北海道のど真ん中、旭川に近い東川町で今年夏に開催された「第27回東川町国際写真フェスティバル」にて、飯沢耕太郎氏と鷹野隆大氏を審査員に迎えた「第1回リコーポートフォリオオーディション」が併催された。オーディションで最優秀賞を受賞された山本顕史(やまもとあきひと)氏の写真展「ユキオト」が、東京・銀座にあるリコーフォトギャラリーRING CUBEにて、2011年11月30日から12月11日まで開催されている。

山本顕史氏の写真は、東京など温暖な都市では知ることができない、雪と対峙しながら共生している大都市 札幌の姿を映し出している。

雪音が感じられるように「雪と都市」がせめぎ合う姿は、都会に住む我々が、いまだに知らなかった美しさと怖さに対面できる写真展だ。

■その気になりやすい?ほめられて、ロンドンで写真修行!
山本顕史氏の写真家へのスタートは、誰にでもある体験からだ。家族の写真担当であった山本氏は、写真をほめられて写真家になろうと思い立った。彼がほかの人と少し違うのは、いきなりロンドンで写真を学ぼうとしたことだ。アシッド・ジャズが好きなことから海外での留学先はイギリスしかないと考え、実行した行動力には驚かされる。
ロンドンの写真学校について語る、山本顕史氏

1994年、21歳から4年間、ロンドンの写真学校で写真を学んだ彼は、「ロンドンの学校は、放牧(のような学風)でしたね。歴史などの座学や自由課題の自主制作でした。」と、当時を振り返る。

その後、25歳で帰国 編集プロダクションを経てフリー作家に師事し、広告や雑誌などの写真を撮影しまくったという。2002年(29歳)で、独立、現在に至る。

■ありきたりの雪の表現を棄て、あらたな雪の表情へ
現在の「雪と都市」をテーマにした写真は、独立直後からスタートし、8年ほど撮影を続けている。

撮影当初は、テーマも今ほど明確でなく札幌の都市部を撮影していたという。当時から雪の多い大都市と雪のかかわりに興味を持ち、自分なりの表現を模索していたという。
異なる色調で雪を表現した写真

彼のスタンスは、身近で雪を見て撮るというシンプルなもので、今のスタイルになったのは3~4年前あたりからだという。以前は、スタジオ仕様の大型ストロボを遠目に設置し、わずかな雪の表情を、閃光時間の短い大型ストロボで切り撮っていたそうだ。
わずかな雪の表情を、閃光時間の短い大型ストロボで切り撮る

しかし、画一化しやすい雪の表情に満足できず、自分だけのスタイル「雪の断面」という新しい領域に踏み込んでいった。

■北国で闘いつづける「都市」と「雪」に刮目する
山本氏の写真で、ひときわ目を釘付けにするのが、「雪の断面」ともいえる写真だ。
ひときわ目を釘付けにする「雪の断面」ともいえる写真

雪の断面の作品は、家の前で除雪車がはいり、人(都市)の手で削りとられながらも、雪の存在を誇示する景色を逃さずに撮影した作品だ。
結晶のように美しい雪しか知らない都会の我々に、都市を浸食し、都市と闘う雪のなまなましい姿を見せている。
雪の存在を誇示する景色を逃さずに撮影した作品

豊平川に岩と氷と雪が混在する作品も、日常では通りすぎるような景色を逃さずにファインダーに収めた作品だ。
豊平川に岩と氷と雪が混在する作品

雪と言えば、全てを覆い尽くす存在として写真に収められることが多い。しかし、山本氏の作品では、雪と都会がせめぎ合い、今、生きている雪の姿をさらけ出す。

暖かい都市であれば、一瞬で溶けて保てない瞬間だが、北国である札幌の風土の中では雪が生き物のような咆吼をあげているのだ。

■身近な都市と雪が見せる闘う素顔
山本氏にとって、札幌の都市と雪の関係は、旅行にいくような感じだという。

「都会なのに、一晩の降雪で全ての景色が一変する。朝起きると、違う都市にいるような錯覚をあたえてくれる。そんな街なんです。」と、身近な札幌は、雪と闘う都市だと、山本氏は言う。
一晩の降雪で全ての景色が一変する


