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株式会社DATAFLUCTは2022年6月2日、“環境価値”の流通でカーボンニュートラルエコノミーの実現を目指す脱炭素事業群「becoz」より、個人のCO2排出量可視化・オフセットが可能なサービス「becoz wallet」を開始した。

同サービスは、自分の生活によって排出されたCO2の量を可視化し、2015年のパリ協定で提唱され、2021年の気候変動枠組条約締結国会議で採択された「1.5度目標」を満たすための排出枠からどれだけ超過しているかを把握できる「現状を知る」機能と支援先を選んでカーボンオフセットが可能な「行動する」ための機能を備えており、個人向けとしては日本初となる。

サービス開始に合わせて、記者会見が行われたので、その様子をレポートする。

■「環境価値」を可視化し、個人の生活に新しい選択肢を提示する
記者会見ではまず、株式会社DATAFLUCT代表取締役の久米村隼人氏が、DATAFLUCTの概要と「becoz wallet」に関するプレゼンテーションを行った。DATAFLUCTは、JAXAの技術から生まれたベンチャー企業で、その目的はデータサイエンスで企業と社会の課題を解決することである。2019年の設立後、3年間で25以上のプロダクトを開発してきた。

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株式会社DATAFLUCT代表取締役の久米村隼人氏


持続可能な未来を実現するには「CO2を正しく可視化」「CO2の排出量削減」「CO2排出量を相殺(オフセット)」が重要であり、このどれが欠けても持続可能な未来は実現できない。しかし、個人の環境意識は高まっているが、日々の暮らしで脱炭素を意識した行動をしている人は少ない。その理由は、「何をすればいいかわからない」ことと「ものさしがない」ためだ。DATAFLUCTはそこに注目し、「環境価値」への貢献を可視化・支援するために2021年7月にスウェーデンのテック企業「Doconomy」と提携を結び、消費活動×カーボンニュートラルをテーマに開発を進めてきた。

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持続可能な未来を実現するには「CO2を正しく可視化」「CO2の排出量削減」「CO2排出量を相殺(オフセット)」の全てが重要


「becoz」は、「環境価値」という言葉をCO2排出削減量のみならず、取り引き可能な形のカーボンクレジット、プラスチックの消費削減量、水使用削減量など「地球のサステナビリティを担保するための、モノやコトが有する価値」として捉え、可視化し、個人の暮らしに新しい選択肢を提示する。その個人向けサービスの第1弾が「becoz wallet」であり、気候変動に配慮したライフスタイルを選択したいと考える人のニーズに応えるサービスだ。自分の生活によるCO2排出量を知ることで、ライフスタイルを見直すきっかけを作り、削減しきれない分のCO2排出は、国が保証する森林保全・省エネルギー・再生可能エネルギーのJ-クレジットから選んでオフセットできる。

さらに、カーボンオフセットのサブスクリプションプランも用意されており、3つのプランを選んで毎月定額を払うことで、特に意識せずとも、自身の生活行動をカーボンオフセット化できる。

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可視化したCO2排出量と目標を把握する

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CO2排出量をオフセットできるプランを選べる

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さらに、定額のサブスクリプションプランも3種類用意されている


また、クレディセゾンが発行する「SAISON CARD Digital for becoz」と連携することで、カード決済データに基づくCO2排出量を可視化できる。先月とのCO2排出量の比較や利用明細ごとの排出量の確認が可能になる。こうしたクレジットカードも国内初となる(なお、デジタルカードを専用アプリ上に発行するタイプで、プラスチックカードは希望者のみ発行される)。

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「SAISON CARD Digital for becoz」と連携させればさらに便利に

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カードの決済データが自動的にCO2排出量に可視化される

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各カテゴリーのCO2排出量を自動で可視化できる


becoz walletは個人向けのサービスだが、今後は個人から企業へ、企業から社会全体へと広げ、パートナーと共に新しい環境資本主義を作りたいとのことだ。また、まずは環境に対する意識が高い3%の“先進層”をターゲットにしているが、それでも約400万人のポテンシャルはあると考えている。

■クレディセゾンやウェイストボックスとのトークセッション
続いて、becoz wallet賛同企業2社の代表とのトークセッションが行われた。登壇したのは、株式会社クレディセゾン 代表取締役(兼)社長執行役員COOの水野克己氏と、株式会社ウェイストボックスの代表取締役の鈴木修一郎氏、久米村氏の3人である。

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左から順番に、水野克己氏、久米村隼人氏、鈴木修一郎氏


まず、久米村氏が、環境価値について次のように説明した。

環境価値とは、例えば、発電した場合、エネルギーとしての価値は電力を使うという価値ですが、化石燃料を使った場合と太陽光パネルを使った場合では、CO2の排出量が全然違います。再生可能エネルギーを使った場合、つまり地球にいいことをしている価値のことを、環境価値と呼んでいます。環境価値をクレジットにしたものが、カーボンクレジットやJ-クレジットなどで、これが売買できる形になっています。それを企業が購入することで、カーボンニュートラルに近づいていくというか、オフセットすることができます。ですが、DATAFLUCTが考える、新しい環境価値とはもう少し広いものを想定しています。エネルギーだけでなく、プラスチックをあまり使わない製品を買うことも、環境価値と定義しています。

