若手の写真家が自身の才能と将来をかけて戦う場所、そこが「雑誌」だ。ファッションから専門誌にいたるまで様々なジャンルが存在する雑誌は、数多くの才能ある若手写真家が活躍している。そんな若手写真家にとって、雑誌は生き残りをかけた戦場でもあるといえるだろう。

日々才能を磨き、作品を撮り続けている若手写真家にスポットをあてた写真展が、東京・銀座のリコーフォトギャラリーRING CUBE(リング キューブ)にて開催中だ。

タイトルもズバリ、「Editors' Choice 2010」~雑誌が選ぶ、いま最も期待する若手写真家展~だ。

この「Editors' Choice 2010」は、若手写真家が活躍している10雑誌のエディターが推薦した、10名の写真家による写真展だ。いずれも選りすぐりの写真家だけに、密度の濃い写真展となっている。また今回展示されている10名の中から、来場者による投票によって選ばれた写真家による個展の開催も予定されている。

今回、同展に出品している江森康之氏と鈴木知之氏にお話を伺った。

■現代人の、隠されていた野生の顔を暴く!

会場に入るとひと際目立つのが、江森康之氏による、水泳で息継ぎをする男たちの、荒々しいまでの表情を撮った作品だ。
昨今草食男子などと揶揄される日本人男性だが、江森氏の写真は、草食男子の微塵も感じられない「男」の表情だ。

戦前、戦中や高度経済成長期の男たちは、こうした荒々しさと必死さを表情にまとっていた。これらの写真は、そんな迫力あふれる表情を、現代人の中から引き出している。作品の前で、しばし男たちの、飾らない生々し過ぎる表情に見入ってしまったほどだ。

今回の作品は、のべ40人の男性に、実際にプールで、全力で50mを泳いで貰って撮影している。この撮影は、モデルや撮影できるプール探し、そのスケジュール調整と、どれも大変だったという。さらに、彼らに全力で泳いで貰っているため、やり直しができない。すべての作品は、実に3年越しで撮影されているのだ。

江森氏は、なぜこのシリーズを始めたのだろうか?お話を伺ってみた。

「最初は、『呼吸』を撮ろうと思ったんです。人間が息をする瞬間を撮れないかと考え、水泳している顔を撮ろうと思いついたんです。ところが実際に撮っているうちに、あまりにも表情が必死なので、テーマが『生きる』のようになってきたんです。」

この作品について江森氏は、
「被写体が、カメラを目で追っていないんですよね。泳ぐことと、息をしないと溺れるので、構えられないんですよ。撮っているうちに、泳いでいるのか、溺れているのか、それとも沈んでいるのか、わからなくなりましたね。」

まさしく、生身をむき出しにした男たちの表情がそこにはある。今後について江森氏は、
「ここまでやってきたので、しつこくやるしかない。大人が一生懸命泳いでいる表情を撮り続けています。でもこういう表情は、男の顔でしか見たくありませんけどね。」目標100人に向け、まだまだ撮影は続けていくそうだ。

■人の視点から都市建築と生活を眺める
撮影:鈴木知之 写真提供:法政大学陣内研究室

鈴木知之氏の作品は、一見するとパノラマ風の写真だが、よくみるとパノラマ特有のゆがみがない、ちょっと不思議な風景写真だ。実はこの写真、複数のカットを後処理でつなぎ合わせて1枚にしているのだ。

実際にやったことがある人ならわかるが、移動しながら撮影した写真の1コマずつを合わせていっても、ピッタリ左右が合わない。それぞれ異なった遠近感があるため、普通に撮って貼り合わせても、端と端がずれてしまうからだ。そこで鈴木氏は、画像処理ソフトを使って、ゆがみを補正して作品を仕上げているが、実際かなりの時間がかかるという。

こんな面倒な作業が必要な作品を始めたきっかけは、建築だという。鈴木氏は現在、大学に籍を置いており、自身も20代まで建築士であった。南イタリアの都市建築と生活に関する調査で、法政大学陣内研究室に同行した鈴木氏は、当初は調査資料作成のため、写真のパノラマ風コラージュをはじめたという。作っているうちに、できあがった写真の美しさに魅せられて、これを作品化していくことに決めたそうだ。

鈴木氏は、この手法の面白さを説明してくれた。
「この手法を用いれば、通常の写真では表わすことができない、地形の高低差や、人間が普段目にしている街並みの全景そのままを、一つの写真で表現できるのです。」

鈴木氏は、
「原宿など、みんなが知っているところを撮ったのでは意味がないと思っています。どこを撮るかが大事だと思っていて、「ここってどこ」っていうような、この方法でしか撮影できない驚きのある作品作りをしていきたいです。」と語ってくれた。

■各雑誌期待度No.1の若手写真家による作品が集結




選ばれた10名の写真家と推薦雑誌
・石毛倫太郎(BRUTUS/マガジンハウス)
・江森康之(papyrus/幻冬舎)
・君塚裕(CUT/ロッキング・オン)
・鈴木知之(東京人/都市出版)
・谷口京(TRANSIT/ユーフォリアファクトリー講談社)
・谷田政史(LEON/主婦と生活社)
・塚田直寛(commons&sense / CUBE INC.)
・野村佐紀子(Pen/阪急コミュニケーションズ)
・馬場わかな(an・an/マガジンハウス)
・ジョナス・ベンディクセン [マグナム・フォト](Newsweek日本版/阪急コミュニケーションズ)


リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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