5月22日、auとソフトバンクから2007年夏モデルが発表された。海外でも携帯電話の新機種は毎月のように発表されているが、日本のようにキャリアから新機種が発表されることはほとんどなく、ほとんどがメーカーからの発表だ。日本と海外ではなぜこのように違いがあるのだろうか。



■海外でのキャリア新製品発表会の意味合いとは

海外では日本のように通信キャリアが主体となって端末を開発、販売する国は少ない。お隣の韓国も端末販売はキャリア別だが、端末の開発はメーカーの力が強く、日本とは様相が異なっている。またヨーロッパやアジアなど、世界の主流であるGSM/W-CDMAを採用した国ではほとんどがメーカー開発の端末をキャリアが販売しており、日本のようなキャリア専用端末を販売するスタイルは少ないのだ。



このようにGSMやW-CDMAのマーケットでは、ハードウェアである端末はメーカーが開発し、キャリアはその端末に自社のコンテンツアクセス設定などをインストールして販売することが一般的だ。たとえキャリアの店頭で販売されている端末にキャリアのロゴが印刷されていたとしても、同じメーカーの同じモデルであれば、中身のハードウェアは他のキャリア販売品やメーカーが単体販売品と変わらず、内部設定やインストールされているアプリケーションのよりカスタマイズが異なるだけだ。すなわちハードウェアと電話回線は独立していることが基本的なのだ。



このためVodafoneのような巨大なグローバルキャリアなどでは、クリスマス商戦に投入する新製品の発表を行うこともあるが、そこで発表される端末だけが新製品としてVodafoneから発売されるわけではない。発表会で発表されない端末も新製品として発売されるし、同じ時期にメーカーが単独で発売する新製品をキャリアは利用することができる。



そもそもキャリアで利用する携帯電話を、そのキャリアで買う必要は全くないのだ。たとえば日本のノキア・ジャパンで発売されている海外向け携帯電話をイギリスに持ち込み、イギリスのVodafoneのSIMカードを挿入すればそのまま「イギリスのVodafoneのケータイ」になるというわけだ。このようにキャリア専用端末という概念が元々ないため、海外キャリアによる新製品発表は「キャリアの戦略的商品」もしくは「キャリアの一押しする製品」のリリースであることが多く、日本のような「キャリア専用の新しいモデル」とはまったく違うというわけだ。



CeBIT 2007でのVodafoneブースの展示。DVB-H方式のモバイルTVの新サービスの展示ブースにはNokiaやSamsungの対応端末が展示されている。しかしこらはVodafone専用ではなく、他のキャリアでも利用できる。



■メーカーの新製品発表は、家電そのもの

では、最新の携帯電話の発表はどのように行われているのだろうか? 海外ではメーカーが独自に新製品発表会を行うことが一般的だ。

IT関連や携帯電話関連の展示会があれば、その開催に合わせて新製品が発表されることも多い。そのような場でメーカーが自ら開発した新製品を同時に発表する姿は、日本のキャリア同士の新製品発表会よりも競争の熾烈さを感じさせる。しかも発表される製品は何も新機能を搭載した高機能端末だけではない。新興市場向けのローエンド端末であろうとも、その市場では莫大な数を売り上げる戦略的製品であり、安い端末だからといってひっそりと発表されることもないのだ。



また海外製品の発表には「季節」モデルという概念はない。

日本ではパソコンなども、いつのころからか「春モデル」「秋冬モデル」のように季節ごとに各社から合わせて新製品がリリースされるようになっているが、海外の携帯電話メーカーにとって、マーケットは全世界だ。国によって季節感というものは異なるため、季節に合わせて新製品を発表することは、まったく意味がないのだ。



また、もしもメーカーが特定市場向けの新製品を発表したとしても、全世界のマーケットが自国への発売を期待してメーカーに注目するのだ。そのため他社を出し抜くために戦略的な製品を早めに発表したり、あるいはゲリラ的に突然新機種を発表することもよく行われる。メーカーの発表とは他社との競争に勝ち抜くための戦略であり、日本のように「揃って出してくる」などという予定調和な甘さは微塵もないのだ。



そして海外の各携帯キャリアはメーカーが発表した新製品を吟味し、自社でも取り扱い、目玉商品とするのだ。メーカーがいい機種を出してくれれば自社への顧客取り込みや利用率の向上にもつながるわけである。



大手メーカーのブースは開場前から人が集まってくる。展示される新製品のマーケットは全世界だ。ブースのレイアウトやデザインも各メーカー、力を入れて凝った作りにしている。

■春モデルを買ったユーザーの立場は?

このように海外と日本では、ハードと回線の関係が異なることから携帯電話の新製品の発表や発売方法が大きく異なっている。但しどちらの方式がよいとは一概に言えないだろう。日本のスタイルは、新機能を搭載した新製品を広く市場に普及させるのに一役買っているからだ。



しかし、このように新製品を季節ごとにキャリアが投入する日本の方式は、もう無理が生じてきていないだろうか?



たとえば夏モデルの発表の数日前に、この春に発表された春モデルを買ったユーザーの立場はどうなるのだろうか?

また季節が変わる=すなわちたった3ヶ月で自分の買ったモデルが旧機種扱いになってしまうのだろうか? 



仮に買い換えたくとも、端末の買い換えには契約の縛りがあるし、1年未満などの機種変更は割高となる。これが海外であれば、以前にも書いたように中古市場があるので買ったばかりの機種であっても中古として売却、新機種に買い換えることも容易だ。しかも新しい機種であればあるほど高値で売却できるため、新機種への買い替え負担も少なくて済む。



しかし、日本では携帯電話を気軽に買い換えるシステムは皆無である。携帯を買い換えてみたものの、数日後には自分の欲しいと思っていた新製品が出てしまっても、しばらくは買い換えることすらできない。また販売店のほうでも、新モデルが続々と入荷してくれば、旧モデルは割引で販売せざるを得ない。たとえ機能に差異が無くともキャリアから「夏モデル発売」と発表されれば、「春モデル」は古い製品、とユーザーが感じてしまうからだ。



これだけ多くの新製品を季節ごとに発売するのならば、各キャリアも端末の買い換えに関してより柔軟なシステムを導入するべきではないだろうか?



このためには現状の「新規契約」「長期利用者」だけが割安で端末を買える方法に改革を加える必要も出てくるかもしれない。一見すると華やかな日本のキャリアの新製品発表会だが、華々しくデビューする新機種を指をくわえてただ眺めることしかできない利用者が多数いることも事実だろう。

また次から次へと新機種を出すことにより、いつ買い換えればいいのかわからなくなる利用者も出てきているはずだ。



日本の端末が安いといっても、毎月のように買い換えることはコストなども考えると事実上できないといえる。気に入った商品をいつでも無理なく買えるような販売方法が提供されることが、ユーザーにとって望ましいように思えるのだ。





■これもオススメ!海外モバイル通信コラム

びっくりケータイ集合!こんなものまであるのか?中国面白携帯事情

"ブランド品"ケータイをもてない日本人! "PRADA Phone"にみるブランド電話の魅力

国境を越えはじめた通信サービス!日本以外の世界が繋がる「国際ローミング」の新しい潮流

海外の市場の強さは"中古ケータイ市場"! 日本は、もう追いつけないのか?

"ブランド力"で海外に勝てない日本端末



山根康宏

著者サイト「山根康宏WEBサイト」

Copyright 2007 livedoor. All rights reserved.