日本では1980年代から「セクハラ(セクシャルハラスメント)」という言葉が叫ばれるようになりました。日本語に訳すと「性的嫌がらせ」という意味ですが、当初は主に男性から女性への嫌がらせを指していました。しかし2000年代に入ると女性から男性へのセクハラや性的なもの以外の嫌がらせまでクローズアップされるようになりました。



今回はさまざまな形で引き起こされる社会問題のハラスメントについて見ていきましょう。



■元祖ハラスメント「セクハラ」

セクシャルハラスメントという言葉が初めて使用されたのは、1970年代初頭の米国でグロリア・スタイネム氏等が作り出した造語です。



グロリア・スタイネム氏は、女性雑誌『Ms』の編集主幹でフェミニストとして知られています。アメリカでは1986年に合衆国最高裁判所が裁判で初めてセクハラ行為が人権法に違反する性差別であると認められました。



日本では、1986年の西船橋駅ホーム転落死事件で被告の女性を支援する女性団体がセクハラという言葉を使用しましたが、当時はセクハラという概念も言葉も広く知られることはありませんでした。その後、1989年8月に福岡県の出版社に勤務していた晴野まゆみさんが上司を相手取りセクハラを理由とした日本初の民事裁判を起こしました。

職場を舞台として上司と部下との間で起きた事件ということで、誰にでも起こりうる身近な問題としてマスコミでも盛んに取り上げられました。



これまで何気なく行われて来た女性に対する行為や発言がセクハラにあたるということで、世の男性に大きなショックを与えたのです。また、この年の1989年 新語・流行語大賞の新語部門・金賞は「セクシャルハラスメント」が受賞しました。なお、1989年の流行語のきっかけとなった福岡県のセクハラ訴訟は、まだ係争中で決着していなかったため、授賞式で表彰されたのは2年前の1987年に裁判を終えている西船橋駅ホーム転落死事件の弁護士でした。



■さまざまなハラスメント

セクシャルハラスメント以降、さまざまな嫌がらせの実体が浮かび上がってきましたが、これらは総じてモラルハラスメントと呼べそうです。モラルハラスメントとは「精神的な暴力、嫌がらせのこと」を意味します。それでは、さまざまなハラスメントについて見ていきましょう。



1. パワーハラスメント

パワーハラスメント(Power harassment)とは、日本語にで表すと「権力や地位を利用した嫌がらせ」という意味になります。勤務先などで地位による権力(パワー)を背景にし、本来の業務の範囲を超えて継続的、且つ人格と尊厳を傷つける言動を行い、就労者の労働環境を悪化させたり、雇用不安を与える行為が該当します。

パワーハラスメントは、岡田康子氏(株式会社クオレ・シー・キューブ代表)が2002年秋頃に作った造語です。しかし、現在では過労死(karoshi)と共に日本の労働問題における言葉の一つとして、海外でこの言葉が使用されることがあります。



2.アルコールハラスメント

アルコール飲料に関わる嫌がらせ全般を指す言葉です。特定非営利活動法人アルコール薬物全国市民協会(ASK)は、アルハラ行為を次の5つに規定しています。



・飲酒の強要

・一気飲ませ

・意図的な酔いつぶし

・飲めない人への配慮を欠くこと

・酔ったうえでの迷惑行為



3.アカデミックハラスメント(キャンパスハラスメント)

大学などの研究・教育機関において教授などが立場や権力を利用して学生や配下の職員に対して行う嫌がらせのことです。上下関係を利用した嫌がらせでありパワーハラスメントの一種として分類されます。



4.スモークハラスメント

喫煙による煙や臭いによる不快感や受動喫煙による健康被害などは「煙害」と呼ばれますが、「スモークハラスメント(スモハラ)」と呼ぶこともあります。この言葉は和製英語なので海外では使われていません。



5.ドクターハラスメント

帝京大学出身の外科医・土屋繁裕氏が使用し始めた造語です。医師、看護師を含む医療従事者による患者への嫌がらせを指しています。嫌がらせの内容は、患者に対する暴言、行動、態度、雰囲気も含みます。土屋氏は著書『ストップ ザ ドクハラ』でドクハラについて、次の7つに分類しています。



・人間失格ドクハラ

・ミスマッチドクハラ

・脅しドクハラ

・ゼニゲバドクハラ

・子供へのドクハラ

・セクシャル・ドクター・ハラスメント

・告知のドクハラ



その他、採用ハラスメント 、スクールハラスメント 、カラオケハラスメント 、ラブハラスメント、ブラッドタイプ・ハラスメントなど、嫌がらせと感じる行為が増加しており、呼称も細分化されています。



■加害者にならないために

それでは自身の何らかの行為がハラスメントにならないためには、どのようにすれば良いのでしょうか。



あなたの行為がハラスメントであるかは、相手が嫌がらせであると感じるかどうかにかかっています。これは、あなたの意図とは関係がありません。つまり、何が嫌がらせにあたるのかという定義が曖昧で、気をつけようがないのです。そのため、管理職、男性、接客業者、教員など、ハラスメントの加害者になる立場の人からは、嫌がらせの定義を明確にして欲しいとの要望が出されることが少なくありません。



結局のところ、加害者にならないためには、日頃から良好な人間関係を築いておくことが大切です。ハラスメントが今日のように多様化した背景には、現代社会のストレスとコミュニケーション不足があるようです。もし誰かに体に触れられた場合、嫌いな人なら不快な嫌がらせに感じるかもしれませんが、それが仲の良い人ならただ触れただけとしか認識しないでしょう。



日頃からコミュニケーションをとることで相互理解を得る人間関係が、ハラスメントを防ぐにも大切なのでしょう。



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