示すなど、評価を得ている。
両人とも、まだ今回は作品数が少なかったことが、作品の制作次第でRING CUBEでの作品展が実現するとのことで、これからが楽しみだ。
久保和範さんの作品

文本貴士さんの作品

○レビュアー賞
期間中にレビュアー指定されたゲストによるレビュアー賞のノミネートと受賞者が発表された。既にプロとして活動開始しておるホイキシュウさんは、今回2つの賞のダブル受賞となった。
・電通コピーライター並河進 賞:ホイキシュウさん
・The Third gallery Aya 賞:山畑由紀さん
・B GALLERY 藤木陽介 賞:松本欣二さん
・digmenout 賞:ホイキシュウさん
・御苗場プロデューサー木下アツオ 賞:鍋田政宏
・御苗場総合プロデューサー/「PHaT PHOTO」編集長 テラウチマサト賞:柏原資亮さん

○メディアパートナー賞
フォトコン賞
SHAKEART!!賞

○オーディエンス賞
来場者の投票により選ばれるオーディエンス賞は、10名が選出された。
・3位:CHIKU & HYPOさん
・2位:谷口加奈子さん
・1位:久保和範さん

■「御苗場」はこれからも新しい作家を生み出していく
今回、昨年以上の作品数と作家の参加により、さらにレベルもあがり楽しい写真フェスティバルとなった。
御苗場は関西だけでなく、横浜やNYなど、場所に縛られずに新しい才能を発掘しつづけている。また、参加する作家だけでなく、来場する写真ファンの目も育てていることも見逃せない。
特に今回は、レビュアー賞とオーディエンス賞をダブル受賞する作家も多く、来場者の写真を評価する目が確かなものとなっていることも立証した。

写真の世界は、作品を作る人だけでは健全に成長はしない。それを鑑賞し、評価できる鑑賞者がいてこそ、写真アートは高い次元にあがることができる。
日本でも着実にその階段をあがっていると期待したい。

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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