TBSの報道&情報番組『ブロードキャスター』で、北朝鮮のアニメ産業が取り上げられていました。韓国のアニメ会社が日本の下請けで頑張っている話はよく聞きますが、38度線を越えたかの地のアニメ産業の話というのは珍しく、しかも日本製のアニメに関わっていたことにも触れたのですから驚きでした。噂レベルでは聞いたことはありましたが、まさか関係者のコメントで裏が取れるとは……。今回はそんな刺激的な番組の内容をご紹介してみようと思います。




■『ブロードキャスター』(TBS)

メインキャスター:福留功男 、久保純子

放送日時:2007年12月22日(土)22時~23時24分

※数ある話題の中の1ネタとして放送。



「南では新大統領が誕生。一方の北では新しい外貨獲得作戦です」という久保純子さんの前フリ後、画面は平壌市郊外にある「朝鮮芸術映画撮影所」の様子を映し出します。映画マニアの金正日が作らせたこの常設オープンセットの大きさは100万平方メートル(東京ドーム約21個分の広さに相当する模様)。10年ほど前ここに招かれ、日朝合作映画『高麗女人拳士』の総製作を担当した小林正夫氏が証言者として登場。小林氏は、当時北朝鮮のアニメ制作者から「我々(北朝鮮)は日本のアニメを手がけたこともある」という話を聞きます。



そして小林氏は「まぎれもなく持ってきたセル画がですね、『○○○』(日本アニメ)の一部だったわけです。これはもう腰を抜かしましたよね」と、当時を振り返ります。作品名も語っていたようですが、その時の口元にはモザイクがかかり、音声も編集されていたので詳細は不明となっていました。



結局作品名は明かされないのかと少々残念に思いながら見ていると、ナレーションで「売り上げ累計1500万部を越す人気小説が原作で、20年前から10年以上に渡って制作が続いた日本のとある長編アニメ」というものすごいネタバレイベントが発生。しかもその時、金髪の青年らしきキャラクターがモザイク処理されながらも映像で流れるというダメ押しまで付いてました。これはどう見ても作品名は『銀○○○○○』で、金髪キャラは「ラ○○○○○」です。

『銀○○○○○』の映画が公開直前時のアニメ誌「OUT」。表紙は当時『魔神英雄伝ワタル』で人気だったアニメーター芦田豊雄氏のオリジナル作品。


この一連の処理は確信犯的にやってるとしか思えませんが、大人の事情でおおっぴらに説明できない何かがあったのかもしれませんので、私も一部伏せ字で書いておきますね。小林氏は、その作品の制作担当のひとりでもあったようです。本人曰く、当時は日本のプロダクションにしか作業を発注した覚えはないとのこと。下請けの制作プロダクションの行為に関しては、小林氏としては知る余地はなかったのでしょう。



●北朝鮮のアニメ制作現場を直撃へ

ならばどうやって、北朝鮮に仕事が回っていったのかが当然疑問となってきます。そこで番組スタッフは長い交渉を経て、北朝鮮アニメの総本山「朝鮮4.26児童映画撮影所」内部の撮影の許可を得て取材を敢行するに至ります。その場所は平壌市の中心部にある15階建てのビルにあり、中では1000人を超すアニメ制作のエリート達が生産に打ち込んでいます。



北朝鮮の案内人は「我が国のアニメ創作家達は、皆、美術大学を無料で卒業し、国家が生活を保障してるので安心して働ける環境です」と説明。どこまで真実なのか微妙ですが、少なくとも日本のアニメーターより待遇は良さそうです。



節電のため通されたエレベーターは真っ暗。電力事情が悪いのが理由のようですが、首都・平壌レベルでこれとは、北朝鮮も相当ヤバイ感じです。アニメ制作は夕方6時まで行われているという話を聞きながら、児童映画撮影所の第三創作団のスタジオ(?)に到着。



「水を打ったような静けさの中で続く手書き作業にパソコン作業」というナレーションをバックに、スタジオ内部が映し出されます。並べられた長い机の上で紙と鉛筆を使って作業している情景は日本とさほど変わりませんが、どこか違和感があります。よく見ると手元を照らすライトが全くないではありませんか。光は窓から入る日光だけが頼りという状態。日当たりの悪い部屋の隅の人などは大変そうです。「夕方6時まで作業」というのは、太陽が沈んだら作業できないという意味だったみたいです。



