株式会社ウィルコムが7月11日に発売したUltra Mobile「WILLCOM D4」はインテルのCentrino Atomプロセッサーを搭載した世界初の通信端末だ。OSにWindows Vista Home Premiumを搭載し、幅広いアプリケーションとインターネットサービスに対応しながら小型軽量な機動性と低消費電力を実現している。



通信事業者であるウィルコムが、なぜ小型モバイルパソコンを発売することになったのだろうか。また、従来よりも大幅に小型なパソコンである「WILLCOM D4」の大きさの秘密はどこにあるのだろうか。



今回は、WILLCOM D4の開発担当者のウィルコム サービス計画部 須永康弘氏に、WILLCOM D4開発までの経緯とその戦略についてうかがってみた。


■「WILLCOM D4」は、4つめのカテゴリを創造したい

編集部:WILLCOM D4の開発の経緯から教えていただけますか。

須永氏:WILLCOM D4はスマートフォン系の話から開発が始まりました。昨年もそうですが、スマートフォンの販売は伸び率からいくと、企業向けのほうが高い傾向にあります。弊社のスマートフォンを採用いただいた企業様から「スマートフォンをパソコンとして採用したが、パソコンとは違う」「社内で使われているシステムがすべてをスマートフォンで利用できない」というご指摘を受けることが多くなってきました。



たとえば、「Javaスクリプトやマイクロソフトさんのスクリプトが動かない」「出金管理はできたが、すべての業務はスマートフォンでこなせない」など、Windows MobileとWindowsは細かい部分で互換性がないので、ギャップがあらわれはじめたのです。



結局、一部の社員はスマートフォンですべてをやりきれるが、そのほかの社員はスマートフォンだけでは完結できないので、パソコンを使うことになるというのです。この状況は本来ユーザー様が望んでいるものと違うのではないかという話が社内でも持ち上がりました。



ユーザー様が望むハードウェアを考えた場合、x86系アーキテクチャー(パソコンとしての基本設計)を持ったハードウェアが必要で、Internet Explorerが100%動作できる環境を提供する必要がある、という結論に行きつきました。そういう経緯からWILLCOM 03とは根本的に異なるWILLCOM D4の素案ができあがってきたのです。

写真1 開発の経緯について語る、須永康弘氏
写真1 開発の経緯について語る、須永康弘氏



編集部:名前の由来を教えていただけますか?

須永氏:我々が提供する製品としては、普通の電話機とデータ通信カード、その中間にスマートフォンがあります。WILLCOM D4は4つめのデバイス、4つめのカテゴリを創造したいという意味合いを込めて「Device of Fourth(D4)」と名付けました。今までのスマートフォンとは別ものという位置づけです。



編集部:ターゲットは法人や企業となるのでしょうか。

須永氏:ベースは企業ユースを想定していますが、まず、個人のモバイルユーザーに新しい使い方として市場投入します。今回販売するWILLCOM D4はOSにWindows Vista Home Premiumを搭載しており、名前のとおり個人ユーザー向けです。



専用クレードルを使えば、自宅のテレビや有線LANとも接続できますので、自宅のパソコンとしてお使いいただけます。モバイルとしても使え、ご自宅のパソコンにもなるオールインワンマシンという新しいコンセプトの製品として、まずはモバイルユーザー様に使っていただきたいです。



企業向けには別途社内ドメインにアクセス可能となるOSを搭載の上、それぞれ個々のカスタマイズ要件を満たした上で提供させていただくことになると考えています。

写真2 WILLCOM D4専用クレードル写真3 背面に有線LAN端子を備える
写真2 WILLCOM D4専用クレードル写真3 背面に有線LAN端子を備える



■WILLCOM D4の本体サイズの秘密

編集部:WILLCOM D4の本体サイズはどのように決まったのでしょうか。

須永氏:まずはじめに液晶サイズを決めました。3インチから3.2、3.7、4、4.2、5、7インチとすべての液晶サイズを並べました。Windowsの文字がつぶれないよう大型化を目指す一方で、片手ですべての操作ができ、ブラインドタッチがギリギリできるサイズを考慮したところ、5インチが適当と結論付けました。



キーピッチは12.2mmなので、誰でもブラインドタッチができるとはいえませんが、ギリギリ使えるサイズということで現在の大きさとなりました。

写真4 WILLCOM D4のキーボード。キーピッチは12.2mm写真5 ブラインドタッチで文字を入力できる
写真4 WILLCOM D4のキーボード。キーピッチは12.2mm写真5 ブラインドタッチで文字を入力できる

編集部:キー配列を見ると、左下が不規則な大きさになっていますが、アルファベットキーに幅を持たせるためなのでしょうか。

須永氏:そのとおりです。この面積でパソコンのすべてのキーを均等に配列しようとすると、どうしても使用頻度が低いキーが制約されてしまいます。スマートフォンはもともと全てのキーを用意しておりません。「使わないキーはなくしてしまえ」という割り切りが可能ですが、WILLCOM D4はパソコンである以上、そうはいきません。大量に流通するパソコン用アプリケーションを動作させる必要があるためです。企業内で使われているアプリケーションというのは、パソコンのあらゆるキーを想定した状態で作り込まれています。たとえば、あるキーを押したときに終了であれば、そのキーが存在しないと使用できません。アプリケーションの互換性を確保するためにパソコンのキーボードにあるキーはすべて入れました。



