前回、「アベノミクスの成否のカギを握っているのは、実は中国かもしれない」と書いた。日中の経済関係の深さに比して、近年の外交関係の冷え込みぶりは際立っている。

政治的対立があっても、経済関係が良好な国と国との関係があり得ないわけではない。ただ、それは「政経分離」を許容する相手側の政治体制・風土があって初めて成立する。以前に比べれば緩んだとはいえ、共産党の支配が国の隅々に行き渡った中国では、それはなかなかに難しいことだ。

今回は、中国の政治事情に迫ってみたい。


■派閥対立に注目が集まるが…
中国は共産党の一党支配下にあり、重要事項のすべては7人の党幹部で構成される政治局常務委員会で決まる。

日本のマスコミ報道を見ると、「太子党」とか「共青団グループ」「上海グループ」などの派閥についての言及が多い。現在の習近平国家主席は太子党、「リコノミクス」の李克強首相や胡錦濤前主席は共青団グループ、江沢民元国家主席は上海閥の頭目である。

太子党は「党幹部の子弟集団」のことで、共青団は共産党の青年組織である「共産主義青年団」のこと。ただ、こうした区分を固定的に見るのは誤りだ。中国の大学生はほとんどが共青団に加盟しており、いわば「エリート予備軍」。幹部の子弟も共青団に加盟するから、その中で役員になっていれば共青団グループでもあるということになる。

たとえば、2012年の第18回大会で常務委員会入りをウワサされた(実現しなかったが)劉延東政治局員(女性)は元共青団幹部であるが、劉瑞龍元農業副部長が父親で太子党でもある。しかも、江沢民元国家主席とも親しかった。

日本の自民党でも、最近は派閥横断的に特定の人物を推す傾向が出てきている(安倍政権はその色彩が強い)が似たようなものだ。複数のグループが争っているのは事実だが、その分け方は厳密なものではないことに留意する必要がある。

■習近平の権力基盤は強い?
何人かの「中国通」の人に聞くと、習近平国家主席の権力基盤は、前任の胡錦濤前主席よりも「強い」という評価だ。

先に述べた日本のマスコミ流の評価に従えば、胡錦濤時代、前主席支持派は常務委員(当時は9人)のうち4人にすぎず、過半数を占めていなかった。2003年の就任当時は「親日派」と呼ばれた胡錦濤前主席が、その後半、尖閣諸島問題などで対日強硬派に転じた背景を、ここに求める論調が多い(一般に「反日的」なのは上海閥>太子党>共青団とされている)。これに対し、習近平主席は常務委員会の過半を「掌握」している。

権力基盤を常務委員会という狭い範囲に限定すれば、習近平体制は「安泰」だろう。だが、そう単純ではないのが政治の常である。前述したように、派閥は固定的なものではないからである。

■世論の動向を気にするのは中国も同じ
中国に限らないが、政治家は世論を気にする。日本ではよほどの政治家でない限り、「次の選挙」で当選することが最優先だし、党首でもある首相は、配下の議員の当落を気にしないわけにはいかない。

ともすると、「中国は一党独裁なので世論を気にしない」と思われがちだ。意思決定がスムーズなのは事実だが、「世論を気にしない」というのは間違いだ。たとえば、日本などでは国会の議席数さえ十分なら、「選挙で信任を得た」という大義名分で政策を実行できる。だが、中国ではその大義が使えないから、始終、インターネットなどの世論動向をウォッチし、気にかけなければならないのである。選挙がないのも「善し悪し」なのだ。

国民も、日本などでは気に入らない党には「次の選挙でお仕置きしてやろう」と投票日まで待つが、中国ではそうならず、ストレートにデモや暴動になる。中国では年間2万件以上の暴動が起きている。しかも、経済成長が鈍化しているため、毎年、新規の労働力となる大学卒業者が職に就けず、アブれ始めている。これは、社会の安定にとって危険信号だ。

先の例を挙げれば、胡錦濤前主席が対日強硬派に転じたのは、常務委員会内の勢力図だけでなく、中国国内の世論を気にした「人気取り」の面が大きいのである。こう考えれば、共産党指導部内では「強い」とされる習近平主席の権力基盤も、国民との関係ではそう強くないとも言えるのである。

中国の状況を見る際には、マスコミの報道だけでなく、できるだけ多面的に見ることが必要だ。

(編集部)

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