■フィルムとデジタルの垣根を越えていきたい
山本氏は、ペンタックス6×7とハッセルブラッドを使用している。理由は自身の現像による作品作りができるからだという。しかし、デジタルを否定しているわけでなく、新しい表現、フィルムを超える表現をデジタルで探すことにも意欲的だ。

そうしたアクティブさがあらわれているのが、作品をトランスムービーのように表現したスライドや、オブジェだ。

山本顕史写真展の動画

山本顕史写真展の様子

■今後の作品と活動
都市と雪のテーマのほかにも、札幌の市電DVDも作成しており、第2弾の「除雪車」編も準備しているという。こうした活動もやりながら、冬、雪、をテーマに撮り続けていきたいという山本氏だが、ロンドンで養われた発想は、時に聞く者を驚かすという。

札幌の市電DVD


■山本顕史氏 受賞の言葉
人口200万近い都市で、平均降雪量が6m近くになる札幌は世界でも稀です。雪は時に人々の悩みの種になりますが、圧倒的かつ美しい姿で生活に寄り添います。街と雪の関わりを通して、冬の都市にしか存在しない美意識を探ります。北から吹いてくる風の呼吸、街灯が照らす粉雪。「こんこん」や「しんしん」など、聴覚では聞こえない擬音。

深夜の巨大な除雪車が何十台も連なり削り取っていく道路沿いの排雪の断面。カチカチの断面に見える雪層は数日で汚れ、溶け、なくなります。雪がつくる幻のような、もうひとつの都市の表情をあきらかにしようと思います。

山本氏は、受賞したことについて、「最初は漠然とした思いしかなかったが、会場を設置してくれる人や、アドバイスしてくれる人、そして作品を見てくれる人の後押しが、凄く力になることを知ることができました。」と、受賞と写真展開催の価値を語ってくれた。

●飯沢耕太郎氏の講評
雪と都市の関わりとのテーマで、かなり独特の世界をもっており、将来性も感じられ、完成度が高く安心で見せられる作品。雪の断面図を中心に新しい見せ方にチャレンジしてもらいたい。

●鷹野隆大氏の講評
一枚一枚の写真がとても洗練されていて、その安定した力量におどろかされました。たとえて言えば上品な和菓子でしょうか。加えて、自分の土地にじっくり向き合っているところがすばらしい。今後がたのしみです。

写真家を目指すのはたやすいが、写真家で居続けることは難しい。見てもらうだけで個人の趣味の範囲を抜け出せない人も多い。展示というアクションは、写真家として活動するパワーをあたえ、写真家に成長を大きく促すようだ。

●山本顕史氏 プロフィール
1973年 札幌生まれ。
1994年 ロンドンで写真を始める。
1998年 札幌で写真を生業にする。
2006年 「ゴイシサン、コウサン」あけぼの開明舎 札幌
2008年 「10.3.4.5」ニコービル2Fギャラリースペース 札幌
2009-2010年「雪音」cafe riva 札幌
2011年 北海道東川町第1回リコーポートフォリオオーディションで最優秀賞を受賞。

※東川町国際写真フェスティバルとは(http://photo-town.jp)
北海道上川郡東川町は豊かな文化田園都市づくりをめざして、とてもユニークな「写真の町宣言」を行いました。写真文化によって町づくりや生活づくり、そして人づくりをしようという、世界でも類例のない試みです。出会いを永遠に記録する写真による、町の美を永遠に留める為の活動を、今も更に展開し続けています。

この「写真の町宣言」にうたわれた、写真によって出会いにみちた町にしようという理念を実現し、「写真の町」の一年間の集大成と翌年への新しい出発のための祭典として、1985年から毎年夏に「東川町国際写真フェスティバル」が開催されています。


山本顕史写真展「ユ キ オ ト」
主催:株式会社リコー
協賛:北海道上川郡東川町
期間:2011年11月30日(水)~2011年12月11日(日)※休館日を除く
会場:リコーフォトギャラリー RING CUBE ギャラリーゾーン
東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8階・9階(受付9階)
問い合わせ先:03-3289-1521
開館時間:11:00~20:00(最終日17:00まで)
休館日:火曜日
入場料:無料


リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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