最近、めっきりアニメのDVDを買わなくなりました。どうやらこれは私個人だけのことではなく、アキバ系全体に渡る傾向のようです。私は仕事柄、メーカーの方とお話しすることも多いのですが、みなさん一様に販促には苦労されているようです。



例えば初代ガンダムのDVD-BOXが発売されて間もないころ、関係者筋の人が「ガンダムのBOXは、他の作品に比べれば全然売れてるんですけど、当初の目標が高かったんで実は物足りない感じなんですよね……」と語っていたりもしています。



■売れなくなったアニメDVDの業界事情

アニメDVDは1万本売れればヒットと呼ばれる昨今、12万本の出荷を記録した初代ガンダムBOXでさえ、そんな状況なのです(いったいどれだけ期待していたんでしょうか?)。また、某大手メーカーの萌えアニメ担当の方が「今はDVDレコーダーですごく綺麗な映像が録れるので、本当にDVDが売れないんですよ。特典とか色々考えて工夫はしているんですけど……」としみじみ語っていたのも、つい最近のことです。



確かに、DVDレコーダーやPC等を駆使すれば、自分好みの作品を録画してDVDに焼くことが可能です。アニメファンはAV機器やPCにお金をかけている人も多いので、保存せずにエアチェックするだけで十分という状況も確かにあります。それでも本当にお気に入りの作品ならば、本放送の"ON AIR版"と"DVD版"の両方を入手したくなるものです。特に最近のアニメは、DVD収録時に作画修正が行われる場合も多いので、DVD購入は"ON AIR"版と違う最終バージョンを入手するという側面もあったりします。



とはいえ、やはり最初に一定以上の評価を得られなければ、DVDでフォローしても手遅れという場合がほとんどです。本放送時に、作画が崩壊していたり、ストーリーがつまらなかったり、声優のキャスティングに難ありなどの影響で、熱心なファンを獲得できずに終わった作品は数多くあります。そういった評判はネットなどを通じてすぐに広まるので、本放送でつまづいた作品が売れる可能性は加速度的に低くなっていきます。



アニメファンにとっては、アニメ専門誌も重要な情報源のひとつです。雑誌サイドは毎号実売率を上げるために必死なので、当然表紙は人気作品のキャラクターが飾ります。さらに誌面で特集を組まれるのは一部の人気作品に限られていきます。人気の出た作品は誌面でプッシュされてさらに人気が上がり、そうでない作品は事実上黙殺されて記憶の彼方へと姿を消していきます(アニメの数が多すぎるので切らざるを得ないのです)。



また雑誌にとって、誌面に掲載される広告は大きな収入源です。広告を入れてもらう代わりに、メーカーがプッシュする作品を大きめに取り扱うということは普通に行われています(いわゆるタイアップ記事)。メーカーも商売になりそうな作品をプッシュしますので、プッシュされない作品との差はさらに大きくなっていきます。そうしてアニメ社会にも激しい格差が生じていくのです。



ちなみに最近、最も売れていると評判なのは『コードギアス 反逆のルルーシュ(※1)』ですが、これはメーカー的にはノーマークで、まさかここまで商売になるとは思ってなかったようです。すでに第二期の制作も決定しましたが、急遽延長された作品が面白くなった例はあまりないだけに、今後が不安です。私も一応全話を観ましたが、途中でお気に入りのキャラが●●●になる部分でドン引きしてしまいました。一応続きは観るつもりですが、今のところ第二期には、それほど期待はしていません。DVDの売り上げに過剰反応した一部報道で「エヴァンゲリオンを超えるか?」的な文言も見かけましたが、ちょっとそれは無理でしょう(理由は長くなるので割愛)。



(※1)コードギアス 反逆のルルーシュ:日本が強国"ブリタニア"に軍事侵略されて属領"エリア11"になるという設定から始まる作品。物語は、日本の独立解放を目指すレジスタンスの活動を中心に進む。右寄りでヘビーな内容でありながら、主人公の男子2名がイケメンで腐女子に人気だったりもする。先日、残り2話を残したままTV放映が一時終了した。残り2話は夏に公開予定。この件に関しては色々な噂があるが、どうやら延長が決まったことで●●●●の新作とバッティングするのが確定してしまい、それを避けるために行われた措置だったらしい(某関係者談)。



