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2011年10月14日から販売が開始されたAppleの最新iPhone「iPhone 4S」。このモデルから、従来国内でiPhoneを販売してきたSoftBankに加えて、新たにKDDIもiPhoneの販売に参入した。ここで気になるのは「SoftBankとKDDI、どちらのiPhoneがより魅力的か」ということではないだろうか。そこで全3回にわたりSoftBankとKDDIのiPhone 4Sを徹底的に比較し、読者の皆様に判断材料を提供したい。

第2回の今回は、両社のiPhone 4S比較で真っ先に話題となることが多い「通信速度」に着目。条件を揃えて筆者在住の札幌と東京で複数の場所・時間で速度測定を行い、実際のところ速度はどうなのか分析を試みた。
■通信速度スペックはSoftBank有利だが...
実測に入る前に、SoftBankとKDDIのネットワークについておさらいしておこう。

SoftBankがiPhoneで利用するのは2GHz帯のW-CDMA/HSDPA/HSUPAネットワーク。最大通信速度は端末によって異なるが、iPhone 4Sではカタログスペック上、下り最大14.4Mbps、上り最大5.8Mbpsの通信に対応する。一方KDDIのネットワークは800MHz帯/2GHz帯のcdma2000/EV-DO Rev.Aネットワーク。iPhone 4Sでのカタログスペック上の通信速度は、下り最大3.1Mbps、上り最大1.8Mbpsとなる。帯域をたばねて最大3倍(下り最大9.3Mbps、上り最大5.5Mbps)の通信速度を得る「WIN HIGH SPEED」にはiPhone 4Sは対応しない。

これらのスペックだけを比較するならばSoftBankが圧勝ということになるが、携帯電話の通信速度は場所や時間、他のユーザー数などの通信環境に大きく左右されるため、スペックだけで優劣を比較することはできない。両社の実力を知るためにはやはり実測値をもって比較するべきだろう。

通信速度を測定する際には、条件をできるだけ揃えることが重要である。今回の測定条件を以下に示す。

今回の測定対象はping(単位:ms)と通信速度(下り・上り、単位:Mbps)。pingの数値は小さいほど通信のレスポンスが良いことになり、通信速度の数値は大きいほど通信が速いことになる。

通信速度の測定には「Speedtest.net Mobile Speed Test」アプリを利用した。このアプリでは通信先の測定サーバーを選択することが可能だが、東京のサーバーは日常的に混雑しており、明らかにサーバー側が原因と見られる速度低下が見られるため、今回の測定では「Naha, Okinawa」のサーバーを固定的に選択している。サーバーが物理的に遠い場所に存在するため、pingの値が大きくなることが想定されるが、同じ場所で測定した値を比較する範囲では測定値の妥当性には影響を与えない。

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速度測定に使用する「Speedtest.net Mobile Speed Test」アプリ

測定時はSoftBankとKDDIのiPhone 4Sを同時に携帯し、同一スポット・同一時間帯に測定を実施する。測定地域は東京と札幌から、ネットワークの混雑度合いやエリア整備度合いが異なる都市中心部と郊外を両方含むよう選択する。また時間による混雑度合いが大きいと思われるスポットについて、朝・昼・夜と時間を変えて測定を行う。測定結果は測定値そのもの、及びそれらの平均と標準偏差を用いて評価する。標準偏差は値が大きいほど測定値のばらつきが大きいことを表す。

■地域による傾向 - 下り速度はソフトバンク圧勝、上り速度はau有利
それでは測定結果を見ていこう。まず東京と札幌という、混雑度が異なることが想定される地域での傾向を比較したい。以下は東京(新宿・神田・池袋)と札幌での複数ポイント計測、およびそれらを合算して計算した測定値の平均と標準偏差である。ただしpingについては、東京と札幌で測定サーバー(沖縄)との距離が異なり単純に比較できないことから、全体での合算値は示さない。

図1

標準偏差に注目すると、すべての値においてSoftBankの方が大きい。これはSoftBankの方が通信環境のばらつきが大きいことを示している。実際、SoftBankは場所によってpingの値が500msを超えたり下り通信速度が0.1Mbpsを下回る場合があるなど、通信状況が悪くなった時の落ち込みが著しかった。加えて上り通信速度については、後述するHSUPA非対応エリアの存在が値のばらつきを大きくしている。

■場所による傾向 –速度でソフトバンクがauを大きく引き離す
次に場所による測定結果の違いに着目しよう。ユーザー数が多いと思われる東京の新宿、神田、池袋の駅ホーム、東京よりはユーザー数が少ないが基地局設備が充実していると思われる札幌中心部、ユーザー数が少なく基地局設備も少ないと思われる札幌市北区郊外の各スポットにおける測定値を以下に示す。

図2

東京では、平日の昼間ということもあり、ソフトバンクが繋がったときの高速さを確認できる結果が得られている。計測箇所、時間による利用者の回線利用状況によって、やはり結果が大きく変わるということが改めてわかった。比較的、利用者が集中しない時間帯であれば、混雑しているターミナル駅のホームであってもソフトバンクの高速性はauを大きく引き離している。反面、速度のバラツキが多く、下りに比べ、上りの速度ではauがやや有利といったところだ。HSUPA網に繋がればソフトバンクの高速性が活き、利用者が集中した状況や時間帯などではauのほうが安定して通信できる可能性が高いと思われる。

