11月28日に開催されたアドテック東京にて、「米国事例から学ぶスマートフォンビジネス」という講演をさせていただいた。今回の講演内容は、レインボーアップススクールのブレイクタイム講座で語ってきた海外事例を新たにまとめ直したもので、読者のみなさんにもご紹介したい。

B to C、B to C、B to B to C、といった言葉は、どなたでも聞き馴染みがあるだろう。
では、「B to G」という言葉はご存知だろうか?

「G」とは「Government」の略で、ガラパゴスケータイの公式課金ビジネスを揶揄した言葉である。つまるところ、NTTドコモの需給調整の中で安心して財をなしてきたコンテンツプロバイダーは、国から免許をいただいて営業をする会社となんら変わらないということである。

一方、Appleは、ディベロッパーを25万人も束ねて、法人と無数の個人ビルダーたちに血みどろの競争をさせて端末の販売台数を伸ばしている。また、Googleにしても、Androidという名のもとに、1万人のJava開発者がおり、Google Gadgetという名ののもとに、Java Scriptクリエイターが集結しつつある。

本当にオープン化してしまった感のあるスマートフォンビジネスだが、結論から言ってしまうと、これからは「B to D」なのである。

私が見て来た米国の失敗例は以下の通りだ。
1.iPhoneアプリだけ、1サービスを1社でやっている
2.シリコンバレーへの幻想
3.投資ありきのビジネス
4.フリーミアムの間違った解釈
5.継続課金のしくみの欠如

とくにフリーミアムについては、よく考えなければならないポイントだ。アプリは15分もあればできるが、大抵のアプリは発売後1ヶ月で市場から忘れ去られる。よほどの中毒性のあるアプリではないと、課金ゾーンに誘導はできないし、広告でペイすることもできない。

フリーミアムは、その体験価値において、圧倒的なマーケットシェアを得るために、有料の競合をぶっつぶすべくとられる戦法である。こうした価格の過当競争が激化すると、多数のアプリで無料に走り、消費者の無料使い捨てサイクルに突入してしまう。

まさに市場を焼いてしまうことにもなりかねない。

アメリカでも日本でも参入者は、「今までの収益性は10分の1だ」と、みな言う。

しかし、このような中、成功している者たちもいる。


彼らには、収益性が低いからこそ、その中で成功するために考え抜いてきた知恵を見ることができる。
成功しているケースを6つに分類して紹介しよう。


1.アーティストモデル
「Angry Birds」「Doodle Jump」「Ocarina」「Koi Pond」「Sleep Cycle」
「つみネコ」「ちゃぶ台返し」「Zen Artist」

このモデルは、アイデアありきである。何千というアイデアの中からシンプルで面白い体験を切り取り、社会現象化することで定番を狙うものである。

音楽や映画、テレビ番組のようなエンタテイメントな世界と共通しており、アイデアをどれだけ日頃から出し続けるかがポイントになる。

いわゆるIT業界の退屈な人たちには向かないモデルだが、今までアイデアだけで食べていた放送作家などには素晴らしい世界である。なぜなら、Appleの審査だけ通れば、あなたのアイデアがアプリになるのだから。


2.クラウドポータルモデル
「Twitter」「Ustream」「Evernote」「Drop Box」「Shazam」「midomi」「instagram」

これらのサービスは、iPhoneアプリを持ってはじめて爆発したクラウドサービスだ。
逆に言えば、モバイルのウェブブラウザだと難しかったところに、クラウドの蛇口がスマートフォンのアプリになって可能になったという共通点を持つ。少ないように見えて、新しい体験をもたらすクラウドサービスはたくさんあるのではないだろうか。


3.メトロポリスモデル
「YELP」「Open Table」「Groupon」「FourSquare」

東京と博多は何がちがうのか? ニューヨークとサンフランシスコは何がちがうのか?
しばしば我々のようなメトロポリタンはその価値を忘れてしまう。

東京やニューヨークには、芸能人やアーティストが住み、放送局や出版社があり、世界中のエグゼクティブやブランドが集まり、虚栄をはり、男女がうごめく、実にくだらないが、独特の付加価値に支配された密集地だ。
ここで盛り上がったものは、地方へ流れ、そして世界にも流れる。

上記のサービスは、群集心理やプレイヤーをうまく活用して成長してきた。なかでもチェックインというワードはバズになっており、その「テレビ番組を見た」という痕跡を残すことになる。
テレビチェックインをバイアコムがすでにはじめており、白熱しているGoogleTVなどを見れば、今後、流れも理解できるだろう。また、モノについてのチェックインも「バーコードカノジョ」というサービスをサイバードがはじめている。

今まで土地に縛られていたためリアル店舗の販促にしか使われていなかった「チェックイン」が、バーコード読み取り機能で土地から自由になり、ナショナルクライアントと消費者の新たな関係を作り出すものとして注目を集めておる。


