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IAMAS 准教授 小林茂さん |
話題のクリエイターを紹介する「注目クリエイター列伝」。第7回は、電子楽器メーカーの技術者・サウンドデザイナーから学校の先生になったという異色のクリエイター 小林茂さんに登場していただいた。
小林さんは、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が実施していた「未踏ソフトウェア創造事業」において、2007年度第1期に採択された開発テーマ、「プロトタイピングのためのツールキット『Funnel』の開発」によりスーパクリエータに認定されている。
■IAMASの現状と卒業生たちの状況
小林茂さんは愛知県の出身。39歳。1993年より電子楽器メーカーに技術者およびサウンドデザイナーとして勤務した後、2004年7月よりIAMAS(イアマス)でフィジカルコンピューティングなどのレクチャーを担当する。最近の主な活動はツールキット「Funnel」。2007年度 第1期 IPA(情報処理推進機構)認定スーパークリエーターだ。
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IAMASについて語る、小林茂さん |
IAMASとは、情報科学芸術大学院大学と国際情報科学芸術アカデミーという岐阜県立の二つの学校の総称。アカデミーは高卒以上の学生を受け入れる二年制の専修学校で 1996年の創設、修士課程のみの大学院大学は2001年に開学した。
高度情報化を重要な政策とする岐阜県が、情報社会の新しいありかたを創造する表現者の養成、人材養成の拠点として、県の情報産業拠点であるソフトピアジャパンとともに設立した。
アーティストが一定期間滞在して制作活動を行う「アーティストインレジデンス」で滞在したアーティストには、ヤマハと「TENORI-ON」をコラボレートした、メディアアーティスト 岩井俊雄 氏がいる。岩井氏は、水戸芸術館や恵比寿ガーデンホールで音楽家の坂本龍一 氏とコンサートをしたこともある。
「10年くらい経ってくると、学校の役割もいろいろ変わってくるところがあって、卒業生の中でも一番多く活躍しているのは、ウェブの分野です。」と、小林茂さんは卒業生の現状を語ってくれた。
ウェブ系の制作会社には、ルーチンワークをこなしているだけの会社から、先進的な新しい試みに挑戦している会社まで幅広いが、卒業生は新しい試みを積極的に行う会社に就職している人が多いそうだ。
IAMASには、アートを志す学生も変わらずにいるが、そこから派生したデザイン。具体的には、ウェブであるが、そこに新しい考え方を盛り込んだデザインを勉強したい人が来ているそうだ。
■プログラミング環境と現実世界をつなぐ
Funnelは、ActionScript 3.0、Processing、Rubyといった幅広いプログラミング環境と現実世界をつなぐ、新しいインタラクションをデザインするためのツールキットだ。
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プログラミング環境と現実世界をつなぐツールキット「Funnel」 |
FIOは、Funnelを使用するために新規に開発されたI/Oモジュールで、無線モデムXBeeのソケット、リチウムイオンポリマー電池の充電器を搭載し、XBee経由で無線でプログラムを書き込んだり通信したりすることができる。
なぜ、このようなツールキットを提供することになったのか? 話しは、小林さんがメーカーに勤めていた時代までさかのぼる。
小林茂さんは、もともと楽器メーカーで鍵盤やツマミがついた電子楽器のハードウェアを担当していた。楽器の場合、新製品と言っても演奏の仕方が全く変わってしまう製品を出すことは、基本的にはないそうだ。
「たとえば、ピアノみたいに演奏してきた楽器が、今日から新しい演奏方法になりました。これをどうぞ使ってください。というわけにはいかなくて、今までの演奏方法を踏襲し、少しずつ拡張していける方向でないと、製品としては受け入れられないというものがあります。」と、小林さんは、当時の新製品を開発する上での苦労を語ってくれた。
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「FIO」は手のひらにのるほど小さい |
Funnelを一言で説明するのは難しい。センサやアクチュエータが話す言葉と、多くのFlashクリエータが慣れ親しんでいるGUIの言葉とを通訳を担当し、画面の中だけで完結していた世界を実世界に向けて拡張していく時に使えるというのが「Funnel」なのだそうだ。
