米労働省は11月8日、10月の雇用統計を発表した。それによると、非農業部門雇用者数は前月比20万4000人の増加で予想を大きく上回った。併せて8、9月の雇用者数も上方修正され、米国の雇用情勢の改善が印象づけられた。7~9月期の国内総生産(GDP)成長率も、年率換算で前期比2.8%の増加となった。

10月前半には、米議会の混乱で政府機関が一部閉鎖となり、この負の影響がさまざまに予想されていただけに、市場関係者の中には安心感が広がっている。連邦準備理事会(FRB)による金融緩和の縮小(出口)も、またもささやかれるようになった。

だが、ちょっと待ってほしい。果たしてそうなのだろうか。


■「出口」は早くはない
ついこの間、政府機関の閉鎖問題が華やかな頃、市場関係者は「出口は来年」との観測が支配的だった。それからわずか半月、雇用統計の結果が良好だったからといって、まさに「手の平返し」のような論評は、いかにも見苦しい。

中長期的に見れば、「出口」は当然である。だが筆者は、大方の観測とは異なり、FRBの「出口」は早くはないと思う。その根拠は、今回の結果を受けてのバーナンキ議長、イエレン次期議長のコメントが慎重姿勢に終始していることだ。アナリストの一部にも、「(今回の統計には)やや怪しい内容が多く含まれている」といった見解があるようだ。

つまり、バーナンキ議長らは、現在の米国の景気回復が、資産価格上昇や住宅金利の低下といった金融緩和の「効果」によるところが大きく、必ずしも自律的なものとは見ていないということを意味している。

景気が自律的なものではない以上、それを支えている金融緩和を縮小することはありえない。FRB議長も、議会に任命される公職である。あとになって、「景気を冷え込ませた」との責任追及は受けたくない。景気の自律回復が確かなものだと確信を持てない限り、「出口」に踏み込むはずはないのである。

■投資家は大局を見失うべきではない
もうひとつ、現在の世界経済の本質的姿を見ておくことが必要だ。

グリーンスパン前FRB議長は、その著書の中で、2008年のリーマン・ショックに至った住宅バブルのようなバブルは「避けがたい」という趣旨のことを述べている。

世界にはマネー、ドルがあふれている。リーマン・ショック後の金融緩和で、マネーはさらに増え、「カネ余り」となった。カネが余っているのだから、それを使って、世界のどこかでバブルが起きるのは避けられない。現在の世界経済は、そのような必然性を組み込んでしまっているのだ。

だから、グリーンスパン氏は「バブルを避ける」ことではなく、バブルが破裂した際の「セーフティネットを整える」ことが必要だと力説している。これは、「好き嫌い」の問題ではなく、現実なのだという。「出口」は必要だとしても、この構造自身を変えるのは簡単ではないし、ほとんど不可能だ。

そう考えれば、FRBが金融緩和をできる限り続け、株高を演出することは必然的ということになる。投資家にとって必要なのは、目先のデータの変化に惑わされず、こうした大局を理解しておくことなのではないだろうか。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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