01

日本郵便は、自社で推進しているオープンイノベーションプログラムを発表する「『POST LOGITEC INNOVATION PROGRAM 2018』Demo Day」を開催した。

■社外企業との共創により新しいムーブメントを起こす
オープンイノベーションプログラムとは、自社で保有する資源や技術と、社外の技術・アイデアなどとを組み合わせることで革新的な価値を作り出すものだ。今回は採択企業となる2社と、共創スタートアップ企業4社がプレゼンを行った。

開会に先立ち、同社の代表取締役社長兼執行役員社長である横山邦男氏は「日本郵便は創設者である前島密の思いを受け継ぎながら時代のニーズに合わせてさまざまな仕組みを開発し、多くの分野で世界の最高レベルの品質を実現した」と紹介。現在はeコマースの拡大に伴い物流量が急増しているにもかかわらず、人材の慢性的な不足により「宅配クライシス」とも呼べる状況になっていると指摘する。


日本郵便代表取締役社長兼執行役員社長 横山邦男氏

「これまでの延長線上の発想ではダメ。時代の潮流に先んじる、革新的で最先端の技術に取り組んでいくことが大事だ」と横山氏。「このオープンイノベーションプログラムを通じて、世の中を爆発させるような価値創造につなげ、協業による共創を期待している」と話した。

■郵便・物流のバリューチェーン全体をテクノロジーで解決する
今回のテーマは「郵便・物流のバリューチェーン全体をテクノロジーで解決する」。テーマについては、物流拠点におけるオペレーションの「自動化」、「見える化」、郵便局間におけるダイヤの『最適化」が挙げられた。これに基づいて、郵便・物流ネットワークの一部を利用した実証実験や、このネットワーク上での早期実用化を推進するとともに、協業するサムライインキュベートから1社1000万円の出資を検討し、日本郵便からも出資を検討するとともに、実証実験費用の拠出を検討。また業界スペシャリストからのメンタリングを行ってきた。そして2018年の最優秀賞となったRapyuta Roboticsとエー・スター・クォンタムの2社が実証実験を行った。

Demo Dayでは、今回の共創スタートアップ企業となったAquifi、Yper、オプティマインド、自律制御システム研究所の4社がプレゼンテーションを行い、来場者が選ぶ「POST LOGITEC INNOVATION AWARD観客賞」と、審査員が選ぶ「POST LOGITEC INNOVATION AWARD最優秀賞」を決定する。まずはこの4社がプレゼンを行い、そののち2017年の採択企業であるRapyuta Roboticsとエー・スター・クォンタムのプレゼンへと移る流れだ。

03

04

05

06

■ラストワンマイルのルート最適化に挑むオプティマインド
まずはオプティマインドの代表取締役社長である松下健氏が登壇した。同社が行っているのは、どの車両がどの訪問先を、どの順に回るとよいのか、配送ルートをAIにより最適化するというもの。これは、これまで配送業界では人の手によるルート作成が行われており、配車マンやドライバーのノウハウに依存するところが大きいため、これをシステム化して改善するという目的がある。そこで同社は、クラウドサービス「Loogia」を用いて、ラストワンマイルで実際に使える最適なルートを提供してきた。Loogiaには、リアルタイムの動態・作業進捗管理機能も搭載されており、ドライバーとマネージャー双方で確認しながら、進捗状況の確認や現状の報告ができるようになっている。


オプティマインド代表取締役社長 松下健氏

実際に日本郵便とは、昨年4月から9月まで、練馬郵便局と名古屋北郵便局にヒアリングを行い、10月からは横浜南郵便局ほかの6局を追加。今年の4月からは順次全国に展開する予定となっているそうだ。

そして実際に導入したところ、ドライバーの作業時間が、ある人は75分、ある人は67分もの改善ができたとのこと。配達に不慣れな社員でも出発前の作業が30分、配送中の走行時間が30分、1便あたりの配送可能個数が10個も増加したという。

08

09

10

11

12

■荷物のサイズを一瞬で計測できる機器を開発したAquifi
Aquifiは、ハンディタイプの機器で荷物のサイズを一瞬で測定できる機器を開発した。宅配物で一番困るのはぬいぐるみのような不定形のものの大きさを測ること。熟練した人手も時間がかかるとのことだが、Aquifiの測定器を利用すると、そのようなものでも瞬時に測定が可能だ。


Aquifi Business Development Director Bin An氏

13

この測定器の利点は携帯型であること。どこでも使えるため、全国2万4000の郵便局にすぐ配置できるほか、イベントなどで出張したときにも活用できる。もちろん集荷先での利用も可能だ。

不定形のゆうパックは1日当たり40万個あるという。この測定器を導入することで待ち時間が減るため、顧客満足度も上がりそうだ。今後はOCRによる住所読み取りと組み合わせることで、1秒での引き受け完了を目指すとのこと。
14

15

16

17

18

■無人ドローンでの配送を目指す自動制御システム研究所
自動制御システム研究所が取り組んでいるのは無人ドローンによる配送だ。現在福島の小高・浪江郵便局間のドローン配送が実用化されており、実際に配達作業が行われている。使われているドローンは、着陸時に自動で荷物を切り離す機構が採用されており、運用も郵便局員の手で行われているそうだ。離陸から着陸まで、人の操作は必要としない。なお誘導はある程度GPSで行われるが、着陸時の精度が高くないため、画像によるマーカー誘導着陸をしている。


