新・銀座・写真空間」でお馴染みの東京・銀座にあるリコーフォトギャラリー「RING CUBE」が開設3周年を迎える。

国内を見渡してもここだけ、という円形の展示空間「ギャラリーゾーン」をもつ「RING CUBE」は、既存の写真展にはない空間演出と独創的な作家による作品展示で来場者の感性を常に刺激してきた。日本のメーカー運営のフォトギャラリーとしては、国内だけでなく世界の写真を体験できる貴重なギャラリーとなっている。

8階で展開されるメインの企画展以外にも、9階を使って開催される「NEXT GENERATION」では、才能ある若手作家を紹介し、世に送り出してきた。

活発な活動で、新しい写真の楽しさを表現してきた「RING CUBE」は、3周年をむかえ、今後どのようなギャラリーへと進化するのだろうか。

そんな「RING CUBE」の仕掛け人でもある、株式会社リコー RING CUBE運営リーダー 橋本正則氏に、現在の状況や今後の展開についてうかがってみた。

■若い人が訪れる、支持されるようになった銀座のフォトギャラリー
「RING CUBE」は、東京でも一等地ともいわれている銀座にある。これまで銀座のギャラリーと聞くと、年配の来場者が多かったのだろうが、「RING CUBE」では少し違うという。
「展示の内容によって、来場者は変わっています。驚くのは、写真展によって、20代~30代の人が半分以上を占める場合もあることです。リコーの製品で撮った写真展だとリコーのGRを所有した方が多く、著名な方の写真展だと年配の方が多いのですが、若い年齢の方が男女問わず来場される展示も多く、私どもも驚いています。」

取材中に開催されていた「長時間露光撮影なのにブレない人の不思議!満潮 ″High Tide″ という幻想的な写真展【新-写真空間】」のようなアーティスティックな写真展では、特に若年層のお客さんが多いという。

海外作家の写真展に関しては、
「全般的に若い方が多いです。海外の作家さんの作品に対して、興味を持っている若い方が多いということですね。」


■見たことない、ここでしか見られない!いつでも新鮮なギャラリーを目指す
「RING CUBE」が、ほかのフォトギャラリーと大きく異なるところをうかがってみた。
「これまのでのギャラリーというと、イメージが固定されやすいという傾向があります。それを意識的に破り、期待感を持っていただきたいと思ってきました。ワクワクしたり、今まで見たことがないというような、写真展を開催するギャラリーにしたいと思って取り組んできました。」
この3年間で、「RING CUBE」の展示は、どのように変わってきたのだろうか。
「この円形空間を生かして、ここでしか見られない、ほかでは見られないという企画を考えてきました。

特に世界の作家に目を向けたことで、写真という作品の幅がとても広いということを思い知りました。記録的な作品からアート的な作品まで、国内では見られない素晴らしい写真を、もっと日本で紹介したいと感じました。

カメラは写真を撮る道具にすぎませんが、撮影された写真には、無限の楽しみ方が広がるのではないかと考えたわけです。」

インターネットを使えば、海外の作家の写真はいくらでも見ることができる。しかし、Webで見るものと、オリジナルの生プリントで見るものとでは感動の伝わる大きさが全然違うのだ。

「同じ写真展でも何度でも見たくなる写真展。そのような作品や展示の仕方が3年間の試行錯誤を通して出来上がってきたのだと思っています。」


■作家とともに創りあげる写真展
「RING CUBE」は円形のギャラリー空間をもつ珍しいギャラリーだ。この円形空間が、「RING CUBE」の展示を、独創的かつ刺激的なものにしているといってもいいだろう。

「一般のギャラリーのように作品を展示するだけだと、会場の空間に作品が負けてしまいます。会場に負けない作品、展示を探究することで、立体的な写真展示ができるようになりました。

作品の内容にふさわしい環境にすることで、その作品を撮影した場所にいるような体験を来場していただく人にも感じてほしいのです。」

特に昨年は、展示会場に大きな動物や鯨などの生き物や、積雪のオブジェがあったり、ミニチュアがあったり、「あっ!」と驚くような演出により、写真を身近に見ることができた。

こうした「RING CUBE」ならではの立体的な写真空間で、もっとも苦労するのが、1ヶ月におよび開催される夏企画の展示だという。

「動物園であったり、鉄道テーマパークであったり、海中に潜ったようにも錯覚するような夏休み特別企画「海獣たちとにらめっこ」など、作家さんと一緒になって作り上げられた写真展は、企画から考えれば1年がかりという展示で、写真展自体が作品のような思い入れで創りあげています。」


