auに引き続き、NTTドコモも基本料金が最大半額になる新しい割引サービスを発表した。利用者にとっては料金が割引きになることはうれしい反面、毎回のように導入される各種割引サービスは名称も含め複雑化しすぎていないだろうか?



海外にも料金割引制度はあるが、日本のように複雑なサービスを提供している国は少ない。今回は世界で最もキャリア間の競争が激しいと言われる香港で、利用者がどのような割引や優待を受けているか? その実例を紹介しよう。



■日本とは正反対!利用分が"割り増し"される香港

香港では5社7ブランドが人口700万弱の市場で競いあっているが、携帯電話の基本料金は日本よりはるかに安い。最低料金はHK$50/月(約800円)で、これに無料通話分が300分~500分含まれることが一般的だ。基本料金が上がれば無料通話分が増えるのは日本と同じだが、日本のような「何%引き」という割引は一切提供されていない。また複数年契約により割引率が異なるという概念もない。



契約形態は基本的に「単月契約」または「1年契約」の2種類しか存在しないのだ。では利用者への優待制度は全く無いのかというと、そうではなく、日本とはちょっと様子が異なるのだ。



香港では固定契約を結んでも基本料金の割引は無いが、同じ料金で利用できるサービスが増やされるのだ。全キャリアが行っている基本的な優待は付加サービスの無料化というわけだ。番号表示、転送電話、留守番電話、同一キャリア内のSMS/MMS送受信などが1年間の固定契約で無料となる。単月契約では各オプションごとに数百円が必要で、いずれも利用頻度が高いサービスだけに通常は1年契約し、これらを無料で利用する利用者が多い。

香港各キャリアの料金表には様々なプランが掲載されている某キャリアの料金プラン。白い数値は基本料金に含まれる無料分だが1年契約することで黄色い数値に増額される。最下欄のオプションも1年契約で無料となる



ただし、この優待までは各社が提供している横並びのサービスである。そこで各社が他社に差をつけるために行っているのが無料利用分の増量なのだ。たとえば300分の無料通話のプランであれば、これにさらに200分を無料でつける、といった具合だ。キャリアによってはパケット通信や国際電話の無料利用分をつけるところもある。携帯電話の使用頻度の高い利用者にとっては高めの料金プランを利用することなく、低い料金プランで同等の無料分を利用できるというメリットが大きく、キャリアの新規ユーザー獲得にも大きな役割を果たしている。またMNPの利用が頻繁な香港では「MNP利用+1年契約でさらに倍増」といったキャンペーンもよく展開されている。



最近は香港でも料金そのものを引き下げる動きも若干は出ている。とはいっても「1年契約で2000円引き」や「1年契約で基本料金1ヶ月無料」などのように、単純明快でわかりやすい方式が取られている。そしてこれらの割引には「○○割」といったような固有の名称は一切使われていない。これは香港の携帯料金が日本のような認可制ではなく、届出制であるため、各キャリアは自由に無料利用分の増加などを行えるからだ。キャリアによっては毎月のように異なる優待プランを提供しており、他社が出せば自社は対抗してさらなる優待を、といった競争も頻繁に行われている。それほど頻繁にユーザー対応するため、優待にいちいち名称をつけることはキャリアにとっては手間がかかるだけだし、利用者にとってもわかりにくいだけとなるのだ。



「いったいどれくらいお得なのか?」、これを明確な数値で表現することで利用者を引き付けようとしているのが香港のキャリア間の競争なのだ。

■日本の携帯、基本料金の半額化は無理?

先日発表された日本の「2年契約で基本料金50%引き」の割引サービスは、契約固定期間はさておき、基本料金がいきなり半額となるインパクトの大きいものだ。しかし考えてみれば、最初から半額にできるのならばむしろ今の基本料金をそもそも半額にすることができるということではないのだろうか? 



今回の50%割引の導入でキャリアは収益減を予想しているが、ビジネスが赤字になるほどの収益減にはならないようである。すなわち今までの基本料金を"条件付きとはいえ半額でも提供することが可能である"ということを新しい割引サービスは証明しているのではないだろうか?



MNP利用でHK$300割引、新規加入は国際電話120分無料。割引や優待ははっきりした金額/分数で表示されている香港のキャリア店頭では料金そのものをずばり明快に表示した広告が目立つ。こちらは基本料金の減額が明記されている



他の割引サービスを見ても契約年数や年齢などによって各種割引率は異なっている。2年契約で半額にできる割引がある一方で、別の割引サービスでは2年利用しても半額にはならない。一見、ユーザーに選択肢を与えているようで、実はどの割引サービスを使うのが自分に最適なのか? お得となるのか? 選択肢が多すぎてわかりにくいというのが現状ではないだろうか。



折りしも電気通信事業協会が今年7月の携帯電話契約数を発表しているが、各キャリアの純増加数は3ヶ月連続でソフトバンクがトップとなっている。その要因はやはり「980円」というわかりやすい料金を提供しているところにある。単純に安いだけではなく、料金が最初から明示されているため利用者にとって非常にわかりやすいのだ。これに対してNTTドコモとauが導入した「50%引き」はインパクトはあるものの、実際の料金がいくらなのか、直感的にはわかりにくいのでないだろうか。



日本でも「基本料金を割り引く」でお得感を演出することはやめて、思い切って最初から安い料金を提示してはどうだろうか?

基本料金4000円を割引サービスに応じて割り引くのではなく、「2年コース:基本料金2000円」「1年コース:基本料金3000円」「単月コース:基本料金4000円」のように、固定契約に応じたパターン別にすることも一つの方法ではないのだろうか。これならば利用者は自分がどの契約を行えば実際にいくら払うのかをより明確に理解しやすくなるなる。そして各コース別に無料利用可能なオプションの追加や、途中解約時の違約金を個別に設定すれば不公平感も無くなるかもしれない。家族契約の割引も、家族回線間での無料利用分を増やすという「香港式」を導入することも方法論として考えられるだろう。



このような方法は、あくまでも一例にすぎず、日本において実際にこのような体系を導入できるかどうかは未知数であり、必ずしもこのような体系を求めるものではないが、現在のように複雑になりすぎた割引方式を続けて行く限り、今後さらに複雑な割引サービスが導入される可能性は否定できないだろう。



"わかりやすい料金体系"と"わかりやすい優待"の導入はやがて利用者側からも求められてくるのではないだろうか?



基本料金の引き下げはキャリアの収益を大きく減少させてしまうリスクの大きい決断だ。しかし現実には回線契約をする際には、多くの販売店で1年契約などの割引サービスに入ることを薦められており、すでに割引料金で契約することが事実上の標準になっているのであれば、わかりやすく、ダイレクトにユーザーに届く実際の基本料金として提供するほうが、大きな成果を手にしやすいのではないだろうか。





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山根康宏

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