続いて水野氏が、環境価値の普及における課題について次のように語った。

当社でも、例えば、お客様からの問い合わせを受けるインフォメーションセンターや大量の決済データを処理するデータセンターでは、大量の電力消費をしている。もう一方ではカードをご利用いただいたお客様に、毎月当社としては1000万通くらい、ご利用明細書をお届けしています。まだそのうちの半分が紙の明細ということで、この明細書を作るだけでも紙を大量に使いますが、それ以外にお客様のお手元に届ける物流などから出る量が、かなりの量のCO2排出量になってきます。企業側からはいろいろなメッセージを出しつつ、環境配慮ということをメッセージとしては伝えているつもりではありますが、やはりお客様、消費者側がそれに対して、今までと違った形で対応するところに関しては、どうしても後ろ向きに捉えられるお客様も中にはいらっしゃいます。そういった意味で言うと我々も企業側から環境配慮についてのメッセージを出させていただきますが、顧客側、消費者側も今の環境を十分認識した上で、対応に賛同していただくことが非常に重要になってくると考えています。

その他の課題について、鈴木氏は次のように解説した。

今、企業の気候変動に関するアドバイザーをやっていますが、最近、海外のNGOが非常に評価されるポイントがあります。その一つが、SBTと呼ばれるパリ協定に整合した形で目標を持っているか否か、またそれに対してきちんと削減努力を行っているか、こういうことが非常に重要なポイントになっています。実際に減らしていく中では、エンゲージメントという言葉が使われていまして、これは協働だとか促しだとか、一緒にという意味合いですね。その促す相手先、私どものお客様の多くは製造業なので、その場合はサプライヤーさんへ、ものづくりを脱炭素でやってくれということになるわけですけども、消費者に近い企業様の場合、顧客エンゲージメントと呼ばれている、消費者の方達とどうやってエンゲージメントを作り上げていくのか、それは大変なことだと思いますが、それに取り組んでいくこと自体が、今企業に求められています。

さらに久米村氏が、日本と海外の環境価値の捉え方の違いについて、次のように語った。

我々が環境の事業をやりたいと思ったとき、やはり北欧とか先進的なところから学ぶことをはじめました。スウェーデンのDoconomyとは、1年以上前から一緒に開発を行っていますが、彼らと日本人で何が違うのかということを聞いていくと、ベースにあるのは、教育が違うということだと分かりました。北欧の方が先進的な考えをするのは、やはり、北欧という場所は、氷河が溶けていくような場所だったり、自然が豊かだったりするわけです。気候変動によって自然が損なわれていくということに、国民的にも何とかしなければいけないというのが感情としてまずあるらしくて、幼稚園から大学まで、教育の全てにおいて環境に関する課程があります。つまり、子どもの頃から、環境にいいことをするのが当たり前でしょというのがすり込まれているんですね。1人1人が環境を守ろうというのが当たり前になっているというのが、一番の違いなのかなと思っています。スウェーデンは1995年に世界で最初に炭素税を導入した国なんですが、それにはやっぱり教育の力が大きいと思っています。

日本で環境価値を定着させるためには、企業としてどのようなことを意識すればよいかという質問に対して、鈴木氏は次のように回答した。

私は、会社を設立してかれこれ15年くらい、この分野で仕事をしてます。環境配慮の流れは10年くらい前にもあって、その当時はなかなか根付かなかったのですが、ここ2,3年で社会の流れはずいぶん変わったなと思っています。我々のお客様の中には、さまざまな業者がいますが、百貨店さんとか流通店舗さんもございます。以前であれば、環境に関する製品などは、イベント的に、一時的にやるという、そういう案件が多かったのですが、最近はやはりお客様が常時、そういうものを選べるようにそういう売り場を提供したいというお客様が増えてきました。そういう意味では、まだまだ割合としては数パーセントかも知れませんが、消費者の方々も環境によい行動をおこしたいと思ったときに、身近なところでそれが実現できるように、企業側も努力する必要があると思います。

続いて水野氏が、「SAISON CARD Digital for becoz」について解説した。

先日、日経新聞でもサービス大賞をとりました、「SAISON CARD Digital」をベースに提携しました。今回は、デジタルカードですので、プラスチックカードはない、カードレスのカードということと、ご利用明細情報からCO2排出量を算出します。これはご利用店舗、ご利用金額、決済金額などから、Doconomyが開発したデータ分析アルゴリズムを使いつつ、実は久米村さんとお会いしたのは去年の9月くらいでしたが、約半年での商品開発に至りました。その背景には、我々が持っている決済データも実は32業種くらいに分類されていまして、これによってDoconomyと非常にスムーズに連携できることが分かりました。今後もDATAFLUCTさんと連携をしながら、拡大していきたいと思っています。

『becoz wallet』は、自分の生活によるCO2排出量を知ることでライフスタイルを見直すきっかけを作り、削減しきれない分の排出は、日本の森林保全・省エネルギー・再生可能エネルギーのJ-クレジットから選んでオフセットできる。個人が気候変動に対して気軽にアクションが起こせる、これまでになかったサービスであり、注目したい。
テクニカルライター 石井英男


個人のCO2排出量可視化・オフセットが可能なサービス「becoz wallet」

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