長い間漫画を読んでいると、たまに刺激の強い作品に出会いたくなることがあります。読者を熱狂させ、怒らせ、トラウマを植え付ける、良くも悪くも感情を揺さぶるアクの強い漫画の数々。今回は、そんな読み手を選ぶハードコアな漫画を一部ご紹介します。


●『覇 -LORD-』 原作:武論尊、漫画:池上遼一、発行:小学館、6巻まで発売中(以下続刊)



武論尊、池上遼一という劇画の巨匠ふたりが描く三国志、それが『覇 -LORD-』です。一見、漫画好きなら迷わず読んどけ! 的なマストアイテムかと思いきや、その実態は我々庶民の想像を粉々に打ち砕くトンデモ作品。吉川英治の小説版や横山光輝の漫画版を王道三国志とするならば、これは正に邪道三国志であります。



具体例を挙げますと、三国志の重要人物である劉備は「義の人」として知られていますが、本作品では目的のためなら手段を選ばない非情の男として登場します。この時点で従来の世界観は崩壊しまくりですが、武論尊先生の暴走はこれだけでは終わりません。なんと劉備は登場間もなく、邪馬台国から渡来してきた倭人の武将に首を切られて死んでしまうのです。側で見ていた関羽が思わず「な、なんと…… こ、これは悪夢(ゆめ)か…!?……」と嘆息していましたが、まったく同感するしかありませぬ。



その後、首を切った倭人が劉備として生きることになり……、というのが第1巻で語られる「さわり」のエピソードなのだから、たまりません。はじまりがそんな設定なので、その後も予測不能な展開・演出が続いていきます。この作品は王道三国志という基本が破壊されていくところに醍醐味がありますので、なるべくなら吉川版を読破するなどしてから体験することをオススメしておきます。個人的には趙雲が●●だったのが一番衝撃的で……。池上先生の絵は大好物なだけに、中尉のとまどいは天を突く勢いであったとさ(回顧)。

男前な主人公・劉備の雄姿。バカ正直な性格で周囲の人間を困惑させまくる。左奥が張飛、右奥が関羽。関羽はなんだか新宿二丁目で人気が出そう……。




●『シグルイ』 原作:南條範夫、漫画:山口貴由、発行:秋田書店、7巻まで発売中(以下続刊)



剣の道を究めんとする男達が真剣で斬り合う、全編血みどろの残酷時代劇。首切り&内臓ぶちまけシーン満載なので、グロが苦手な方にはまったくもってお勧めできませぬ。とはいうものの、一部に熱狂的なファンがいることからもわかるように、この独特の世界感はハマれば病みつきになる不思議な力を秘めています。情念渦巻く絵は魅力的で、ページをめくるだけでも快感が得られること請け合い。まず死合いありきの豪快なストーリーや、クセのある登場人物の面々など見所は満載です。



原作は南條範夫のオムニバス時代小説『駿河城御前試合』の第一話『無明逆流れ』。原作は30ページ程度の短編ですが、漫画家・山口貴由の妄想力によって大胆な脚色&大ボリューム化が成されています。原作小説は長く絶版の状態でしたが、『シグルイ』人気によって2005年10月に復刊されたりもしています。興味が湧いた方は今すぐ書店に走ってください。『シグルイ』には、なるだけ真っ白な状態で接していただきたいと思う次第。



さて、ここから若干の内容解説を試みます。まず、第一話の冒頭は徳川家光の実弟・忠長の切腹シーンから始まり、いきなり介錯&生首ぽろり。その後、家臣が自分の内臓を握り締めながら主君に諫言したり、主人公の片腕がなかったり、ライバルが盲目で片足が不自由だったり、剣の師匠が精神に異常をきたしていたりと、何から何まで狂気のメーター振り切りまくり。



漫画原作のドラマ化がもてはやされるようになって久しいですが、この作品を前にしては企画案をまとめる気力すらおこらないでしょう。成人指定の映画ならなんとかこの世界観を映像化できるかもしれませんが、原作を読む限り、作者はそういった世俗の欲望とは無縁で突っ走っている模様。お美事(みごと)、お美事にございまする(シグルイ風に)。

片腕の剣士・藤木源之助と盲目の剣士・伊良子清玄の血ジャケ。真剣での斬り合いを真正面から描写しているので、身体のいろんな部分が切れたり、削げ落ちたりする。ひいぃ。




●『ゴールデンラッキー』 作:榎本俊二、発行:太田出版(愛蔵版)、全3巻(完結)



「ゴッキー」の愛称で親しまれているナンセンス漫画の金字塔。漫画家・榎本俊二の代表作といえば、今では『えの素』が最も知られているようですが、ファンならばデビュー作であるこの『ゴールデンラッキー(1989~1993年作品)』も押さえておきたいところ。これはズバリ最低の漫画です(褒め言葉)。読むのに苦痛を覚えます(たまに気持ちいい)。基本は4コマ漫画ですが、起承転結などありません。



いくつかネタをご紹介すると「少女がおじさんを捕蝶網で捕らえてエビ反りでニッコリ」「チョップが得意な父さんが高速回転しながらリンゴを真っ二つに割る」「ハッ、わー、わー、と叫んで中華まんから脱出すると今にも食べられそう」みたいな感じです。え?意味がわからない? それがゴッキー・クオリティなんであります。



逸話もいろいろあり、コミックモーニング(講談社)での連載当時、読者アンケートで同誌のワースト記録をぶっちぎりで塗り替えたことは特に有名です。また、そのあまりのヒドさに世間でも、意味不明の漫画=ゴッキー、つまらない漫画=ゴッキー、最低最悪の漫画=ゴッキー、という評価を欲しいままにしていました。この連載は、当時の編集長が「最下位である限り連載を続ける」「たった1回でも順位が上がったら打ち切り」「一番つまらなかった作品でも必ず一番であること」というルールを設定した上で続けられたものらしいのですが、そんな最低の状況が6年も続くというのも凄いし、連載を続けさせた編集部も凄過ぎです(というか狂ってる)。



現在入手できる太田出版から発売中の「完全版」は1冊1,200円(税抜)と、やや高価ですので、初めて読まれる方は上・中・下巻のうち、最も下品で読みやすい下巻から読むのがいいでしょう。上巻などは、現在の作者の持ち味である下ネタがほとんどないぶん、シュールすぎるのでかなりツラいと思われます。あ、念のため言っておきますが、これはつまらなくて当然の作品ですのでクレームはなしでお願いしますね(私は結構好きですよ。特にラストのストーリーシリーズは個人的に名作認定)。

原稿執筆のために久しぶりに読みましたが、途中で心が何度も折れました。この完全版は、作者本人が出版社に売り込んだ持込み企画。泣ける話であります。




カオス通信 - 第1回 「TVアニメの過剰投下は百害あって一利なし」

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レッド中尉(れっど・ちゅうい)

プロフィール:東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。


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