次のページでは、インターネットの影響と著作権についてみていきましょう。

■インターネットの影響と著作権

こうしたアニメ業界内の問題のほかに、YouTubeに代表される動画配信サービスの影響も見逃せません。話題作・人気作であればあるほど、ネットに動画がアップされる確率も高くなります。メーカーサイドは当然ながら必死に削除依頼をしていますが、現状では、どう考えてもイタチごっこです。個人的にはYouTube程度の荒い画像ならば、ある程度プロモーションと割り切って、黙認してもいいような気はしますが、そうはいかないのが、メーカーの立場でしょう。



著作権侵害という問題は確かに重要ですが、「まず観てもらう」というはじめの一歩を、TVに代わってYouTube等が支援しているという側面は評価してもいいと思うのです。いくらDVDを買って欲しいとはいっても、中身が分からなければ、消費者のサイフはゆるまないようにも思われます。



たまに地方に行くと実感するのですが、なんでもかんでも放送している首都圏のアニメ環境は、ある意味異常です。本当に観たい作品は一切放送されず、新作アニメはNHKとレンタルビデオ店だけが頼りというアニメ過疎地域は意外と多いのです。地方のアニメファンにすれば、TVアニメが多すぎて困るというのは贅沢すぎる悩みなのです。



メーカーが個人による動画配信を公に認めることは無理でしょうから、完全否定となるのは承知しています。ただ願わくば、メーカー関係者様にはできるだけ「寛大な心」を持っていただき、ファン側との共存関係を構築して欲しいと願うばかりです。



■転換期を迎えるTVアニメの収益構造

様々な問題を抱えながらも、メーカー側はDVDを買ってもらうために必死です。「初回特典グッズ(※2)」「オーディオコメンタリー(※3)収録」「ディレクターズカット版(※4)収録」「最終回はDVD限定(※5)」といった様々な売り文句で、購買意欲を刺激しようと努力しています。



(※2)初回特典グッズ:設定資料集やフィギュアなどが定番。ちなみに『N・H・Kにようこそ!』というひきこもりが主人公の作品では「ひきこもり星人なりきり全身タイツ(○っこりパッド付き)」というトンデモグッズが同梱されていた。



(※3)オーディオコメンタリー:監督や出演声優などが作品を見ながらコメントした音声のこと。



(※4)ディレクターズカット版:ON AIR版ではボカシがかかっていたスプラッタ描写やエロ描写がDVD版で解禁されたり、キャベツに見えないキャベツがちゃんと描き直されたりする(キャベツに見えないキャベツ:カオス通信第1回「TVアニメの過剰投下は百害あって一利なし」を参照)。



(※5)最終回はDVD限定:TV放映が途中で終了してしまい、最終回はDVDで見るしかないという状況。事情は様々だが、アニメファン的には大不評。本当に勘弁してほしい。



アニメ(特にTVアニメ)は、DVDの売り上げに頼っている構造を考え直す時期にきていると思います。それでもDVDを売りたいというならば、粗製濫造は止めて、あらゆる意味でクオリティの高い作品作りを目指すべきでしょう。特に現在は、ブルーレイやHD DVDなどの次世代規格が登場し始めていることもあり、買い控えが発生しても不思議ではないからです。



これからは深夜帯でマニア向け作品を作るばかりでなく、ゴールデンタイムで通用する一般視聴者の目に触れる作品作りにチャレンジしたり、劇場作品の興行収入で稼ぐ、といった別の道を模索していくべきかと。私も最近買った作品は、映画館で4回も観た『時をかける少女 限定版』だっただけに、余計にそう思うのであります。



最近、期間限定でTVアニメの最新話をメーカー側が動画配信するという動きも出てきていますが、これはいい傾向だと思います。とにかく作品を観てもらわなければ、何も始まりません。今後より一層の企業努力に期待したいところであります。





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レッド中尉(れっど・ちゅうい)

プロフィール:東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。


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