先日、「スマート化する時代の新しいビジネス」というセミナーが開催された。
スマートビジネスといえば、iPhone/Androidアプリを、スマートフォンユーザに配信するということばかりが注目を集めてしてしまうが、実はすでに大勢のプレイヤーが水面下で、未来のビジネスを虎視眈々と狙っているのだ。

そのような中で、今後どんなビジネスが生まれてくるのだろうか。今回のセミナーの各セッションについて、講義録をまとめてみた。未来のスマートビジネスにおける真の姿について探ってみよう。

1.「次に来るのは、スマートテレビでのアプリケーションビジネス」(GClue佐々木陽氏)
まず前提条件として、米国では動画のオンライン配信ビジネスがすでに大きなビジネスになっていることに注目したい。

・hulu
2007年設立のNBC、FOX、ABCなどのジョイントベンチャーだ。無料でTVドラマが視聴でき広告収入と見逃し視聴課金で運営している。9億再生で年間売り上げ100億円を突破し、来年はIPOを目指す。

・NETFLIX
郵送のビデオレンタルからオンラインにシフトした。2000万人の会員を有し、200種類のインターネットデバイスから接続可能のビデオレンタル屋だ。時価総額1兆円とされる。

・Qriocity
ソニーが行っているVODサービスだ。

・Amazon
79ドルの年会費で5000本の映画を無料配信している。9万本が買えるようになっている。

・iTunes
アメリカではVODで映像を見るのが当たり前の中、iTunesが重要な役目を担う。

・YouTube
1日20億再生しているが、チャンネル開設コストがゼロなのが特徴だ。Webサイトのような多チャンネル展開、生放送でなくても十分だ。

・VEVO
Google、ソニー、ユニバーサル、EMIのジョイントベンチャーで映像音楽配信を行っている。ストレージはYouTubeを使う。クラウドありきの成功事例として注目されている。5500万ユーザを突破しYouTubeの半分のユーザを獲得、Yahoo!を超えた。

この中で注目されるのが、スマートテレビ向けのアプリケーションだ。すでに、iPhoneからテレビに絵がかけるアプリ、映像をコントロールするアプリ、図鑑アプリなどが提供され、すでに2000本が販売されている。またテレビ用のSDKは10万円で売っており、無名のベンチャーがテレビや付属機器を作れる時代となった。

これからの時代のビジネスといっても、すでに映像コンテンツは揃っているので、かつての資産をどう活用するかという点での、クリエイティブ力がポイントであると佐々木氏は指摘する。
好きなときに好きなだけ見られるVODや生放送ではなく、アプリケーションのダウンロードと実行で、TVを拡張した使い方というところがスマートテレビビジネスのポイントとなりそうだ。

GoogleTVでは、2011年春からアンドロイドアプリのダウンロードが可能になる。
サムスンは2013年にGoogleTVを1億台販売するという。Googleは世界40億人のテレビ視聴者から広告収入を狙っている。米国は7000万世帯が月額42ドルのケーブルテレビ代を払っているため、これがスマートアプリのマーケットにシフトすれば、相当の規模になるだろう。

マイクロソフトでは、すでにXboxが5000万台も普及し、それがスマートTVプラットフォームとして継承される可能性もある。Xboxに対応したアプリケーション機器「Kinect」は800万台出荷された。骨格認識で、動作認識系のゲームやシミュレーションができる装置である。このような新しい機器を使った展開も予想される。
これからのスマートテレビビジネスに目が離せなくなりそうだ。

2.「スマートフォンが2000万台を超える2012年が勝負」(MTI小畑陽一氏)
「ルナルナ」や「music.jp」などを配信しており、ケータイ公式サイトの分野では確固たる地位に君臨し続けているエムティーアイは、ちょうど1年前に10年間培ったガラケービジネスからスマートフォンビジネスに大きく舵をとろうという意思決定が行われた。スマートフォンがコモディティ化する世界の潮流をかぎとった結果であった。

