作者の実体験が元ネタのマンガにも様々な種類があります。中でも多いのが積極的に「笑い」を取りに行くエッセイマンガ・レポートマンガの類。このジャンルのマンガが面白くなるかどうかは、作品に登場する作者自身のサービス精神が重要なポイント。それはまさにお笑い芸人の姿勢そのものです。ネタになるなら作品内で素っ裸にもなるし、場合によっては変態と誤解されても構わないといった覚悟が必要になってきます。



勿論、マンガとして成立させるためには画力も必要です。つまり作者には芸人的なサービス精神とマンガ家としての画力という、一見すると矛盾する資質が同時に備わっていることが求められるというわけであります。この条件を満たした作品というのはそれほど多くはありませんが、それを“発掘”した時の喜びはまた格別であったりもするのです。今回はそんな作品をいくつかご紹介してみたいと思います。



■『とりあえずそれで』

著者:金平守人

発行:オークス

ひたすらピンクで文字もなんだか読みづらい表紙ですが、中身はかなり面白いです。読んでるこっちが心配になるくらい作者の本音が出まくりなのでまさに必見。




●オススメ度:★★★★☆

(※前半だけなら:★★★★★)この作品は売れないマンガ家と編集者がファミレスで新作の打ち合わせをするところから始まります。打ち合わせは全く盛り上がらずに煮詰まるばかり。



(編集者)「オマエもプロなら何かあるだろ? いいアイディアとか」

(マンガ家)「そんなのあったらドリンクバー7杯もおかわりするかよ!」



といった不毛なやりとりが続く中、ドリンクバーのおかわりが10杯目に突入したころ、ゲームの話題をきっかけに編集者がとある提案をするのです。



(編集者)「とりあえずアキバとか行ってレポートマンガとかどう?」

(マンガ家)「じゃあ、とりあえずそれで」



という、あまりにもユルイ流れで企画の方向性が決まり、タイトルも『とりあえずそれで』となってしまうのです。ちなみに私がこの本を書店で見かけた時は、表紙を見ても一瞬なんのマンガなのか分からずスルーしかけた記憶があります。かろうじてオビに「とりあえずアキバへGO!!」と書いてあったので、なんとか手に取ったというこれまたユルイ出会いでありました。本作は成年向けマンガ雑誌「月刊COMIC XO」に連載中の作品をまとめたものらしく、ゲストにエロマンガ家の先生が出演したり、ネタもエロ成分が多目になったりしています。



レポートマンガのネタを拾うため、コンビを組んだマンガ家と編集者が最初に向かったのは秋葉原のドンキホーテ。メイド服売り場でハァハァ興奮したり、メイド喫茶のコーヒーの器が尿検査の紙コップみたいと毒づいてみたり、AKB48劇場のステージ前にある邪魔な柱に涙目になったりします。基本的にアポなし取材というのが功を奏し、取材対象に必要以上の気を遣わずに本音がズバズバ飛び出る感覚がたまりません。



その後も2人が出掛ける先はいろんな意味で濃い場所ばかり。ちなみに取材先は以下のような感じになってます(一部抜粋)。



(第3回):メイド美容室、メイドリフレクソロジー、コスキャバ

(第4回):防犯&盗聴&盗撮グッズ販売店

(第6回):秋葉原のエロタワー(某大人のコンビニ)

(第7回):陸上自衛隊の火力演習(東富士演習場)

(第8回):ゲームのエミュレーター用のROM吸い出し器取り扱いショップ

(第15回):中野ブロードウェイ



アキバ系のツボを突く内容を中心に、エロ雑誌ならではのテイストも盛り込んでいくネタチョイスのセンスは素晴らしいものがあります。特に秋葉原の裏通りで怪しいCD-ROMを売っている方々やROM吸い出し器をネタにするというのは、並大抵の根性ではできません。このマンガは「事実を元にしたフィクション」というスタイルを取ることで、作者が本当に全てを体験したのかが微妙に分からなくなっているのですが、そういうちょっと胡散臭いところも味になっています。



少し残念なのはこの『とりあえずそれで』は前半は確かに『とりあえずそれで』なのですが、後半は何故か「ヤングチャンピオン」連載の別作品(読者の疑問に答えるマンガ)になっているところ。最初から最後までこのノリノリなレポートマンガが読みたかったのですが、これは何かオトナの事情があるんでしょう。とりあえず、前半はかなり面白いのは間違いありません。ズバリ、オススメです。



■『ネタも休み休み言え!』

著者:くつきかずや

発行:新書館



●オススメ度:★★★★☆

(※出版業界に興味があれば:★★★★★)

パッと見はヘタウマ系ですが、意外に高度な技術(特にコマ割り)が駆使されている羊の皮を被った狼的な作品。このプリン顔がだんだん病みつきに……。




作者の顔がプリンだったり、担当編集が忍者だったりする業界もののエッセイマンガです。ネタは作者の職業である「グラフィックデザイナー(以下デザイナー)」であります。一般にはなんだか馴染みの薄い職業ですが、これは雑誌・広告・商品パッケージなどをデザインする仕事なので、周りを見渡せばいくらでもその仕事の結果を見つけることができます。意外に身近な存在でもあったりするわけですね。



出版業界にドップリな私はデザイナーさんとしょっちゅうやりとりをしているので、取り上げられるネタは身につまされるものばかり(大汗)。例えばマンガ本の表紙を作る際、入稿(しめ切り)直前なのに表紙用のイラストが上がってこないシチュエーションで、



(担当編集)「すみません表紙のイラストがまだ上がってなくて~」

(デザイナー)「ええっ!? 入稿あさってですよね!!」

(担当編集)「作家さんの絵も今日には仕上がるらしいんですが」

(デザイナー)「そのセリフ!! 昨日も聞いたような!?」



とまあ、こういうことは実際よくあるから困ります。自分も似たような事を言ったり言われた記憶が……(ぐあぁ)。作者の学生時代のエピソードも多く、必死で作成&提出した課題が先生から「しょぼいね」と酷評されたり、研修先の会社で制作した渾身のデザインがあっさりボツにされたり、低いギャラで無茶な要求をするブラック会社に酷い目にあったり、現実の厳しさを痛感していく様がギャグタッチで描かれていきます。



社会に出てからもBL(ボーイズラブ)小説の表紙で本編の内容とはかけ離れたデザインをして編集をビビらせたり、広告デザインでプレゼン能力を鍛えるために鬼のシゴキを受けたりと苦労の連続。この面白さが一般の読者にどれだけ伝わるのかが気になるところですが、単行本化された後も雑誌(季刊「ウンポコ」)での連載が続いているところを見ると結構人気もあるようです。



本来デザインの仕事というのは地味な作業の連続なのですが、本作はそんな世界をマンガ表現のフル活用で躍動感いっぱいに表現してみせています。これはマンガ家としての力量あってこそ。くつきかずや氏は、まさにもっと評価されるべきマンガ家といっていいでしょう。私も機会があれば原稿依頼とかしてみたいです。とにかく、エッセイマンガとしては一級品なのでこれは読んで損なしであります。特に業界に興味のある学生の方は必読!



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レッド中尉(れっど・ちゅうい)

プロフィール:東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。


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