心が見ている景色を写真にしたら、どんな写真になるのだろうか。
そんな不思議な写真と出会える曽根陽一氏の写真展「Naked Flower」が、東京・銀座にあるリコーフォトギャラリーRING CUBEにて開催中だ。

カメラは見たものを写しとれるが、撮影した写真を見て、感じた感動と違うと思ったことはないだろうか?

曽根氏は、見たことのない不思議で鮮烈な花や植物の写真作品「Naked Flower」を生み出した。普通の景色の中に映し出される迫力あるディティールの植物は、何度見ても新鮮で、見飽きることのない驚きを与えてくれる。

しかも作品は、一般の人でも手にできるリコーのコンパクトデジタルカメラ「GR DIGITAL」で撮影されているというから、さらに驚きだ。
日常の景色の中に植物の葉脈までハッキリと見える作品はゾクゾクするほどの驚き

曽根氏にお話しをうかがってみた。

■想いはいつか実現できる!35年前の感動が驚きの作品を生み出した
今回の写真展と作品の発表には、曽根氏の写真家としての長年の想いが詰まっていた。
その想いとは何か、うかがった。

「今から35年前に写真家 山村雅昭氏が日中シンクロで撮影した植物の作品を見たんです。その時、こんな不思議な写真を撮りたいと思いましたが、フィルムカメラでの日中シンクロでは思い通りの写真が撮れず、そのまま心の中に仕舞い込んでいました。

日中シンクロでは、絞りとシャッタースピードの問題が一番重要となってくるんです。ところが、一眼レフは1/250までしか、フラッシュを同調できないんですよ。15年くらい前に植物の葉の写真展をやったときも、同調の問題があって思うようには撮れなかったです。それがシャッター速度1/2000でも全速同調できるリコーのGR DIGITALと出会って、当時考えていたことが一気に出てきたんです。」
35年前の感動を、今作品に昇華できたと語る、曽根氏

「日中シンクロ」は、通常、夜や暗いシーンで使うフラッシュを日中の明るいシーンで使う技法だ。逆行時の補正に使われたりするが、フィルムカメラ時代はフラッシュの強さや露出設定、フラッシュのシャッター同期などの制限など細かい設定が必要なため、失敗も多く、経験と高い技術が必要な撮影方法でもある。

デジタルカメラの登場で、補助的な日中シンクロは一般の人でも意識せずに使えるようになったが、あくまで補助的な利用に限られる。これを曽根氏は、不思議で驚異の写真世界へと昇華したのだ。

こうなるともう止まらない。
曽根氏は、35年の想いを一気に爆発させて1年をかけて今回の作品を撮影し、今回の写真展の開催となった。

立体的な展示が作品の不思議さをさらに際立たせる「Naked Flower」写真展

曽根氏は、もともと植物が好きで、日頃から植物の写真は撮っていたが、花はあえて撮らなかったという。理由は、自分が納得のいく花の写真が撮れないと思っていたからで、ずっと自分の納得できる花の撮影方法を模索していたという。

曽根氏は、見た人に驚きのある花の作品を目指し、日常でただ綺麗としか見られない花の生命感や力強さを通して、不思議と驚きのある作品を作り上げた。

今回の写真展のタイトル「Naked Flower(裸の花)」は、まさにそうした曽根氏の想いを表している。

花の生命感や力強さを通して、不思議と驚きのある作品を作り上げた

また、今回の作品は、特別な場所でなく、目黒駅の数km四方を四季を通した1年で撮影されているところも驚きだ。日頃、何気なく身のまわりにある景色が、これほどの驚きと迫力のある景色だったことに改めて驚かされる。

曽根氏に、使用したGR DIGITALについてうかがった。
「20cm以内のところで小さい花を撮っているので、マクロに強く、ストロボがレンズに近いGR DIGITALは好都合なんですよ。」

1/2000でも全速同調できる日中シンクロとマクロに加え、解像度の高いレンズは、今回の撮影に欠かせないものだ。また、小型軽量な本体は、日中シンクロをしながら見上げるアングル撮影にも都合がよかったという。

マクロに強く、ストロボがレンズに近いGR DIGITAL


■海外のように気に入った写真作品は購入できる
RING CUBEは、今回の写真展から展示されている作品を購入しやすいように作品リストと価格を会場で提供開始したという。

欧米では当たり前だが、気に入った写真を気楽に購入できるようになったことは、写真愛好者にとっても、日本の写真文化にとってうれしい対応だろう。
作品を購入しやすいように作品リストと価格を会場で提供開始


■素人から写真家へ 詩人になりたかった青年の決断
曽根氏が、写真家としてデビューした経緯もドラマチックだ。
「写真に興味を持ったのは、22歳くらいの頃です。それまでは物を書く道に進みたくてフランス語を勉強していたんです。当時は大それたことを考えていて、詩人になりたかったんです。」。
最初は詩人になりたかったという曽根氏のアクティブな生き方は学ぶべきことも多い

曽根氏は、書店でのアルバイト時代に詩人 吉増剛造氏に偶然出会ったという。同氏から朗読会のチケットをもらったりして詩の世界にのめり込んいたそうだが、書店の部署移動が曽根氏の運命を大きく変えることになる。移動した部署で、「カメラ毎日」の「ワークショップ写真学校、今期をもって閉校します」という告知をみたことで写真家の道に進むことになる。

当時のワークショップ写真学校は、講師に森山大道氏、横須賀功光氏、荒木経惟氏、細江英公氏、東松照明氏と、蒼々たる写真家から指導が受けられる今では考えられない環境だった。

受講者は写真学校出身やアシスタントなど経験者の多い中、暗室作業の経験もなかった曽根氏は、相当厳しい指導で鍛えられたという。「きつかったですけどね。でも終わるころには、しっかり写真を学べました。」と、曽根氏は当時を振り返る。

山村雅昭氏の日中シンクロ作品に出会ったのも、この年だそうで、濃密な1年が今の曽根氏誕生の力となったようだ。

現代は失敗を恐れるあまり、挑戦する勇気を失ってしまう人も多いが、曽根氏のアクティブなチャレンジする姿勢は、自分の道を開くために学ぶことも多い。
花の生命感や力強さを感じる「Naked Flower」写真展


■新たな2つのテーマ「路上植物園」「Conquest」に挑む
1年にわたる「Naked Flower(裸の花)」を取り終えた曽根氏に、今後の活動をうかがってみた。

「植物でもう一個、終わっていないテーマがあるんです。タイトルは『路上植物園』にしようかと思っているんです。

街中を歩いていると、とんでもなく変わった植物が時々生えているんです。撮り始めていたんですけど、今、中断していて、それを再開したいと考えてます。

もうひとつは、フィルムの頃に二眼レフで撮っていたもので、廃棄物を植物が覆っていく作品です、それをデジタルで撮り直そうかなと思っています。こちらは『Conquest』というタイトルで、侵略や浸食とか、再生とかいくような感じのテーマです。」


写真には、普段見ている景色の中に、我々の知らなかった世界を表現できる力がある。
「Naked Flower(裸の花)」は、そんなワンダーランドをのぞける写真展だ。
何度見ても、驚きがあり、何度見ても見飽きない。

是非、実際の「Naked Flower(裸の花)」作品で驚きを体験してほしい。

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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