斬新なアート表現と生命力!フィリピンの「今」が見られる「The Hope & The Dream in Filipino - Section III」』で紹介したように、フィリピン共和国の「今」をとらえた写真展が東京・銀座にあるリコーフォトギャラリーRING CUBEで開催中だ。

写真展では、都市開発の裏側で貧困をものともせず前向きに生活する人々の様子や宗教行事の熱狂を報道のように表現して作品がある一方、斬新なアートを写真の世界へ大胆に取り入れた作品など、フィリピンの写真作家の熱い息吹の「今」が紹介されている。

RING CUBEでは3名の作品を展示しているが、もっとも注目すべき写真家は、若干19歳という若さで大抜擢された ジェロイ・マリガヤ・コンセプション(Geloy Maligaya Concepcion)氏だ。

彼が一体どのようにして選ばれたのか、19歳とは思えない重厚で力強い作品は、どこから生み出されているのか、初来日されたジェロイ氏にお話をうかがった。

■Facebookから写真展デビューというサクセスストーリー
まったく無名ともいえるジェロイ氏は、どのように抜擢されたのだろうか。

それはジェロイ氏の、ある普通の日の出来事だったという。
「Facebookを使ってたら、公益社団法人日本写真協会の神谷さんから、突然、今回日本で開催する写真展の写真家としてノミネートされたというメッセージが来ました。日本には行ったことはないし、正直驚きました。」
写真展の素直な心境を語る、ジェロイ・マリガヤ・コンセプション氏

今回の写真展にも参加されているフィリピンの著名な写真家 ビリア・フランカ氏が最近、気になっている写真家としてリストアップされた中に、ジェロイ氏の名前があったという。
そこで、神谷さんがジェロイ氏の作品を確認して、Facebookを通じてコンタクトを取ったというのだ。

「ノミネートの連絡を受けたあとに、選考のために写真を何枚か送ってくださいとのことだったので、Facebook上で小さい作品を見せたところ、『あなたに決まりました』と連絡を受けました。そのあと『今度は、Facebookではなく、高画質のものを送って下さい』とメッセージをもらって作品を送りました。」

まさに、一夜にして夢が叶ったような出来事だといえる。

著名な写真家に認められたことについて、19歳のジェロイ氏は、どのように思っているのだろうか?
「一緒に展示されている著名な写真家とは、パーティで知り合った程度の知人でしたので、ビックリしました。神谷さんにメッセージをもらった後、すぐに2階いた母をおこして、嬉しくて日本のダンスを踊りました。」

普通なら、著名な作家と比べられるなど、怖さもあるものですが、19歳のジェロイ氏には、そうしたネガティブな気持ちがなく、まっすぐに未来をみている気持ちの強さがある。


■写真を撮るというのは写真のストーリーを人に伝えることだ
現代のフィリピンでは、Facebookは若者であれば誰でも利用しているメジャーなソーシャルメディアサービスであり、ジェロイ氏も日常で使っており、Facebookで自身の写真作品も公開しているという。

たまにほかの写真家からFacebookに写真をアップすると、誰かに盗まれるからアップしないほうがよいと言われることがあるが、
「Facebookは世界的に有名なサービスで、見ている人の数も世界中に多くいます。そのぶん、自分がリーチできる人の数も多くなるでしょう。

写真を撮るというのは、その写真のストーリーを人と共有して人に伝えるというのが『写真を撮る』ということなので、写真を盗まれると思ってそもそも写真を共有しないというのは、自分は違うと思います。」と、若干19歳のジェロイ氏は言い切った。


■アート写真の台頭と若者の自己主張の武器となったデジタルカメラ
ところで、フィリピンの写真ビジネスは、どのような状況なのだろうか。
フィリピンで写真をアートとして見られるようになったのは、ごく最近のことだそうだ。それまでは、写真はドキュメンタリーを記録するためのメディアであったという。

「ここ数年、アートとして見られはじめたというところです。若い人にチャンスがあるというよりも、今、写真はアートとしての市場が拡大してきているところにあると思います。」

ジェロイ氏はデジタル化が、アート写真の台頭に大きく関係しているという。
「昔は暗室や、フィルムが必要だったので、本当にフォトグラファーと言われる一部の人でなければ、写真は撮れませんでした。しかし、今はデジタルカメラがありますし、iPhoneなどでも写真が撮れるので、誰でも写真が撮れます。そして、今、若者にとってカメラは誰でも使える武器になっていると思っています。」

ある意味、フィルピンの写真界は、今、大きな時代の転換期にあるのかもしれない。
「The Hope & The Dream in Filipino - Section III」の様子


