写真とは「技術」と「感性」のバランスから生み出されるアートである。そして写真アートの新しい扉は、常に次世代の作家たちが開いてきた。

そして今ここに、SFを彷彿とさせる「技術」と「感覚」で「HDR写真」という新しい手法で作品を生み出す作家がいる。

独自のアート写真展を展開するリコーフォトギャラリー「RING CUBE」が次世代フォトグラファーをピックアップする「NEXT GENERATION」。3人目となる今回は、2010年1月、ヨコハマフォトフェスティバルのポートフォリオレビュー会場で発掘した、保坂昇寿氏だ。

■「HDR写真」が作り出す異空間都市
保坂氏が今回公開した作品のテーマは「東京」。しかし、その作品には普段我々が目にする東京とはどこか違う東京が写し出されている。

今回の作品は、「HDR写真」という手法を使った作品だ。
HDR写真は、複数枚の露出を変えた画像を重ね合わせ、通常の写真以上の広いダイナミックレンジを持たせたデジタル写真のテクニックである。

保坂氏は、東京生まれ、東京育ちの都会っ子である。これまでも「都市」をテーマに撮影してきた保坂氏だが、今回は、自らの東京に対する先入観を排除するため、このHDR写真という手法で作品作りに取り組んだという。

■GRデジタルとHDR写真の出会い
保坂氏は、最初から写真作品を手がけていたわけではなく、元々はIT系のライターだった。 結婚や、家業の薬局の手伝いに戻ることをきっかけにライター業を休止。2002年ごろから生活も落ち着き、ライター活動を再開しようと考えた。再開にあわせて新しい武器(スキル)として、取り組み始めたのが「写真」だった。

当時は、ちょうどトイカメラの第2期ブームで、保坂氏もトイカメラで通勤の間にストリートスナップを撮っていた。その後、2003年に写真家 渡部さとる氏のワークショップ2Bにて本格的な写真を学び始めた。

写真を学び始めたころから一眼レフよりもコンパクトカメラ指向だったという保坂氏が、発表と同時に予約して誰よりも早く手に入れたのがリコーの初代「GRデジタル」だ。当時、写真に向かないのではないかと悩んでいた保坂氏に、GRデジタルとの出会いが写真を続ける大きな力となったことから、このカメラには特に思い入れがあるという。

そんな保坂氏が、発売されたばかりの「GRデジタル」でたどり着いたのが、「HDR写真」という手法だ。HDR写真をモノクロにしたその仕上がりのかっこよさに、「デジタルカメラを使う意味とは、これなんじゃないか、と思った」(保坂氏)。

■日本でもフランスのような「アートとしての写真」を
「HDR写真」という手法を手にした保坂氏は、ライフスタイル誌の「エスクァイア日本版」デジタル写真賞に応募し、グランプリを受賞する。楽しんで撮っていた写真に、いきなりのグランプリ受賞。その突然さに受賞理由がわからなかった。

しかし、当時の写真の先生である渡部さとる氏から薦められた、フランス「アルル国際フォトフェスティバル」のポートフォリオレビューへの参加が、保坂氏の写真に対する姿勢を大きく変えることになった。

このフォトフェスティバルで保坂氏は、初めて自分の写真を専門家に説明するという体験をする。そこで知ったのは、ただ言葉(英語)で話すというだけでは伝えきれない"写真の見せ方"だった。同時に日本人という強みをもっと売り込むべきだと改めて感じた。

帰国した保坂氏は、日本でも自分の写真を見せられる場所を求めて作品をレビューしに回り始める。アートとしての写真に対するフランスと日本の違いを体験した保坂氏は、「アートとしての写真」を日本でも追求していきたいと意気込んでいる。

■展示会開催に寄せて~保坂昇寿
この写真は、Pax Techonodelicaをテーマに撮った、東京のランドスケープです。パックステクノデリカとは、英語とギリシャ語、ラテン語のミックスで、科学技術顕在の平和、という意味があります。

本来、その土地に住んでいる人の営みや歴史の積み重ねの中から生まれる街ですが、現代は資本の理論から何もかも全ての破壊が進行中。

21世紀の東京は、新保守化/ファスト風土化の流れの中で均質化していきながら、携帯電話や無線LAN、GPSという目に見えない力で高度情報化し、都市が多様化していっています。コインパーキングなどの徹底的に匿名化した土地の上で、ネットの噂から新たな都市伝説が生まれるのが今、だと僕は考えています。

そんな東京は、ただスナップショットしただけでは写らないと考え、僕はデジタルというコンピューターの想像力を借りました。具体的には9枚の露出を変えたイメージを重ね、広いダイナミックレンジを持ったHDR写真という手法を使うことで、この作品はなっています。

全てが匿名化され、過去もなく、未来もない、第三の時間を持つ、科学技術顕在の世界。それを感じていただければうれしいです。


保坂昇寿 プロフィール
1968年生まれ。IT系ライターやWEBマガジン編集を経て、2008年4月に「クローム襲撃」にてエスクァイア日本版デジタル写真賞'07-'08グランプリを受賞。同年7月に仏アルル国際フォトフェスティバルのフォトフォリオレビューに参加。

2009年2月に個展「昭和84年東京」をA246ギャラリーにて開催。同年11月に「キラキラ星よと写真家は言った」でLittlemoreBCCK第2回写真集公募展佳作入賞。2010年1月ヨコハマフォトフェスティバルのポートフォリオレビューに参加。同年9月米PhotolucidaのCritical MassにおいてFainalist175に選ばれる。2010年10月関西御苗場RICOHブースに、2010年12月、2011年7月に神戸TantTempoPhotoCafe&Galleryで、また2011年6月に在ベルギー日本大使館にてグループ展の予定。
保坂昇寿 公式ページ

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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