来年登場が噂されるiPhoneの新機種の販売に関し、AppleとNTTドコモが交渉を結んだとのニュースが流れた。ネットは騒然となり、モバイル関係者からも、様々な分析や意見がネットで飛び交った。

この報道に対し、ドコモは公式には否定はしているものの、これまでのAppleを取り巻く噂話が現実化した前例も考えると、今回の報道が誤報だと言いきれない。

市場の状況をみれば、誤報と言い切れない理由も垣間見えてくるからだ。

毎月のように販売台数を伸ばしているiPhoneだが、ここに来て対OSで見るとAndroidにスマートフォンにシェアトップの座を奪われている。またメーカー別でも今年第2四半期にはNokiaを抜きさって1位に上り詰めたものの、第3四半期には逆にSamsungに抜かれ2位に後退した。

発売以来スマートフォンの代名詞とも言われてきたiPhoneも、いまやライバルたちの市場展開が活発化しており、これまでのような一人勝ちを続けていくのは難しい状況だ。Symbianが凋落してAndroidとiOSの一騎打ちという今の状況だが、Nokiaがこの冬から販売を始めたWindows Phoneスマートフォンの評判が予想以上に高いことから同OSが2社の間に割り込んで三つ巴の戦いに移行するといった様相も見え始めている。
向かうところ敵無しのiPhoneだが、ライバルの追い上げも厳しくなってきている

iPhoneは、当初各国で1事業者のみの独占販売を行うことでプレミア感を消費者に与えてきた。しかし、現在は各国で複数の事業者で販売する戦略に方向転換をしている。国によっては全事業者が取り扱っているケースもあるほどだ。

日本でもこの10月からはソフトバンクに加えてauからも販売が始まった。現在、iPhoneが好調な販売数の増加を記録できたのは、世界中で取り扱い事業者を順次増やしていく新しい戦略への転換の結果でもあるわけなのだ。その戦略で今後も新しい事業者との契約を増やしたとしても、他OSスマートフォンの勢いが予想以上に高まっているだけに販売数の伸び幅は限られてくるだろう。

そこでiPhoneの次の戦略として噂されているのが、次期モデルでのNFCとLTEの搭載だ。これまでとは次元の異なる製品となれば、再びスマートフォンの王者して他社品を圧倒する可能性は高い。LTEの普及は始まったばかりだ。多大な投資をしたLTEに現在の顧客を移転させたい事業にとってはLTE版iPhoneは、非常に魅力的かつ期待をもてる星だ。

またiPhoneにとっても、iCloudやSiriなど高速なネットワーク環境を必要とする最新のiOSの特長を生かすには、LTEへの対応は急務でもある。AppleとしてはLTEへの対応は、次のモデルで必ず行ってくるはずだ。そうなればLTE採用の全事業者が「iPhone 5」を導入する、という動きを見せるのは当然のものとなるだろう。LTE対応iPhoneがLTEの普及を一気に後押し、達成する可能性も大いにあるのだ。
2015年にはLTE利用者は3億に達すると見られている(Mobile Asia Congressでの講演より)

NTTドコモもこの冬からLTEスマートフォンを順次投入しているが、現時点では通信速度の高速化と料金の改定以外に大きな売出しポイントはないのが実情だ。今後LTEエリアを全国へ広げていく中で、LTE契約者を増やすためには「魅力あるLTE端末」としての次のiPhoneは是非とも欲しいというところだろう。


ただ。LTE普及にプラスとなるが、NTTドコモ版iPhoneに問題がないわけではない。
iPhoneは、NTTドコモが自ら進める「キャリア主導ビジネスモデル」と相反する製品でもあるからだ。独自のドコモ アプリケーションストアや課金をiPhone上で展開するのは難しい。しかしライバルのソフトバンクもLTEの開始を目前に控えた今、LTE利用者と市場の主導権を確保するためには、次期iPhoneの導入をためらっている場合でもないと考えられる。

では、もし次のiPhoneが登場するとしたら、いつくらいに登場するのだろうか?

LTEが搭載されるとなると、2つのケースが考えられる。一つは「LTE全部いり」の場合だ。LTEは現在FDD方式とTDD方式の2つがあり、同じ国内でも事業者ごとに採用が異なるケースがある。日本でもドコモはFDD方式だがソフトバンクはTDD方式だ。またドコモのLTEの周波数は欧米やアジアでメジャーな周波数(バンド)とは異なっている。

そのため1機種で全てをカバーするとなると、GSM/W-CDMA/CDMA2000に加え、FDD/TDDのLTEまでも対応しなくてはならない。これら全てをカバーし、iPhoneのような密閉されたスマートフォンに搭載できるチップセットはまだすぐには出てこないだろう。よって全部いりの場合、来年の後半もしくは再来年になってしまう可能性がある。

一方、1モデルと言われたiPhoneもiPhone 4にはCDMA2000バージョンが存在した。同様にLTEでもFDD版、TDD版と2種類のiPhoneを作り分けるのであれば、これは比較的早い時期に市場へ投入することが可能になる。この場合、早ければ来年夏の投入もありうるだろうが、10月にiPhone 4Sを出したことから半年後はスケジュールとしてはタイトかもしれない。そうなると次のiPhoneは、4Sと同様に秋発表、冬発売開始となるのが妥当だろうか。


さてドコモからiPhoneが出てくるとなると、もはや端末と事業者はセットではなく、これからは端末に応じて事業者を選ぶ、というヨーロッパやアジアの消費者と同じマインドが日本でも広がっていくだろう。iPhoneはソフトバンクとは一切関係ない、Appleが開発した製品であるが、日本ではソフトバンクに関連した製品というイメージが強い。

しかしauに引き続きドコモまでもが販売を始めれば、消費者にとってiPhoneとは「端末を最初に選び、回線は後から選ぶ」という存在になる。ドコモからのiPhone登場は日本で長らく常識であった端末の買い方、選び方も大きく変えるものになるだろう。

いずれにせよ、ドコモからのiPhone登場はauからの登場以上のインパクトを日本市場にあたえることは間違いない。

山根康宏
著者サイト「山根康宏WEBサイト」

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