「ピアノやシンセサイザーで鍵盤を押すと、ポンッと音が鳴る。そういうインターフェイスも昔からある例の1つです」と、小林さんは言う。小林さんは、Funnelの前身となったツールキット「Gainer」と使って例として、体の動きで演奏するギター「Mountain Guitar」のデモを見せてくれた。
Funnelを開発したキッカケが気になるところだが、小林さんはメーカーで製品開発を行っているときの個人的なフラストレーションからGainerやFunnelを思いついたという。
ソフトウェアであれば、画面の中で完結しているので、100個とかアイデアを出し、それを全部試してみて良い悪いを判断することは、けっこう簡単にできる。ところが、ハードウェアの場合、そうは問屋が卸さない。一度設計を終えてしまうと、あとから機能を付け加えたくても変更できないことが多々あるからだ。
Funnelは、人間とコンピューターとを繋ぐ基本的な環境を提供する。ユーザーは自分がやりたいことにあわせて、FIOのようなI/Oボードにセンサーを足して行けばよい。そこに制約はない。
例えば、Wiiリモコンのように、人間がデバイスを振ると、コンピューターが反応するものを作ろうと思えば、FIOに加速度センサーをあとから付け加えればよいわけだ。
Funnelがあれば、「ボタンを押すと、音が鳴る」から「センサーの付いたモノを振ると、音が鳴る」という装置まで簡単に作ることができる。また、センサーだけに限らず、Flash Playerで扱えるウェブカメラを組合わせれば、センサーに加えてカメラを使って何かをするコンテンツなどの応用もできるそうだ。
■ワイヤレスになると発想も変わる
Funnelは、FIOと組み合わせることで、ワイヤレスの環境でも使うことができる。
無線となると、いろいろな設定が必要であり、少し設定を間違ただけでうまく動かないということや、バッテリの扱いが面倒という問題がある。そんな無線を扱いやすくするために作られたのがFIOというユニットだ。
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Funnelとパソコンを無線で繋ぐ無線モデム「XBee」 |
昨年12月にロクナナワークショップが開催した、FIO入門ワークショップでは、無線を利用する上で知らなければならない知識を実際に受講生に体験させる講義を行ったという。小林さんによると、「難しさもあるが、それによって得られる新しいモノもある。」とのことだ。
FIOは、無線LANルーターでおなじみのWi-Fi(802.11nなど)を使用しない。それは、なぜか?
Wi-Fiを使用すれば、802.11nの場合で300Mbpsという高速な通信を行えるが、消費電力が大きいため、小型のバッテリで長時間駆動するのが難しくなる。また、最近では無線LAN環境のセキュリティが厳しく設定されていることが多く、テストしていた環境ではうまく動いていたのに、デモの場面で突然動かなくなるということもある。FIOで採用したXBeeはもともと産業用に開発されたもので、一度設定してしまえば確実に動き、多くの用途で必要充分な通信速度を備えていることが採用の理由だったそうだ。
新しい技術よりも今まである技術を如何に組み合わせて使うかが、大事なのだ。
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Funnelについて語る、小林茂さん |
「WiiやiPhoneは今まで出来ていなかったことを可能にした、ひとつの例と言えるのではないかと思います。」と、小林さんは語る。
Wii に使われている個々の技術は新しいものではないが、リモコンを傾けたり振ったりという身体の動きでゲームに参加できるという体験自体が新しいので注目されたのだという。WiiFitも簡単なインターフェイスではあるが、バランスボードの乗って動かす動作とコンテンツが結びつくことで、今までと全く違う世界を開拓することができた。
また、iPhoneの場合も同様に、そこで使われている個々の技術自体は新しいものではなく、サービスも含めた製品として完成度が高い状態で提供されたことで、すごい製品であると認識されたと小林さんは言う。
小林さんは自身の研究について、「人間とコンピューターとのチャンネルを増やそうという試みをやっているんですね。」と語ってくれた。
Funnelとは、何か?
Flashコンテンツと外部インターフェイスとを繋げる敷居を低くすることができる。その結果、新しい可能を今までよりも容易に追求できる道具だ。
小林さんは、新しい可能性を提供するためのインターフェイスを作る、スーパークリエータだった。
イベント
・ロクナナ
・ロクナナワークショップ
・小林茂に学ぶFIOモジュール入門ワークショップ
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