■若い作家の発掘
橋本氏は、最近は、若い作家の展示が増えてきていることが嬉しいという。

「写真雑誌で投票の多い人の作品を展示したり、公募展の中で今までにないような作品を選ばせていただいたりしています。9階の展示は作家さんの持ち込みですが、展示の仕方は、我々も一緒になって考えさせていただいています。

『NEXT GENERATION』では、この3年間で7名の方の展示を実現してきましたが、RING CUBEで展示することにより、作家の方も自信がつき、新たにモチベーションを上げて活発な活動につながっていることが嬉しいですね。」

橋本氏によると、素晴らしい写真の素養があるのに、なかなか世の中に出られないという方は、まだまだ多いという。そうした作家の作品を「RING CUBE」で展示することによって、作家の活動を支援していければという想いから、「NEXT GENERATION」というコーナーが誕生した。

「NEXT GENERATION」で作品展を開催した作家の人たちが、関西御苗場の写真展ではトークショーに出演し、さらに後に続く作家の励みにもなっている。
「『NEXT GENERATION』で自分の作品を展示して、次は壇上から作品について話す場に活動を広げ、話をすることによって、さらに自分の作品に向き合って次の作品の力になるのです。」



■日本と海外との橋渡しになるギャラリー
「RING CUBE」では欧米の作家だけでなく、アジアを含め、幅広い海外の作家の作品が紹介されている。
「コラボレーションさせていただいたのが、よかったのではないかと考えています。直近では、アメリカの写真専門誌の『PDN』です。『ニューヨークフォトフェスティバル』へ行ったときに編集部へ寄らせていただいて、『PDN’s 30』の写真展を日本で初めて実現することができました。」

橋本氏によれば、海外の作家の作品を日本で展示することで、日本の作家に対しても大きな刺激になるのだという。

海外の多様で自由な写真作品にふれることは、日本の若い作家の方が海外のコンペティションに出品する勇気にも繋がっていくという。


■doughnutsメンバーで実現できた写真展
「RING CUBE」には、「写真の楽しみを人々に発信したい」、「写真の新しい表現方法を探求したい」、「写真に夢を託す人たちを応援したい」、「写真文化をもっと盛り上げていきたい」という人たちとともに活動し成長し続ける、RING CUBEサポートスタッフdoughnuts(メンバーは随時募集)がいる。

昨年は、doughnutsメンバーの企画によって上田義彦写真展「火山の島」が実現した。

三宅島は観光収入で成り立っている島だが、全島避難が解除されたにも関わらず、来島する人がいなかった。そうした状況のなかで、上田義彦写真展「火山の島」は、三宅島復興に挑む島民の魅力を表現した。

「上田さんといえば、とても有名な写真家ですが、上田さんの門を叩けたのは、doughnutsメンバーの純粋な想いがあったからできたのだと思っています。」と、橋本氏は当時を振り返る。

同企画は、ロケハンから本撮影まで、doughnutsメンバーが中心となり実現まで至った。彼らの熱意がなければ、上田義彦写真展「火山の島」はなかっただろう。


■日本の写真を進化させるRING CUBE
「RING CUBE」は、今後、どのような活動を目指していくのだろうか。
「作品を見て、『これ、どうやって撮ったんだろう』と考えさせられるものが大事だと思っています。作品の前での滞在時間がすごく長いというように、作品が、見る人に向けて多くの情報を発信するような写真展を増やしていけたらと考えています。」

また、ギャラリーの姿勢については、
「世の中には、感動予備軍の作品がいくつもあり、それを見つけることがギャラリーの仕事ではないかと思います。

いろいろなギャラリーをまわりましたが、どこも静かで大人の人しかいないのですよ。子供が走りまわったり、触ってみたりしたくなるような写真展があってもよいと考えています。」


「RING CUBE」の活動では、「.写真を感じる空間」、「.新しい写真家を世に出していく」、「海外と日本との橋渡し」、という3つのことを意識しているそうだ。

「RINGCUBE」というギャラリーには、「写真を撮る(創る)人」、「写真を観る人」、「写真に参加する人」という、3つの写真の楽しみ方が共存している。

これからも、来場者が度肝を抜くような楽しい空間を提供する「RING CUBE」は進化し続けていきそうだ。

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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