日本の個人金融資産は約1500兆円を超えた水準にありますが、その半分以上、800兆円弱が預貯金で運用されています。「日本人は預金好き」と言われますが、それを実証する数字といえるでしょう。

預金は、特に安全性、流動性(換金性)の面で優れた金融商品です(意識していない人も多いでしょうが、金融商品です)。バブル崩壊前は郵便貯金の利率は6~7%ありました。約10年預ければ倍になった計算で、今から見れば、当時は「夢のような」金融商品だったことになります。

ところが、現在の預貯金の金利は1%にも満たない、異常に低い水準です。しかも、長期に続いています。収益性という点では満足できるはずもない商品ですが、それでも多くの人が資産の大部分を預金にしています。これは、預金が「絶対に安全」と考えられているからです。

■「預金=100%安全」ではない
ところが、預金にもリスクがあります。代表的なリスクは、「物価上昇リスク」と「信用リスク」です。預金のメリットとデメリットを整理してみましょう。

預金には、元本が保証され、株式投資のようにお金が減ったり、なくなったりしないという「安全性」があります。しかし、預けたお金の金額が同じままでも、購入するモノの値段が上がれば、同じ金額での購買力は落ちることになります。つまり、インフレ(物価上昇)はお金の実質的な価値を目減りさせます。

たとえば、私が小学生時代の1970年からの30年余で、物価は平均して3.2倍になっています。上昇率の最も大きかった教育費は、同じ期間に7倍、最も小さかった家電製品・家具等でも2倍になっています。

デフレが続く中、本当に物価物昇を気にする必要があるのかという声も聞こえてきそうです。しかし現在、政府は日銀と連携したアベノミクスで、2%の「物価目標」を設定しようとしています。これは一種のインフレ政策です。

デフレが10年以上続く日本で、2%のインフレを起こすのは容易ではありません。しかし、円安でガソリンなどの輸入物価が上がっていますから、こうした動きが波及すれば、物価上昇の可能性はそう低くもなさそうです。

しかも、過去の日本の実績を見れば、銀行が物価上昇にそのままスライドして金利を引き上げていくかどうかは楽観視できません。

次に信用リスクですが、これは銀行が経営破たんし、預金が全額引き出せなくなるというリスクです。今日、どこかの金融機関がそうなるという意味ではなありませんが、制度上は、2005年のペイオフ解禁で現実性がありますし、現に、2010年の日本振興銀行の経営破たんで初のペイオフが発動され、同行預金者の約3%が、預金の一部を失っています。

銀行にお金を預ける際には、「この銀行は倒産しないか?」という信用リスクを厳しくチェックすることが必要なのです。


■預金のメリットは流動性
一方、預金の最大のメリットは「いつでも現金化できる」という流動性です。この点で、預金に勝る金融商品はありません。

やや流動性に劣る定期預金でも、1カ月から数年程度まで満期を幅広く選択できます。従って、資金の性質を考えながら投資期間を選べば、流動性については懸念する必要はないといってよいでしょう。仮に、定期預金を満期前に解約したとしても、普通預金並みの金利になるか、定額の手数料をとられる程度です。

預金のメリットとデメリットをまとめると次のようになります。

 1.ペイオフ解禁で安全性が完璧ではなくなった
 2.流動性の懸念はない
 3.収益性は不十分である
 4.長期的には物価上昇に負ける可能性がある

以上のことから、預金は近い将来に使うことが決まっている資金を一時的に置いておくという用途に適していると言えます。預金の預け入れ水準は「2年以内に使う予定のある資金」と「失業などに備えた予備資金(一般的には生活費の6~9カ月分)」の合計金額の範囲内におさめることが理想です。

資産運用の第一歩は、全体のどの程度を預金にするべきかを検討することといってもよいでしょう。過剰な預金で収益チャンスを逃すようなことがないように注意すべきです。

(小沼正則)

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