札幌では、SoftBank・KDDIともに、中心部より郊外の方が通信速度が低下する傾向が見られた。郊外のほうが基地局の密度が粗いことによる影響が考えられる。明らかな違いとして、札幌郊外ではSoftBankの上り通信速度が大幅に低下した。これは測定スポットが上り通信速度を高速化するHSUPAに対応していないことが原因と考えられる。SoftBankのHSUPAは都市中心部では対応している一方、郊外地域では非対応となる傾向が見られた。一方KDDIは、今回の測定範囲では上りの通信速度は安定しており、上りの高速化(Rev.A)はもれなく利用可能であったと思われる。

■時間帯による傾向 -朝・昼はソフトバンクが圧勝 夜でauが挽回
同一スポットでも時間帯によってユーザー数が変動し、通信速度が変化することが予想される。特にユーザー数変動が大きいと思われる都市中心部3スポットにおいて、朝/昼/夜と時間を変えて測定を行った。

画像1
同じ場所で時間を変えて速度を計測

測定の結果を以下に示す。

図3

新宿駅ホームに注目すると、朝はソフトバンク・KDDIともにほぼ互角。下り速度でソフトバンク、上りでKDDIが有利。昼はソフトバンク、逆に夜はKDDIが上回るという結果になった。ネットワークが混まない昼の時間帯はソフトバンクが実力通りだが、注目したいのは、朝と夜だ。朝は利用者は多いが、負荷がかかるほどのアクセスがないためか両者ともに速度低下は少ない。反面、夜は会社の退社時間とも重なり、上り速度差がかなり大きくなっている。アップロードなどの利用が増えることで、ネットワーク負荷が増し、ソフトバンクの速度の低下に影響していると思われる。

札幌駅ホームに注目すると、ネットワークに余裕がある朝の時間帯はSoftBankの通信速度がKDDIを大きく上回った。一方ネットワークが混雑する夜の時間帯は、SoftBank・KDDIともに速度の低下が見られたが、SoftBankのほうがより顕著に速度が落ち込んだ。

現状、iPhoneユーザーはソフトバンクが圧倒的に多く、今後auのiPhoneユーザーが増えると、同様の速度低下の影響が発生する可能性もないとはいえない。

■ 朝・日中で圧倒的に高速なSoftBankと1xでの速度低下もあるが堅実なKDDI 
それでは測定結果の解釈を試みたい。まず冒頭に示した通信速度のスペックは、実環境上では意味をなさないことがわかる。SoftBankがうたう「下り最大14Mbps」のような数値は観測されなかった(平均値で1.2Mbps程度、最大値でも3Mbps台だった)。この点はKDDIについても同様である。

両社の通信速度は、平均値で比較すればKDDIの測定値が若干優れていた。ただしこれはSoftBankの測定値にばらつきが大きかったことも関係しており、個々の測定値ではSoftBankの方が圧倒的に良い値になることも多かった。一方でSoftBankにおいては時間帯などの条件によって測定値が極端に悪くなることがあり、これがユーザーの印象に悪影響を与えている。

以上今回の測定結果をまとめると、SoftBankは「条件によって速度が変化は大きいが、速度は間違いなく速い」、KDDIは「条件による変動が少ないが、速度ではソフトバンクに及ばない」という傾向を見出すことができるのではないだろうか。

■ 今回測定ではエリアの差は実感できず
なお通信速度と並び携帯電話の使い勝手を大きく左右する電波の強さについては、今回の測定範囲ではSoftBank・KDDIともに測定には十分な強度が確保され、圏外に落ちて測定できないということはなかった。

サービスエリアについては一般に(電波浸透性に優れた800MHz帯を使える)KDDIが有利といわれているが、通信速度と同様に、実際の電波状況は地域によって大きく変動する。一事例ではあるが、札幌市北区の郊外において、SoftBankがアンテナ5本の場所でKDDIが3本になる場合もあった。また、KDDIのiPhoneが3Gの携帯電話網に接続できない場合、下り144kbps/上り64kbpsの「CDMA 1X」で接続されるため通信速度が大幅に低下する。

画像2
KDDIの方が電波の強さが弱くなることもありうる

■ 比較すべきは速度だけではない?料金やサービスにも注目
今回はSoftBankとKDDIのiPhone 4Sを、主に通信速度に着目して比較した。しかし実際の使い勝手は速度だけではなく、前回紹介した通信料金はもちろん、提供されるサービスにも左右されるであろう。次回はサービス面に着目して、両社のiPhone 4Sを比較していきたい。

【特集】iPhone 4S徹底比較
第1回「料金編」:「iPhone 4S」SoftBankとauのどちらが安い?購入前に気になる料金をチェック!
第3回「機能編」:SoftBankとauの「iPhone 4S」、同じ端末なのに使える機能が違う? 購入前に要チェック

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