久保圭一写真展 時を忘れしまち -古座街道-は、2010年1月から3月までの期間に応募された中から選ばれた久保圭一氏の作品50点が展示されている。

作者の久保圭一氏は、今回の被写体である和歌山県古座川町の生まれ、現在37歳。

彼が、生まれ故郷である和歌山県古座川町を本格的に撮り始めたのは、1年ほど前からだという。
現在では過疎化が進む和歌山県古座川町は、林業の街であった。久保氏は観光用の写真撮影を依頼されたことをきっかけに、大阪の十三 OICP写真学校に通い基礎を学び写真活動を開始した。

久保氏は、古座川町を撮り始めた理由をこう語る。
「大阪で働いていた頃、休み田舎に戻ると電車を下りた瞬間からなんともいえない時間の進み。違和感を感じました。おそらく全く変わらない街並に時間が停止しているかのように感じたのです。

この感覚を表現しようと撮影をはじめ、急速に進む過疎化にこの街はどうなるのか、今撮らなければもうこの街の人々が暮らす里山の光景が撮れなくなると思いました。」

現在の和歌山県古座川町は、久保氏が育った学校や盛んだったチップ工場は次々と無くなり、眼前にある故郷が失われていく現実の寂しさと厳しさを受け止めながら、この街を一生撮り続けていこうと決意したという。
円形空間に現在の和歌山県古座川町が表現されている

久保氏は、あえて周辺部の光量をしぼり、被写体に一歩迫る手法で作品作りをしている。50点に及ぶ作品を見ていくと、四季の彩りや美しい日本の原風景の景色に、様々な問題が写し出されていることに気づかされるだろう。
人が減ることで「野生の獣」が増える自然との境界線もその一つだ。また、神社の鳥居が朽ち果てている写真では地域にコミュニティが瓦解し始めている現実が見え隠れしている。
朽ち果てた鳥居の写真の前で久保氏

こうした現実の中でもたくましい輝きを発しているのが、力強く生き抜いているお年寄りや子供たちの写真だ。
撮影は、河口から上流へと進み、旧古座町(現串本町)にまで至っているという。今回展示されている人物写真には旧古座町(現串本町)で撮影したものも多いという。写真展のタイトルを古座街道としたのも、旧古座町が含まれているためだそうだ。展示では、こうした人たちの力強さに、久保氏の再生への希望が託されているのかもしれない。
生き抜く和歌山県古座川町のお年寄りたちが写し出されている

和歌山県古座川町 再生への希望ともいえる子供たち

今回、久保氏がリコーの公募展に応募したのは、1点だけの応募でなく、銀座にあるRINGCUBEでの作品展示にひかれたからだという。1点では表現しきれない和歌山県古座川町の「今」を銀座にあるフォトギャラリーRINGCUBEで、より多くの人に見て欲しかったという。今回の展示により、そうした思いを実現できたことは嬉しいと久保氏はかたってくれた。

写真という作品を制作しながらも過疎が進む地域の当事者でもある久保氏は、「過疎という問題にどこまで撮影者として踏み込めばいいのか、今も悩みながら撮り続けています。」と、作家としての葛藤もあると語る。今後も故郷である和歌山県古座川町の写真を撮り続けていくという久保氏だが、写真を学んだ大阪の街の消えゆく景色も平行して撮っていきたいという。

久保 圭一氏 プロフィール
1973年3月20日 和歌山県古座川町生まれ
神谷俊美に街撮の楽しさを学び、尾仲浩二「大阪街道塾」で写真表現の自由さを学ぶ
2006年 大阪・十三 OICP写真学校にて写真撮影基礎・ライティングを学ぶ
2006年 BIG STONE Gallery(現Bloom Gallery)「神谷俊美と大阪を撮る」に参加
同年 グループ展「大阪を探せ」
2007年 BIG STONE Gallery(現Bloom Gallery)神谷俊美「作品制作実践ゼミ」
2008年 尾仲浩二「大阪街道塾」参加
同年 グループ展「街道塾展」
写団LAB#13 参加 年1回のグループ展に参加

久保圭一写真展 時を忘れしまち -古座街道-
開催期間:2010年6月30日(水)~2010年7月11日(日) 
11:00~20:00 ※最終日は17:00まで
火曜日休館

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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