■リアリティある写真
ジェロイ氏の作品は、モノクロのストリートビューとしては、非常の力強く、報道写真とは違うアート写真に昇華しているといってもいい。とても19歳の作品とは思えないほどの重厚さが漂っている。

どのようにして、ジェロイ氏は写真を撮影して、作品を作り上げているのだろうか。
「フィリピンでは、ブラックナザリンというキリスト教のお祭りが1月にあり、それが写真をとるキッカケになりました。たくさんの人がいろんな写真を撮っていましたが、そのとき自分は人と違う方向を向いて写真を撮っていました。そうすることで、本当に何かをしている人の写真を撮れると思っています。」


また、写真をただ撮るのではなく、撮るストーリーも大事だとジェロイ氏は語る。
「今回の作品の中には、洪水被害後の被災地で撮影した写真があります。去年、フィリピンに大きな台風が来て、家が壊れるなど大きな被害がでました。

当時の僕は、飛行機に乗るお金がありませんでした。そこで自分が描いた絵を売って、飛行機代と現地に持って行くブランケット代を稼ぎ、現地でブランケットを配って写真を撮ってきました。

ただ、写真を撮りにいって帰るというのではなく、自分で経験したことや見たものがストーリーとして写真になるのです。」


ジェロイ氏の写真で一貫しているのは、一見被害を受けている人であっても、決して暗い面を見てはいないというところだ。

ジェロイ・マリガヤ・コンセプション氏の作品


■崩れない信念 写真と向き合う姿勢
ジェロイ氏に、写真に対する想いを伺ってみた
「まず写真を撮ることで、自分が満たされます。その理由というのは、ほかの人に自分が撮ったストーリーを伝えることです。普通の人は写真を見て、その写真を撮るライティングなどの技術を考えません。『これはいい写真だ。何かもの凄く自分の心に響くものがある。』という写真を撮ることが、自分が満足することです。」

彼にとってカメラは、写真さえ撮れたら何でもよいとさえいう。

「自分が好きな写真を続けていけば、チャンスは向こうから来るから大丈夫だと思っています。写真を撮って賞をとろうというのではなく、写真を撮ること自体が賞をとっていることと同じくらい恵まれているので、わざわざ賞をとるために写真を撮ることはありません。写真を撮る、それだけで十分です。」


■もっと日本を見たい好奇心旺盛な19歳の素顔
今回は初来日だが、彼には日本はどのようにうつったのだろうか。

「まだ2日目ですが、日本の人はみんな心やさしくて、歓迎されている気がします。何より驚いたことが、道行く人が大きな声でしゃべっていないことです。人の足音が聞こえるくらいなんて、珍しいです。オフィスも道も凄く静かで綺麗で整理整頓されていることが、自分がいる環境では考えられないから、それでビックリしました。」

日本で見たいものはあるのだろうか。
「日本では、忙しくて人がせかせか動いている情景を見てみたいです。そしてそれを写真に撮りたいです。もちろん、歴史的な場所や伝統的な場所も見てみたいです。また父と子供頃からケーブルテレビでNHKの番組を見ていたので、それで出てきた場所も見たいですね。」
日本について語る、ジェロイ・マリガヤ・コンセプション氏


19歳とは思えない力強い作品を見たい人は、銀座まで足を運んでみては如何だろうか。


ジェロイ・マリガヤ・コンセプション(Geloy Maligaya Concepcion)氏
SantoTomas大学ファインアートに通う19歳、オンライン調査のサイトNewsbreakでフリーランスとして仕事を行った経験があり、フィリピンにおいて毎週全国放送で放映しているニューヨークのフェスティバルで賞を受賞したドキュメンタリーのストーリーを紹介する番組でも撮影を行っている。彼がメンバーでもあるアーティストのチームと共に、毎年行われ、今年は11月に台湾で開催されるグラフィティの大会Asian Wall Lordsにフィリピン代表として参加することになっている。また、つい先日、今年のアンコールフォトワークショップへのフリーランスのドキュメンタリー写真家として参加が決まった。

写真展概要
名  称:アジアの写真家たち2012 -フィリピン-
      「The Hope & The Dream in Filipino -Section III」
主  催:「東京写真月間2012」実行委員会-公益社団法人 日本写真協会、東京都写真美術館
後  援:文化庁、フィリピン共和国大使館、東京都(申請中)、外務省、環境省
協  賛:フィリピン環境省、株式会社リコー
期  間:2012年5月30日(水)~6月10日(日) ※休館日を除く
場   所:リコーフォトギャラリーRING CUBE ギャラリーゾーン
所 在 地:東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8階・9階(受付9階)
電   話:03-3289-1521
開館時間:11:00~20:00 (最終日17:00まで) 
休 館 日:火曜日
入 場 料:無料

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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