医療DX

新型コロナウイルス感染症の流行により、オンライン診療の拡大や集中治療室(ICU)の遠隔管理などに代表される、医療現場のデジタルトランスフォーメーション(医療DX)が進展している。特にオンライン診療はパソコンやスマートフォンがあれば自宅や職場などからでも診療を受けられるので、コロナ禍で注目を集めているが、詳しく知らない人も多いだろう。そこでオンライン診療を提供している株式会社ネクイノ 代表取締役 石井健一氏に、医療DXの現状や、オンライン診療の今後ついて聞いた。

■日本が抱える医療DXの問題
日本の医療DXの現状について聞いた。

石井健一氏
「日本の医療水準は世界的にみても極めて高いため、「医療DXを進めていくにおいて『間違った治療をしたらどうするか』『検査データを取り違えたらどうするか』、のようにこの医療水準を維持できなくなる事象が起こった際の影響について、主にこの2つを中心に議論が行われてきました。医療現場では、金融など他の領域に比べデジタル化は10年ぐらい遅れて普及しています。さらに日本は保険制度がしっかり整備されているので、大前提として北海道から沖縄県まで一斉に開始する必要があります。」
株式会社ネクイノ 代表取締役 石井健一氏
株式会社ネクイノ 代表取締役 石井健一氏

たとえば、東京都だけ先に医療DXができてしまうと、北海道や沖縄県の人に「不公平だ」と言われてしまう。世の中に普及して安定しなければ、使用するか否かの議論にあがってこないという。わかりやすい例をあげれば、LINEだ。スマートフォンの所有者であれば、ほとんどの人はLINEをインストールしているだろう。そんなLINEでも医療に使用するか否かが取り沙汰されている。LINEは銀行情報を扱っているが、健康情報の取り扱いについては自社サービスも含め慎重な社会実装を続けている。

石井健一氏
「医療DXが行える技術はほぼすべて揃っていますが、運用側のリテラシーの問題で社会実装されていないのが、日本が抱える問題です。アメリカは保険会社ごとにサービスが異なるので、経済的なインセンティブが受けやすいバックグランドがあります。LINEのようなアプリがあれば、国民も保険会社も病院も便利だと思えば、限られたコミュニティーの中でGOサインが出ます。『東京都だけやってみよう』ということが現実的におこなわれるんです。」

日本では、「医療を受ける」ことは「健康保険を受ける」ことと、ほぼ変わらないという。健康保険の中で導入されて償還されないと、医薬品や医療機器、デバイスなどは普及しにくい。一方で既存の病気は、医療DXがない現状でも高水準の治療が受けられる。現状で満足できる水準であるが故に、医療DXが導入されづらいという。

石井健一氏
「突破する方法としては、(諸外国では)明確なソリューションとして確立しているが、日本でインフラが整っていないので、平均点が高くない領域を狙うことです。こういう風なところで実際にできることを見せれば、隣の領域でもやろうということになり、数珠つなぎで医療DXは動いていくと考えています。」

ネクイノは、そうした領域で医療DXを推進していこうと考えており、そのひとつがオンライン診察でピルを処方するアプリ「smaluna」(以下、スマルナ)だ。
医療DXについて語る、株式会社ネクイノ 代表取締役 石井健一氏
医療DXについて語る、株式会社ネクイノ 代表取締役 石井健一氏

■オンライン診察でピルを処方する「スマルナ」
スマルナはオンライン診察でピルを処方するアプリだ。生理や避妊に関する悩みを持つ人と医師をオンライン上で繋ぎ、オンライン診察からピルの処方、自宅へのお届けまで一気通貫して行う。さらに、助産師・薬剤師などの医療専門家が医療相談を受け付ける、スマルナ医療相談室を利用できる。

会員登録数とサービス利用者数は、
・アプリダウンロード数:累計50万ダウンロード
・サービス利用者数:7万人/月
・医療相談室(助産師・薬剤師)への相談数:16,000件/月
※2021年4月16日時点
スマルナアプリ
オンライン診察でピルを処方するアプリ「スマルナ」

石井健一氏
「日本のピル常用率は、フランス・ドイツが30〜40%であるのに対しわずか4%ほどで、諸外国に比べ10分の1ぐらいの普及率です。現在日本において、ピルを入手するには医師による診察及び処方が必要なため、時間やアクセスの問題で入手しにくい現状があります。そもそも受診に抵抗がある人も多いです。スマルナでは、心理的、物理的なハードルがあってアクセスしづらい婦人科領域において、オンライン診察という手段を使い、医療へ、ピルへアクセスしやすくしています。婦人科領域は、医療DXを進めていくべき分野の一つだと思っています。」
ピルの使用率
国連が2013年に発表した、各国の経口避妊薬(低用量ピル)の使用率。日本の普及率は低い(データ:日産婦:66,2127-2131,2014)

■オンライン診療の現在と今後
オンライン診療について聞いてみた。

石井健一氏
「病院では、物理的な空間の中でお医者さんの五感や医療機器を使用して診察をおこないます。オンライン診療は視覚や聴覚の情報に制限されるので、お医者さんにインプットできる情報量が異なります。これがオンライン診療の現在の課題だと思います。」

たとえば、肺がんの診療や治療をオンラインでできるかといえば、現状は難しい。その一方で、主に患者情報(問診)に基づく診察であればオンラインでも対応可能な領域はすくなくない。つまり、診療で得られる情報量をいかに増やすかが現在の課題となっている。

最後にネクイノの今後について聞いてみた。

石井健一氏
「まず今やっている診察のデジタル化といわれるプラットフォームの裾野を伸ばしていこうと思っていまして、自社だけでなく他社さんのサービスのつなぎこみも考えています。そのときにメディコネクトという仕組みを使って、病院やサービスが変わっても個人情報を持ち運べる仕組みにすることで、デジタル化を推進するときに越えなければならない大きな壁に取り組んでいきたいと思っています。」

コロナ禍によりオンライン医療の重要性が増している今、ネクイノの今後の活躍に注目だ。

株式会社ネクイノ

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