4.ソーシャルアプリモデル
「Zynga」「ngMoco」「MiniNation」

これらのサービスは、ユーザに中毒症状をおこさせて、他のアプリ購入や、アイテム課金を促し成長してきた。

「ソーシャルアプリ」という用語は最初でこそ、人間関係の中に溶け込むゲームというような意味合いでもてはやされたが、なんのことはない、かつての「オンラインゲーム」だ。

最初の爆発的な集客だけ、そのコンテナ(※フェイスブックやグリーのこと)に依存するが、それ以降はかなり熾烈な戦いを強いられる。

私はこのモデルをけっしてオススメしない。なぜならソーシャルアプリで勝っている企業は日本でもわずかである。あたったらでかいけれど、負けたらサーバ代のコストを延々と払い続ける。ある意味1のアーティストモデルよりも難しいのである。


5.ツールプラットフォームモデル
「admob」「tweet pic」「Play Heaven」「OpenFait」「Twillio」「Sekaikamera」

これらは、広告配信や、画像アップロード、電話一斉コール、AR表示など、ディベロッパーたちに必要なツールを配信しつつ、集客や広告費などのビジネス的な還元をもたらすサービスである。

49年に金坑夫が殺到したときに、リーバイスは自ら金を掘らずに、作業着を彼らに売った。それがジーンズというファッションに変化して、巨万の富を得たという話がある。

ただツールを作って経済合理性があればいいだけではなく、ディベロッパーに「イケてる」ツールとしてもてはやされ、ユーザにも「イカしたサービス」になる必要がある。

ちなみにEagleでは、ARプラットフォームとして「Eagle Ground」体感ゲームプラットフォームとして「Eagle Game Center」を開発している。アプリを作りながら、それに似合うプラットフォームも作ってしまおうという考え方だ。


6.ソリューションモデル
米国では、アプリをリリースする際に、そのマーケットシェアが、シンビアン、アンドロイド、iPhone、ブラックベリーと、均衡並立していることから、ディベロッパーには、全対応を強いられている。

そこでベースアプリを4つのOS用にプロジェクトおよびバイナリを生成し、更新データはサーバでコンテンツマネジメントするという、「Mobile Roadie」や「Toura」といったソリューションサービスがすでにある。

また広告表現についても、アクセスしたデバイスによってHTML5やFlashに書き換えて表示、クライアント側は自由にクラウド上でいろいろなリッチバナー(バナーを押すとその場であたかもウェブサイトがでてくるようなバナーのこと)を制作でき、しかも対価は広告成果でのみ支払われるという、アドネットワークとセットのサービス「Sprout」が、多額の資金調達に成功した。

しかし、前述のように技術力が必要かと言えば、そうでもない。Eagleは、シミュレーションゲームやYoutube連動のディスコグラフィを瞬殺で作れるアプリテンプレートをすでに開発している。

電子書籍ビューアーやアイテム課金サーバ以外にも、テンプレートビジネスの可能性はたくさん埋蔵されている。

とにかく今すぐアプリのランキングを見てみよう。このアプリとこのアプリは同じロジックでできそうだぞ、というものを見つけてしまったら、それを実行すればいい。それらを欲しいと考えるコンテンツホルダーはたくさんいるはずだからだ。


以上、すべてのモデルに共通することは、なんらかの形で、アプリや、ディベロッパーを束ねていることだ。

1は、アプリの卵であるアイデア、それを出すクリエイターを束ねている
2と3と5は、ディベロッパーにAPIを提供している
4は、同じような体験価値のあるアプリを束ねている。
6は、クライアントを束ねながら、アプリが量産化されている。

アプリマーケットでは、アプリが人を呼び、塵もつもればで人が集まれば、大きなビジネスとなる。
ずべてのコアとなるのがアプリで、そのアプリを生み出しているのは一人一人のディベロッパーである。

Googleが無数のブロガーにアドセンスを貼らせたように、アプリの世界でも、その作り手を見てビジネスをするべきなのである。

Appleは、ディベロッパーに無数の良質のアプリを作らせてiPhoneという製品をたくさん売った。裏を返せば、ディベロッパーたちが製品の魅力を引き上げたのである。

もはや製品の魅力は、その製品そのものではなく、その上で動くソフトウェアが握っている。
つまりディベロッパーたちが、モバイルを飛び越え、テレビ、クルマ、サイネージなど、ありとあらゆるIP家電の未来を切り開くキーを持っているのだ。

これからの時代、井深大、本田宗一郎、松下幸之助たちのバトンを繋ぐのは、とりもなおさずディベロッパーなのである。

いつしか、スティーブジョブズの最も大切なもの「世界中のディベロッパーたちの心」を盗んでしまう日をめざして。


アドテック東京 Apps Exchange Square講義録
「米国事例から学ぶスマートフォンビジネス」 Eagle 藤永真至
スライド資料はこちら
Eagle


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