安倍首相は10月1日、2014年4月から消費税率を8%へと引き上げることを正式に表明した。2015年10月にさらに10%へと引き上げることには余地を残したが、安倍政権は、懸案の財政再建に向けた一歩を進めたことになる。

それにしても、2012年6月、野田前政権下の「三党合意」(民主、自民、公明)で決まったスケジュールを実行することに、ここまで慎重姿勢を取ったのはなぜだろうか。ここには、増税は国民への評判が悪いので、選挙への影響を恐れたというだけでない背景がある。

■賛否両論があったのはなぜか
安倍首相の表明をめぐっては、意外なほど、「反対」論が多かった。野党は当然にしても、「アベノミクス」の生みの親と言われる浜田宏一・内閣官房参与(米イェール大学名誉教授)が延期論を唱えたほか、1%ずつの段階論も多かった。

その根拠は、景気回復がまだ軌道に乗っていないことだ。この段階で増税すると、せっかく上向き始めた景気を「腰折れ」させてしまうという主張である。

日本国内は3四半期期連続で国内総生産(GDP)が成長しているが、成長を支えているのは、東日本大震災からの復興事業をはじめとする公共事業(安倍政権発足後の補正予算と2013年度予算で増額された)と、金融緩和による円安が支えた輸出と、株価など資産価値の上昇による消費増加である。いわば、安倍政権成立以降の政策に頼ったものなので、「自律的な回復ではない」と判断される余地があるわけだ。

しかも、米国では財政をめぐる与野党の対立で政府機関の一部がストップし、中国でも不良債権処理が急がれる。新興国からの資金流出も止まっていない。世界経済も不透明な要素が多いわけで、増税に躊躇(ちゅうちょ)するのも当然ではある。

■「日本発の危機」を恐れた?
それでも、増税を決断したのはなぜか。安倍首相は、数々の経済指標が好転していることをあげ、増税しても、一定の経済対策をとれば問題がないと説明した。経済指標の好転は事実だが、本当に「問題がない」と判断したかどうかは怪しい。

それよりも、日本の累積財政赤字の解決が、これ以上延ばせないところにきていることが本質であろう。何しろ、日本の累積財政赤字は先進国中最悪で、GDPの2倍を超えている。比率だけなら、あのギリシャの約2倍である。

これだけ赤字が多いと、普通の国なら国債価格が暴落(金利は上昇)し、外国の支援をあおぐか、債務不履行(デフォルト)するしかない。国家の破たんである。だが、日本に関しては、内外の投資家が「まだ増税の余地がある」と思っているため、暴落しないできた。

だが、高齢化で社会保障制度や医療費の負担はますます増えるし、復興予算もあと10年は必要だ。その上、東京オリンピックのための一定の支出も避けられない。しかも、日本は2015年度までに国と地方の赤字を名目GDP比で半減する(対2010年度比)という目標を「国際公約」している。これは安易に撤回できないが、ここで増税に踏み出さないと事実上の「撤回」と投資家に受け取られ、「日本国債は大丈夫か?」と不安に思われてしまう。

仮に投資家がいっせいに国債を売れば、国債価格が急落し、「日本発の国家債務(ソブリン)危機」ともなりかねない。今は日銀が多額の国債を購入しているので、価格は下落しにくいとはいえ、それでも、一定数の投資家が動けばどうなるか分からない。

だからこそ、黒田・日銀総裁は、増税を見送れば「国としてきわめて困難な状況に陥る」と述べ、安倍首相に増税の決断を求めてきたのだろう。思い返せば、2010年、菅首相が公約を翻し、参議院選挙前に「消費税増税」を打ち出したのは、ギリシャ危機がきっかけだった。

消費税増税だけで財政問題が解決するわけではないのだが、それでも、政府としても投資家の「目」を気にせざるを得ないということなのだろう。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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小沼正則
メディアバンク株式会社
2013-07-29