編集部:CPUにAtomを採用した理由はどこにありますか。

須永氏:低消費電力が大幅に改善された点ですね。企画当初は前世代のCPU(McCaslin)を検討していたのですが、シャープさんからの回答では本体サイズが600g超で現在のサイズに入らないということでした。



消費電力が高いので、Windows Vistaを動かすために相応のバッテリーを積む必要があり、バッテリーの重量がネックとなっていました。この難題を解決できたのがAtomであり、インテルさんからも新しい45ナノの最新プロセッサを入れたほうが先々の開発負荷も軽減できる等のメリットも提示いただき、最終的に乗り換えを決定しました。



前のプロセッサであれば、すでにデータがあるので作りやすかった訳ですが、安定したものよりは最新のテクノロジを集約したものを作りたかったわけです。今後、Atomの製品は各社から出てくると思いますが、低消費電力のCentrino Atomは我々の製品が世界初だと思います。





次のページでは、 須永氏にミニノートPCとの差別化と次世代PHSへの対応についてうかがってみた。
■電車の中で気軽にメールが読める - ミニノートPCとの差別化

編集部:WILLCOM D4をミニノートPCとして見ている人もいるかと思いますが、ミニノートPCとの違いはどこにありますか。

須永氏:我々がこだわったのは電車の中で気軽にメールやWebが見られるモバイル端末にしたかったということです。ここが大きな差別化のポイントです。現在、モバイルを重視したミニノートPCが登場していますが、使えるのは車内で座れた場合に限られてしまいますよね。



使う使わないに関係なく持ち歩けるサイズ・軽さ、電車の中で片手で使えるモバイル、それがウィルコムが手掛ける意味だと考えました。WILLCOM D4はケータイゆずりのモバイル性を備えてますし、片手はつり革にあっても別の片手でWILLCOM D4本体を持てる訳です。



また、通常のミニノートでは電源がオンでなければメールを受信できませんが、WILLCOM D4であれば相手から送られたメールは自動的に受信ランプで知らせてくれます。こういう機能こそが本当のモバイルに必要なものではないかと考えました。単なるミニノートPCであれば、ウィルコムが手掛ける意味がありません。



通信ネットワークと連動することが前提となっているため、WILLCOMが主体となった。ハードウェアの小型/軽量化についてはシャープさんとご相談させていただいて最終的にこういう製品に仕上がった訳です。



編集部:利用シーンとしては、電車の中を想定しているんですね。

須永氏:はい。WILLCOM D4はリアルタイムに何かができるというのがポイントだと思っています。普通のミニノートPCはまず通信が入っておりませんし、仮に入っていたとしてもサスペンドの状態ではメールを受信できません。先ほども申し上げたとおり、そこがWILLCOM D4の大きな差別化です。



「通信はWindowsを起動してから使えます」というパターンでは通信機器としての利便性が損なわれます。そういうパソコンとしての使い方であれば、ASUSさんやHPさんのように落ち着いてキーボードを打てる製品にしたほうがパソコンとしての完成度は高いはずです。



小さくするからには、いつでもどこでもネットワークに接続できてその場にコンテンツがあるというのが大前提だと思います。それが唯一できている端末がWILLCOM D4だと考えています。



編集部:どこにでも持ち歩くとなると、セキュリティ面が気になるのですが……。

須永氏:WILLCOM D4はWILLCOM 03と同様にリモートロック機能を備えているので、仮に紛失した場合でも中身をロックできます。また、HDD消去も含めて、細かいコンフィグレーションも可能となっています。



編集部:ミニノートPCが初めての人への対策はありますか。

須永氏:ハードルが高くならないようにアプリケーションを用意して簡単にセットアップできる機能と、あとは画面上でタッチをするだけですぐに起動できるようにしてます。普通のパソコンで電車の中で起動してプログラムを選択するのは難しいですから、WILLCOM D4は片手でメールなどのアプリケーションを起動できるようになっています。

写真6 メールや電話、ワンセグなどを起動するためのランチャー写真7 WILLCOM D4は片手でメールなどのアプリケーションを起動できる
写真6 メールや電話、ワンセグなどを起動するためのランチャー写真7 WILLCOM D4は片手でメールなどのアプリケーションを起動できる



編集部:あえてライバルをあげるとすれば、OQOでしょうか。

須永氏:WILLCOMは「Ultra Mobile」と掲げ、新たな市場を開拓しようとしています。今までにないスタイルを実現したと思っていますので、具体的なライバルは想定していません。全てがチャレンジだと思っています。



我々は次世代PHS(WILLCOM CORE)を2009年にサービス提供予定ですが、WILLCOM D4は同サービスを視野に入れたコンセプト商品となっています。携帯電話で「モバイルYouTube」や「Yahoo!モバイル」などモバイルに小型化したコンテンツは登場していますが、家のパソコンで楽しんでいるコンテンツをそのまま見たいというニーズがあると思います。WILLCOM D4はそのようなニーズを捉えていますし、次世代PHSでさらにサービスレベルを向上させたいと考えています。



現行PHSですべての動画コンテンツに対応できないのも事実ですが、我々の無線LANサービスなどと組み合わせていただくことで、次世代PHSに先駆けて、新しいインターネット環境「Ultra Mobile」を楽しんでいただけるものと思っています。



編集部;本日はお忙しい中、取材に応じていただきましてありがとうございました。



WILLCOM D4 スペシャルサイト

WILLCOM D4 製品情報

株式会社ウィルコム





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編集部:関口哲司

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