安倍政権が誕生して約1年が経過した。この一年で株価は約5割も上昇、これに引っ張られる形で、企業の景況感や業績も好転し、実際に、国内総生産(GDP)成長率も上向きだ。「デフレ脱却」はまだ確かではないが、日本経済の見通しが明るくなったことは確かだ。

支持率はやや下がったが、それでも高いレベルで、安倍政権の視界は良好に見える。

だが、マスコミによれば、特定秘密保護法、来年4月の消費税引き上げ、原子力発電所の稼働再開という「逆風3点セット」がある上、安倍首相による12月26日の靖国神社参拝という要素も加わった。

この「4点セット」の先行きがどうなるか、考えてみた。


■消費税増税の影響は?
最大の問題は、消費税増税の影響である。これは、直接に経済に影響を与えるということもあり、その影響が読みにくい。4月以降の消費の冷え込みは間違いないが、どの程度のものとなるか。大方の上場企業は、現在の「駆け込み需要」とならせば「たいした影響はない」というもののようだ。だが、それは経営に余裕のある上場企業だから言えるセリフで、中小企業はそうも言えない。中小企業にとっては、4月以降の落ち込みが大きくなれば死活問題となる。

だから、安倍政権も2014年度予算で公共事業を積み増すなどで、景気悪化を防ごうとしている。もっとも、公共事業が景気に与える効果は、昔よりも小さい。それでも「やらないよりまし」という政治判断だろう。

むしろ問題は、4月以降の景気悪化が深刻化すると、15年10月に予定する消費税の「再増税」が難しくなることだ。安倍政権は「14年度末までに増税の是非を判断する」としているので、その前、とくに7〜9月期のGDPが悪化することは避けたい。そうなると、景気対策で「お手盛り」することが必要になる。14年度予算に加え、早めに補正予算が組まれる可能性もあるだろう。

また、増税しないと、「2020年にプライマリーバランスを黒字化する」という国際公約が果たせず、世界の投資家に不信の念を抱かれてしまう。安倍政権としては、当面は景気対策をしてでも、増税して投資家の信認をつなぎとめたいだろう。この辺は実に微妙で、難しい綱渡りだ。

それに比べると、特定秘密保護法と原発問題は、そう難しくない。「小さな問題である」という意味ではなく、あくまで難易度の比較だ。

■靖国問題、米国の反応は?
意外に問題になりそうなのが、靖国問題だ。

安倍首相も、中国や韓国の反発は折り込み済みで、「どうせ首脳会談が開かれていないのだから、これが多少は先に伸びてもたいしたことはない」と思っての行動だろう。

だが、今回の靖国神社訪問でいちばん助かったのは、実は、韓国の朴大統領だ。朴大統領に対しては、韓国内で「独善的」との批判が高まっており、とくに右派マスコミが「日本に対する態度は行きすぎ」との論調を強めていた。だが、安倍首相の靖国参拝のおかげで、朴大統領の「反日」姿勢は正当性を高めてしまった。韓国内で「対日関係改善」を求める声は、当面は小さくなってしまうことになる。

安倍政権にとってはむしろ、米国が「失望」という異例の表現で不満を表明していることが大きい。菅官房長官や安倍首相のブレーンである岡崎久彦氏(元駐タイ大使)は、「対米関係が悪化する可能性がある」として参拝に異論を述べていたようだが、これは、事前に米国の反応を察知してのものだろう。オバマ大統領によるコメントは年明けになるようだが、どんな態度となるか、注目したい。

何しろ、米国との関係が悪い政権は長続きしないのが「日本の政治の常識」。長期政権であった中曽根政権も小泉政権も、米国との関係はきわめてよかった。岡崎氏らが心配するのも、理由のないことではない。

むろん、今回の靖国参拝で、日米同盟がなくなることはない。だが、11月の防空識別圏問題で米国は中国に譲歩し、安倍政権は煮え湯を飲まされた。安倍首相は、この日米の「すきま風」をどの程度に判断したのだろうか。

明確な将来展望と判断さえあれば、政治家の思い切った行動は「勇気ある行動」となる。だが、それがないままの行動は「暴走」である。経済政策で順調なかじ取りを行ってきた安倍首相だけに、市場関係者が「なぜ?」と思うのも、当然のことなのだ。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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