世界中に広がる通信網は、もし何かあれば電話やインターネットが使えなくなるだけでなく、経済的損失も大きい。たとえば、2006年12月26日に発生した台湾南方沖地震による障害では、およそ9ケーブルシステム19区間の光海底ケーブルが被災し、国際通信が被害を受けた。シンガポールや香港は比較的に早く復旧したが、最も被害を受けた台湾の復旧には約2カ月もかかったことは記憶に新しい。
このようなときに修復を担当しているのが、海底ケーブルの敷設・保守をする国際ケーブル・シップ(KCS)のKDDオーシャンリンクやKDDパシフィックリンクだ。このように最前線で活躍するKDDオーシャンリンクを取材した。1992年から担当し、10万km以上の保守実績を持つ船だ。
Yokohama Zoneと書かれているエリアをKDDIオーシャンリンクがカバーしている |
担当するエリアは、横浜ゾーンと呼ばれる北太平洋の西側だ。東側の北アメリカゾーンとは西経167度で分けられ、南側のSEAIOMAゾーンとはグアムあたりで分けられている。世界の海の中でも特に冬は厳しい海域となっている。横浜ゾーンは日本の2隻のほか、KT Submarineの「SEGERO」が韓国・釜山に、SBSSの「FU HAI」が中国・上海が担当しているが、この2隻は半年毎に交代で担当するため、通年では活躍しているのはKCSの船だけだ。
日本以外に韓国・釜山、中国・上海に海底ケーブルの保守船が配置されている |
いざ修理の依頼が来ると、基本的に24時間以内に出航することになっている。そのため、365日、24時間待機しているのだ。水深2500mまでの作業が可能な水中ロボット「MARCAS」などの修理に必要な装備を持ち、経験豊富なケーブル技術者が乗船している。しかも、波浪、風波が厳しい状況でも修理を実施しないといけないのだ。日本のKDDI、NTTコミュニケーションズ、ソフトバンクテレコムのほか、AT&TやKTなど16社と提携し、APCN2やJapan-US CNなど14路線のケーブルの保守を担当している。各海底ケーブルにはオーナーがいて、通信会社は利用料を払って利用している。
これが光ケーブル。中心にあるのが光ファイバー |
出航までの流れを説明しよう。地震での地殻変動などにより光ケーブルに障害が発生した場合、海底ケーブルのオーナーから修理依頼が来る。そうすると予備の光ケーブル積み込み作業や、必要なら障害発生した海域の許認可を取得して、現場に直行するのだ。横浜ゾーンでは、一番遠い場所では到着に6日程度かかるところもある。とても広い場所を担当している。
障害があった光ケーブルは海中で切断して、その一方の光ケーブルの端を船上に引き揚げる。そして、もう一方を引き揚げ、障害があった場所をきれいにして繋ぎ直すのだ。光ケーブルの場所は、現場に行ってみないとわからない。敷設した場所から100m以上もずれていることがあるからだ。しかも、同じルートに複数の光ケーブルが敷設されているため、障害がない隣接した光ケーブルにキズをつけるわけにもいかない。そのため引き揚げ作業は慎重に行われる。
接続には世界資格を持った技術者が専用の工具で行う。主に使われている光ケーブルは10種類を超え、それぞれに資格がある。接続する技術者はそのすべての資格を持つ。光ケーブルは、キズをつけないように光ファイバーを抜き出すのが難しく、光ファイバーも8芯、16芯などさまざまで間違えないようにつながないといけない。しかも、品質を確保するために、芯に対して垂直にカットし接続することになる。接続すると、引っ張り試験、伝送試験などの試験が完了すると、もう一度海底に沈める。
修復.その1 修復するには、まずは、障害を受けたケーブルの外皮を光ファイバーを傷つけないように取り外しこのような状態まで加工する |
修復.その2 光ファイバーの端を垂直に切断し、この専用工具にセットし接着する |
修復.その3 光ファイバーを接着する。画面を見れば、自動的に垂直水平方向を調整しているのが分かる |
沈めるときに活躍するのが、水中ロボット「MARCUS-Ⅱ」。水中カメラ、多関節マニュピレーター、ウォータージェットなどを装備し、海底を掘削して光ケーブルを埋設する。こうすることで、漁具やアンカーからケーブルを守ることができる。「MARCUS-Ⅱ」は次期ロボットを選定中。決まり次第、入れ替えが行われる予定となっている。
水中ロボット「MARCUS-Ⅱ」。上半分の黄色い部分が浮きの役割 |
光ケーブルを敷設ために、光ケーブルを搭載するためのケーブルタンク、光ケーブルの巻き上げや繰り出しを行うリニアケーブルエンジンとドラムケーブルエンジン、船やケーブルにキズをつけないようにするためのバウシープといった、専用作業船ならではの設備を持つ。リニアケーブルエンジンは上下21対(3対が7セット)のタイヤの圧着摩擦力により高速で安定したケーブルの敷設などができる。ケーブルタンクは3基用意され、約4500km分の光ケーブルが格納できる。直径約3.6mの巨大なドラムケーブルエンジンは、時速30km程度までの低速で光ケーブルが回収できる。細かな制御が可能なため慎重な引き揚げ作業などに向いている。バウシープは船首に搭載された直径3.2mの巨大な滑車。これを使うことで、光ケーブルと船体がこすれることがない。
リニアケーブルエンジン。21対のタイヤが並べられ、光ケーブルの巻き上げや繰り出しを行う |
細かな制御ができるため、ケーブル修理時の巻き上げ、繰り出しに用いられるドラムケーブルエンジン |
ストレスがケーブルにかからないように巻き上げや繰り出しを調整・操作するケーブルコントロールルーム |
自動的に船位を保持するための自動船位保持装置を搭載している。海の上では潮流や風の影響を受けるため、同じ位置で停止することは難しい。しかし、作業中に流されてしまうと光ケーブルに不必要な引っ張る力がかかってしまう。そう、一定の場所に停止していないといけない。そのために、2基のメインエンジンのほか、横移動が可能なバウスラスターを持ち、それをコンピューターで風速、波浪、潮流を計算しながら船の動きをコントロールしているのだ。この装置は敷設工事など、決められたコースをずれなく航行する必要がある場合にも役立つのだ。
停泊、操船を行うブリッジ。コンピューター制御により、通常は不可能な静止ができる |
このように、いつ起こるかわからない光ケーブルの障害に瞬時に対応できる体制を整えている。そして万が一の事態が起こると、修理に急行する。これで、西太平洋エリアの通信網を守っているのだ。
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