ちなみに、使用されていたパソコンのOSは「北朝鮮が独自に開発したもの」ということになっていて、動きの確認などが行われていました。私の目には、画面上にあったごみ箱(?)やマイコンピュータ(?)のアイコンが、今使っているXPに激似に見えたんですが……(見なかったことにします)。作品の内容に関しては「相手との契約があるのでそれは秘密です」で終了。机にキャラクター表が貼ってあったり、パソコンの画面でキャラが動いてたりするので、隠す意味はあまりないように思えますが、それが北朝鮮クオリティということなんでしょうか?



ちなみに、ネットで調べたら作品の公式サイトと思われるものを発見したので、興味のある方はどうぞ。

・『Huntik』 - 公式サイト



アニメーターの作業机に貼られた、金正日総書記の言葉も紹介されてました。

「我々のものを愛し、大切にする事こそ祖国愛であり、主体である」

「私の思想を知るためには私の職場、期待、作品を見よ」

……みなさん『プルガサリ(※1)』とか見てるんでしょうか(遠い目)。独裁国家で働くのも大変そうです。

(※1)『プルガサリ』:伝説の北朝鮮製怪獣映画(1985年制作)。日本からゴジラのスタッフを呼んで制作されたことで、特撮ファン及びB級映画ファンの中では超有名。プロデューサーは金正日(!)。プルガサリは圧政を敷く朝廷軍と戦う庶民の味方の怪獣(時代設定は高麗朝)。現在はDVDで観ることが可能。



アニメ制作の発注は外国からたくさん来ているのかという質問に対し、北朝鮮の関係者は「世界各国から来ています。フランスのアニメには20年前から関わっています。例えば『ライオンキング』なんかは、アメリカが作ったものとは別に、我々がイタリアと一緒に作ったものもあるんですよ」とコメント。この「朝鮮4.26児童映画撮影所」で請け負うアニメのおよそ7割は海外発注の仕事で、有望な外貨獲得源になっているんだとか。



●世界を巡るアニメ制作

ここで前述の小林氏が再登場し、「日本」>「韓国」>「北朝鮮」というルートで、北朝鮮に日本の仕事が回ったのではという説を唱えます。要するに、下請けから孫請けに行ったというわけですね。さらに北朝鮮へ仕事を発注した経験を持つ韓国のアニメ制作会社「エイコムプロダクション」のネルソン・シン会長が登場。「コスト面のメリットはもちろん大きいですが、それよりもとにかく彼らは技術の飲み込みがとても早いんですよ」と、北朝鮮のアニメーターを絶賛。



さらに「新大統領がイ・ミョンバク氏になりました。これは、南北のアニメ交流において大きなことだと思います」と期待を寄せます。イ・ミョンバク氏はソウル市長時代、アニメフェスティバルの名誉会長も務めるなど、アニメ文化の振興に尽力していた人物。「これからの南北交流にアニメを活用していくんじゃないかと思います」というネルソン会長の発言もなんだか現実味があるような気がしてきます。



また、日本製アニメを数多く手がける「STUDIO Cj」の田銀英代表(女性)も「(作画を)中国にお願いしてもいいのですが、距離がありますし、言葉も違います。その点北朝鮮は言葉も一緒だし、技術力もあると聞いてますから、魅力的ですね」と、新たな発注先として視野に入れていることを語ります。



最後に北朝鮮のアニメ関係者は自信満々なコメントします。

「今後我々はより世界的な範囲で、必ずや日本のアニメを追い抜くでしょう」

これを見た直後は「さすがにそれはない」と思ったものですが、後になってよくよく考えると「もしかしたら……」とも思えるようになってきました。



なにしろ日本のアニメ業界はお先真っ暗で、明るい話題がありません。アニメーターという仕事に対する印象も「低賃金」「長時間労働」「保証なし」というマイナスイメージが浸透するという始末。将来的に日本のアニメ産業が生き残っていけるかどうか、国家レベルで考えなければいけない時期が来ているようです。



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レッド中尉(れっど・ちゅうい)

プロフィール:東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。


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