昨年末、NTTドコモとauが相次いで新しい料金プランを導入した。基本料金にインセンティブなどが含まれず、端末代金が高くなる代わりに基本料金が安くなるという新プランだ。これにより月々の支払額は「基本料金」+「端末分割払い代金」となり、「回線と端末料金の分離」が一歩実現された形である。しかし海外を見ると両者の分離はすでに進んでいる国が多い。また分離されたことにより端末の割引き方法も明解になっている。日本ではなくなりつつある1円ケータイなどの格安販売だが、逆に海外では端末と回線の分離により割引き販売が活発化しているのだ。




■ドコモとau、新プランのメリットは?

両社が出してきた新しい料金プランのうち、NTTドコモの「バリューコース」とauの「シンプルコース」は月々の基本料金が安くなる代わりに端末の代金は値引き無し、または店頭販売価格で販売される。基本料金にはインセンティブ分など端末を割引する原資分が含まれなくなるため、これまでよりも大幅に安い基本料金が登場している。毎月の負担額を減らしたい消費者には大きなメリットだろう。一方で1円ケータイなどの安価販売はなくなるが、端末代金は月々分割にもできるため、割引きなしで新機種を購入しても毎月の総支払額は従来の基本料金プランとあまり変わらない。すなわち見かけ上の総支払額は従来と変わらないが、基本料金と端末代金を分離していくというよく考えられた料金体系となっている。



日本では今、これらの新料金体系と従来方式に準じた料金体系のどちらを選ぶか、という話題でもちきりだろう。新しい料金体系は端末代を支払ってしまえば月々の負担額が減るという大きなメリットがあるが、端末の割引が無いというデメリットもある。一方従来の支払い方式に慣れた人ならば今までどおりの買い方を支持するだろう。



ところで海外の販売方法はどうなっているのだろうか。

日本とは異なりSIMカード方式の概念が定着しているヨーロッパやアジアの事例を見てみよう。



■ヨーロッパやアジアでは完全分離

ヨーロッパやアジアなどでは基本料金と端末代金の分離は以前から導入されている。特に端末の販売は日本と違い、通信キャリアであってもメーカーブランド品の販売が行われ、またメーカーによる端末の単体販売も行われている。

すなわち携帯電話とは、「端末を単体で購入し回線はSIMカードを契約する」という概念が浸透しているわけである。

したがってヨーロッパやアジアでは基本料金にインセンティブを含まず「本来の基本料金」+「端末定価」という、日本の新しい料金プランに近い価格体系での販売が古くから行われている。



そうはいっても、実際はSIMロックをかけたり、契約縛りの期間を設けることで端末を割引き販売しているケースも結構多い。そのためヨーロッパでは通信キャリアが思い切った低額=無料や1ユーロといった料金で端末を販売する例をよく見かける。

この場合、端末割引きの計算はその端末本来の「定価」となっており、定価が5万円の端末と2万円の端末とでは、同じ料金プランで割引額が同一になることは無いのだ。たとえば2万円の端末を無料で入手するには「高い料金で契約1年縛り」か「安い料金で契約2年縛り」のように、顧客の契約期間に応じた総支払額で契約縛りの年数が決まる。そのため5万円の端末を安価に入手するには、2万円の端末よりもより「高い基本料金」か「長い契約縛り期間」が必要となるわけだ。



ヨーロッパの通信キャリアの価格表を見ると、端末ごとに複数の価格が設定されているケースが多い。端末のそれぞれの価格は基本料金プランとは別の料金だ。日本よりも様々なプランが設定されていることもあり、契約縛りの年数と合わせると端末の価格は「定価から無料まで」といった具合にいくつもの選択肢が用意されている。このため顧客は「より高機能な端末にするか、あるいは安価な端末にするか」「基本料金を増やすか、もう少し減らすか」のように、自分の支払可能額を考えながら基本料金と端末代金の組み合わせを選択でききるのである。



一方、アジアではSIMロック販売は少なく、契約縛りにより端末を安価に販売することが多くなっている。SIMロックが無いため、ヨーロッパのように無料に近い料金は少ないようだ。



例えば香港では単純に基本料金の金額により端末の割引き価格が決められている。定価5万円の端末が、5000円/月の基本料金ならば2万円に、1000円/月の基本料金ならば4万円に、といった具合だ。いずれも1年から2年の契約縛りがあり、その途中で解約した場合は端末の本来の定価分を違約金として支払う必要がある。



一方で長期契約する場合は端末の大幅な割引も用意されている。安価な端末ならば36ヶ月や48ヶ月というかなり長い期間の契約縛りで無料というケースもある。逆に言えばSIMロック無しで端末を安価に提供するのはなかなか難しいということなのだろう。これらの端末割引の原資はキャリアが出しており、基本料金から割引き分を回収するのではなく、単純にキャリアが端末料金を値引きして販売している。



■回線と端末代金の分離が「格安販売」を実現する

これらのようにヨーロッパやアジアでは端末の割引き販売が多い。日本ではなくなりつつある「1円」や「無料」といった格安販売も逆に増えている。



こうした原因は、やはり基本料金と端末代金が完全に分離されているからだろう。両者が分離されているからこそ基本料金は基本料金として複数のプランを提供し、それに応じて端末を個別に定価から割引きする、といったことができるわけだ。また両者が分離されたことにより、キャリア間の競争も「サービス」「料金」「端末代金」とわかりやすいものになっている。



日本の回線と端末代金が分離された新料金プランは、従来のプランのように端末を安価に買う手段が無くなってしまっており、その分をポイント制度などで実質上の「割引き」を行っているが、最初から基本料金ごとに端末の価格差をつけるなり、契約年数に応じて端末を割引く、といった方法はとれないだろうか。

ポイントは将来の端末買い替え時に代金として利用できるのは便利だが、これは基本料金と端末代金の分離に逆行しているようにも感じられる。ポイントで割引を実現できているのだから、次のステップとしては新しい料金プランの上での端末の割引きを提供してもらいたいものである。





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山根康宏

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