自動制御システム研究所 取締役最高執行責任者COO 鷲谷聡之氏

どうしてこのような自動・省人化が必要かというと、労働人口の減少が予想されているからだ。2013年と比べ、2030年は6人に1人の人がいなくなり、2060年には3人に1人がいなくなると予想されている。今後も安心安全で自律飛行し、マーカー誘導着陸による自動・省人化技術を提供していく。

21

22

23

24

25

26

■Yperの置き配バッグは再配達問題を解決できるか
Yperが杉並区で実証実験を行ったのは、同社が提供する置き配バッグ「OKIPPA」。杉並区の1000戸にOKIPPAを配布し、再配達問題がどれくらい減るのかを調べたという。


Yper代表取締役 内山智晴氏

現在は約200万個の荷物が毎日再配達されているそうだ。これによる時間・労働力ロスは1日当たり20万時間、金銭的ロスは2億円とも言われる。そして通販サイトの利用率は上がる一方なのに、運送業界の労働人口は慢性的に不足している。

最近ではよく目ににする宅配ロッカーだが、使われているのは全体の0.7%程度だそう。コンビニ配送も11.4%しか使われていない。ほとんどの場合は家庭への配送を望んでいるのが現状だ。しかし玄関前にスペースがない、共有部に個別の宅配ボックスを設置できないといった理由から、導入も進んでいない。

28

29

しかし同社のOKIPPAは布製。たたんでおくことができるのでスペースも取らない。今回の実証実験ではSNSを通じて募集したところ、1300名が応募したそうだ。そして実際に運用したところ、再配達を61%削減することができた。ユーザーからもスペースがなくても設置できるうえ、比較的大きな荷物が入ること、いろいろな場所に設置できることがメリットであるという声ももらった。「今後も置き配バッグで日本の支配龍律をゼロにする」と代表取締役の内山智晴氏は語った。

30

31

32

■郵便局の中でのロボット化を図るRapyuta Robotics
続いて採択企業による発表へと移る。まず登壇したのはRapyuta Roboticsの代表取締役CEOであるGajan Mohanarajah氏だ。Mohanarajah氏はスリランカ出身。久留米高専に留学したあと東京工業大学で学び、修士課程を修了した。Mohanarajah氏が考えているのはロボットを便利で身近にすること。日本は労働力人口が減少しているのに、ロボットの導入率が低い。


Rapyuta Robotics代表取締役CEO Gajan Mohanarajah氏

そして今のロボット業界は1990年代の携帯業界のように、独自の規格が乱立しているので複雑であり、業界も分裂しているとMohanarajah氏。この状態から、Androidが普遍化を業界にもたらしたように、一つの統一したソリューション、プラットフォームを作りたいと意気込む。

Rapyuta Roboticsが実際に導入したのは、荷物の取り下ろしにロボットを入れること。これによって人手を少なくするとともに、仕分けの効率化を図るのが目的だ。しかも導入は素早くできるという。導入が素早い理由は、同社の持つプラットフォームを利用して、既存の技術を組み合わせることができたからだ。Mohanarajah氏は、「今年の夏までにはさらに物流のイノベーションを加速できる、効率的でスピーディーな物流を構築できるだろう」と語った。

34

34
35

36

37

38

■量子コンピューターで輸送ネットワークを効率化させるエー・スター・クォンタム
エー・スター・クォンタムは量子コンピューターを研究している会社だ。量子コンピューターは普通のコンピューターとは異なり、0と1の両方の状態を重ね合わせて計算することができる。このため通常のコンピューターで8億年かかる計算が1秒で終わることもできると言われている。


エー・スター・クォンタム取締役兼CMO 大浦清氏

エー・スター・クォンタムが取り組んだのは、1日に地球を43周分回るという運送便の最適化だ。これまでは人間の勘と経験でダイヤ化されていたのだが、それが最適であるかという検証ができていなかった。なぜなら組み合わせ数があまりにも膨大だから。しかし量子コンピューティングは、こうした組み合わせ問題を解くのが得意だ。そこで、輸送の効率化ができるのではないかと考えた。

試しに埼玉県東部の各郵便局・ベース局間を夕方から夜に運行する一部の運送便について計算を行った。しかしわずか30局でも膨大な数の組み合わせが存在した。しかし量子コンピューティングであれば一瞬で答えが出る。

そこでオペレーションを把握して組み合わせ問題として数式に変換し、プログラムを作って実行し、輸送部と検証したところ、4便の削減ができたとのこと。しかも輸送コストは7%減となり、年間であれば2,000万円の削減効果が出た。これは全国に展開したとき、年間で100億円のコストダウンになるという。

今後だが、2021年度には幹線便への導入と検証、2023年度には全国対応を目指していくとのことだ。

40

41

42

43

44

45

46

47

48

■最優秀賞はRapyuta Roboticsに
プレゼンテーション終了後に行われた審査の結果、観客賞はオプティマインドへ、最優秀賞はRapyuta Roboticsに贈られた。

49

POST LOGITEC INNOVATION PROGRAM

ITライフハック
ITライフハック Twitter
ITライフハック Facebook

ITビジネスに関連した記事を読む
じわるけど胸熱!So-netが昭和なアナログ世代と平成デジタルネイティブとのギャップを描いた「アナログ係長」を配信
未来のクリエイターを育てる「2019年度未踏ジュニア」募集を開始。最大50万円の開発資金などを提供
エイシング、ネット接続がなくてもリアルタイムに自律学習できるAIチップ「AiiRチップ」をリリース
LINE Pay、Visaブランドの提携クレジットカードの導入を発表
チームラボ、東急リバブルの不動産検索サイトに、AIを活用した間取図解析レコメンド機能を導入