新興諸国経済への不安が高まっているところに、1月の米ISM製造業指数が大幅な低下を見せたことで、世界の株式市場は一気にリスク・オフモードへと転換してしまったかのようである。

この間の動きを整理してみると、中国では、1月のHSBC中国製造業購買担当者景気指数(PMI)が、半年ぶりに50を割り込み、景気減速懸念が広がった。昨年の中国の国内総生産(GDP)は実質で7.7%と、2年連続で8%を下回っている。理財商品のデフォルト(債務不履行)という「影の銀行(シャドーバンキング)」問題も懸念されている。

アルゼンチンでは、同国の外貨準備の減少を警戒して通貨ペソ売りが進んだ。トルコは通貨安に対応するため、翌日物貸出金利を4.25%も引き上げて年12%、1週間物レポ金利も5.5%引き上げて10%とした。ブラジル中央銀行も、7会合連続で利上げを行っている。新興国経済の動揺は、米国経済の安定を背景に収まりかけていたが、ここに3日の米ISM製造業指数の低下が加わったことで、再び見通しが悪化し、東京市場は全面安の展開に追い込まれてしまった。




■背景はさまざま
一連の事態の背景はさまざまだ。中国の場合、政府が従来の高成長から中成長へと政策のかじを切り替え、さらに「リコノミクス」による改革も始まっており、一定の景気減速はやむを得ないところ。

トルコやブラジルの例は、新興国特有の「共通性」をもつ。米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和縮小を受け、民間資金の新興国市場、とくに経常収支赤字国への流れが減少、一部で米国に逆流していることがある。これらの国は通貨安に見舞われて輸入物価が上昇、当局は金利を引き上げざるを得ず、一部の国にはスタグフレーション(不況とインフレの同時進行)的な状況も見られる。

アルゼンチンはこの事情もいくらかはあるが、主要には、2000年代初頭のデフォルト以来、経済の再建が遅遅として進んでいないことと、隣国ブラジルや欧州諸国の景気減速による輸出減が背景だ。

米投資銀行のモルガン・スタンレーは、通貨安の傾向にある諸国を「フラジャイル・ファイブ(ぜい弱な5通貨)」と呼んでいる。ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカの5カ国・通貨である。

また米国のISM製造業指数の低下は、1月の大寒波による経済活動の低迷という側面もあり、さほど心配する必要なないだろう。

■通貨危機には至らず
ところでエコノミストの一部には、今般の動きを1990年代末のアジア通貨危機との共通性を指摘する向きもある。だが現在、ほとんどの新興諸国は豊富な外貨準備を有していること、また通貨スワップ協定(複数国が互いに通貨を融通する取り決め)を結んでいる国も多く、再来はあり得ないだろう。外貨準備に不安があるとされるアルゼンチンの場合、デフォルトの影響で国際金融市場との一体化が進んでいないこともあり、ペソ安が金融市場に与える影響は限定的である。中国の理財商品の問題も経済全体への影響は限定的で、システミックリスクとなることは考えられない。

マクロ的には、シェールガス革命などの恩恵もあり、世界最大の市場である米国経済の回復が鮮明である。また、日本やドイツも政策に支えられた経済から、徐々に民需主導の自律的な回復が見えてきた。

リーマン・ショック後の世界経済は中国を筆頭とした新興国の成長に助けられたが、今般は逆に、日米独などの先進諸国の成長に引っ張られる形で、世界経済は安定しよう。

成長を確かなものにするため、新興諸国、とくにトルコやタイなどは「政治リスク」を縮小させたり、国有企業の改革を進めたり、様々な政策課題に取り組むべきだろう。米連邦公開市場委員会(FOMC)も、資産買入れの減額を慎重に進めることが肝要である。

■突っ込み買い好機
以上のことから、この下げは一時的であり、突っ込み買い好機と判断している。ここ3週間取り上げた小型株の下げはきついが、仕込み場と割り切りたい。

(小沼正則)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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