これまでケータイで培って来た「既存システム」「会員基盤」「経営指標」は、スマートフォンになった瞬間にまったく使えないことが分かったという。そこでやったことが、「Mopita」というコンテンツ課金プラットフォームの構築と、「Mobile Convert」というスマートフォンサイト構築ソリューションである。

まず基盤システムを作って、コンテンツをスピーディに移植した。30万人の会員基盤の作り込みをして、そのあと経営意思決定ルールを変更した。その結果、大手のEコマースサイトが、エムティーアイによって、スマートフォンへの対応を実現したのだ。

スマートフォンが2000万台(16%)を超える2012年が、キャズムを超えるターニングポイントと考えている。アーリーマジョリティのときにサービスを出せば大きな果実が得られる。本当の勝負は今年の秋としている。アーリーアダプターがいるこの時期にどれだけの経験を積んで、本当の大衆層にリーチできるときに、何を用意できるのかがポイントだという。

ユーザがスマートフォンのことを「PCよりもケータイ」と感じているリサーチ結果がでているため、ケータイでのサービスをスマートフォン化することをいち早くすることが大事であるとともに、ケータイで培ったノウハウ(ケータイとしての利用価値、使い勝手など)も活かせるはずである。

今は、サイトを作るチカラが重要ではなく、何が求められているかを考えるチカラが必要だ。これが現場の感覚だと指摘する。

3.「ビジネスの定石、パッション、英語が3種の神器」(アドテックTokyo武富正人氏)
インターネット人口が17億人なのに対して、モバイルデバイス人口は50億人もいる。モバイルビジネスがグローバルのインターネット産業へ寄与する度合いは年々あがっている。

グローバリゼーションの意義について、武富氏は下記のように定義する。
・国際分業でモノもの下による生活向上
・全世界から知識が集まり知的文化の発展
・貧困、環境、人権など、国際的課題が解決

「どう見ても、日本のモバイルは先進国、自信を持ってつき進もう。」と武富氏はエールを送った。生活へと落とす知恵は海外では、まだまだカンファレンスでいわれている程度なのだから、上記の意義をサービスに落とすことができるのは我々日本人なのだという。

一方で、武富氏が危惧するのは、「日本の起業家に少ないのはフレームワークの叩き込み」だという。グローバルプレイヤーはこの「定石」を大学で勉強している。特に文系の人はこの定石を知らない。

例えば、デルタモデルについてだ。知っているか知っていないかではなく、常に考える癖があるかどうか。共通言語があれば議論になるのだ。

“ソニーのプレステが任天堂に勝てない”という下馬評をくつがえしたのは、ビジネスモデルがきちんと設計されていたからだ。あとから見れば、納得できるものだった。

続いて足りないのは「マーケティングスキル」だ。これは自分でも伸ばせる。グローバルプレイヤーは、テクニカル、ビジネス、マーケティングのメンバーを揃えてやっている。マーケティングができないプレイヤーは世界で挑戦する資格がないと見るべきだ。ガイ・カワサキの書籍「Enchantment」はシリコンバレー界隈でシェアされている。

言う事を実行する。モバイル先進国なのだから自信を持っていい。ただ、クリアすべきハードルは英語力だ。「どんどん話すための瞬間英作文トレーニング」がおすすめなのだ。
また、会議でパッションのない者がまざるのは御法度。グローバルプレイヤーの会議では、誰もがアイデアを出して、時間内に結論を出す。
「ビジネスの定石」「英語」「パッション」、この3つが外資系のカンファレンス企業に飛び込んだ先輩からのアドバイスだった。

4.「よそ者、わか者、ばか者が、新しいビジネスをつくる」(ディツーコミュニケーション藤田明久氏)
iモードをいち早く「マーケティングツール」であると気づき、ディツーコミュニケーションを立ち上げて世界に先駆けてモバイル広告を牽引し、今は、電通のオンラインビジネス戦略を見ている藤田氏より、投資家の立場からインタネットビジネスの立ち上げについて示唆に富む講義がなされた。

・投資家はどこを見るのか
それは、経営者、チーム、株主、アイデアだ。株主にエンジニアからの出資が入ると米国では説得力があがる。
アイデアは、前者3つが揃ってはじめて生きる。イノベーションとは、「職人芸」ではなく「仕組み」である。例えばスタンフォードのNABCサイクルで考えればいいサービスができる。
哲学でもなく、精神論でもなく、天才の個人芸でもなく、会社が組織として粛々と取り組む仕事の仕組みなのである。

イノベーションを引き起こす人は、「risk takerではなく、risk reducerである」という言葉が印象的だった。

・人のマネジメント
結果だけを求める、命令の遂行を厳しく管理するのはNGだという。「様々な才能を組み合わせる」「その才能をインスパイアし続ける」「そのために現場との距離を縮める」と、こういったことが「管理」ではなく「マネジメント」なのである。

・チーム
特にシリコンバレーの強みは「多様で異質な人間を集める」ことができること。そのときの共通語がフレームワークであり、大学で学ぶ用語である。シリコンバレーのインキュベーションオフィスでは起業家の卵たちが離合集散している。

・プロセス
個人で深堀りするのはNGだ。様々な人間がポジティブに叩くのが大切なプロセスであり、日本ではネガティブに叩きがちなのが残念である。

・判断の基準
テクノロジーではなく、顧客にとって価値があるかである。

・MBAは重要なのか
標準化の保証書、同じ釜の飯を食った仲間がいる。しかし、学んだメソッドを使わなければ意味がない。

最後に
「古今東西、日本のムラ社会を変えて来たのは。よそ者、わか者、ばか者だ。」
という言葉で講義を締めくくった。

5.「クリエイティブ表現はこう変わる!」(電通 細金正隆氏)
「スマートデバイスの登場により、クリエイティブの領域が拡大している。これはチャンスであり、危機でもある。」と電通の細金氏は、最初に発した。
それでは、スマートフォンアプリの事例を紹介しながら、各事例についての考察をまとめてみたい。

・企業アプリという広告表現の拡張 レゴ、ナイキ、アクアフレッシュ、ゼクシィなど
クライアントを向いて考えて作るのではなく、自分の欲しいアプリを作っていかないとユーザが使ってくれない。結果としてクライアントも満足しないという、現場ならではの示唆があった。

・キャンペーンプラットフォームとしてのアプリ iButterfly、Scan it
前者は、クーポンがAR上で蝶になって飛ぶというもの、後者は、写真をとると、何かがトリガーになって、情報を吐き出すというもので、マーケティング目的の企業が複数で参加できるプラットフォームになっている。

・表現プラットフォームとしてのアプリ Phone Book
トヨタ・エスティマが協賛している「いちばんのおしごと」という作品には、エスティマは登場しない。中身が同じで、エスティマ補助金版のみ安いという仕掛けがなされている。
「ブランドの姿勢を伝えたい。」というクライアントの姿勢は注目すべきところだ。
「メディアに向いて仕事をする。→クライアントの課題解決」、ここまでが今までだった。
これからは生活者に向いて仕事をしていき、生活者に向けたサービスやコンテンツを作ることで、クライアントと課題を共有できる。
そういうわけでコンシューマー向けのサービスを電通がし始めたのが、「Deco Market」(デコメのマーケット)や「CliDeco」(クリックできるデコメ)であった。

・メディアの電子化にともなう広告表現の拡張 例えば、ソーシャルリーディング
つぶやけて、それに応じた広告がでる。例えば、見たらチャリンとたまる。例えば、シームレスにAR表現(時計がはめられる、服をきせる。)で、手をうごかしてみると新しい体験を感じる。こんな世界観が「MAGASTORE」にはあった。

最後に、「PENKI」「Suwappu」といったメディアートの事例が紹介され、デバイスの拡張にともなう未知の世界について提言があった。

「このようなクリエイティブテクノロジストとどんどん会って欲しい。」
商売を知らない彼らと、みなさんのようなインキュベーションプロデューサーの出会いで、新しいスマートビジネスがどんどん生まれるはずだと締めくくった。

アプリはスマートフォンを飛び出していく。生活導線の中にアプリがうめこまれるのを見越した生活者に利便性と共感を与えるストーリー作りが、クリエイティブの新しい挑戦分野なのである。

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