「写真の町」から生まれた「念力、滲透、輪郭」とは? 気鋭の写真家が描く世界にドキッ』で紹介した写真という枠を軽やかに超える若手3人による異色な写真展 佐藤 志保、畠山 雄豪、人見 将の「念力、滲透、輪郭」が東京・銀座にあるリコーフォトギャラリーRING CUBEにて開催中だ。

今回の3人の作家は、「リコーポートフォリオオーディション」で優秀賞に選出された進新気鋭の3名の作家、佐藤 志保 氏、畠山 雄豪 氏、人見 将 氏だ。3名が、それぞれ、「念力」「滲透」「輪郭」といった一風変わったテーマを掲げた作品が転じられており、これまでにない不思議さが漂う展示となっている。

さっそく、それぞれのテーマや作品について、3人の作家にお話を伺ってみた。
左が人見 将 氏、中央が佐藤 志保 氏、右が畠山 雄豪 氏


■展示・テーマ企画先行だからこそ作家性を強く発揮できる
今回、別々のテーマの3人の作品が展示されている理由とかそれぞれのテーマについて伺った。

「『リコーポートフォリオオーディション』では、『写真展をやるんだったら、どういう写真展にします?』というオーディションでしたので、応募者が展示企画テーマと作品を持ち込んで、作品を競い合いました。今回は、オーディションで通ったテーマに近づけ、今回のような形になりました。」

通常の写真作品ありきでなく、明確な展示とテーマがあっての写真展というスタイルは斬新だ。よりメッセージ性や作家性を前面に押し出すという意味でも興味深い。


■銀座の街に浮かぶRINGCUBEに浮遊し滲透(しんとう)していく世界 - 畠山 雄豪 氏
畠山氏のテーマは「滲透」。3人の中で立体的はスタイルを持つ作品だ。

RING CUBEはドーナツ状の展示空間をもつギャラリーで、外側と内側の壁面に作品を展示できる。今回は内側に人見氏、外側に佐藤氏の作品が展示され、中央の床面が畠山氏の作品が展示されるという一風変わったパノラマ的な展示となっている。

床面に作品を置くのは斬新なアイデアについては
「RING CUBEでしかできないような展示がしたいと、プレゼンのときにアピールしました。」
床面に作品を置くのは斬新

畠山氏は、RING CUBEの1/50の縮小模型を実際に作り、床に置く作品の数を17個くらいと割り出したという。

「作品は6:7のフォーマットで作られていますが、石が浮いていて、そこをさまよっていく空間を作りたかったのです。宇宙から見た地球は、海や大地、川があり、大地に水がしみ込んでいき、やさしく包み込んでいる印象を受けます。それが自分の足下にも広がっているのではないかと感じたんです。RING CUBEは、建物自体が釣り構造なので、足下に作品を置いたら、銀座の街を空中散歩しているように面白いかなと思ったんです。」
浮遊し滲透する石たち

左右に他の作品があることで、中央の展示が活きてくるという。
「人見さんと佐藤さんの写真を見たときに、どちらもすごく大きくて。どちらも人物が存在し、輪郭と情景の中にあるものが対峙している、さまよいこんでいる中に自分の作品がある。おふたりの作品は、向き合っている部分も面白いかなと思います。」
左右の作品の中を流れる畠山氏の作品はまるで川のようだ

今後の展開についてうかがってみると、
「僕は、写真にこだわっていきたいです。毎回、テーマで撮っていきたいです。テーマや手法を変えて、写真の記録性ということにこだわっていきたいです。今回の『滲透』(しんとう)は、淡々と存在する行為というのを見せたくて。水の流れる様子というのは、それを撮るともうなくなるという様子が、それが写真の記録する行為にリンクしている感じがします。モノとかカタチとかの裏側にあるもの、儚さとかにこだわっていきたいなと思っています。」
畠山氏の作品にはサプライズ的なものもある。
四角いボックスがある。ボックスの中をのぞいてみると、……。是非、会場で確かめて欲しい。
四角いボックスがある。ボックスの中をのぞいてみると、……

■なぜ?なぜ?回答のない写真の面白さ うつらないものをイメージする- 佐藤 志保 氏
佐藤氏に作品のテーマは「念力」だ。真偽はともかく「念写」や「心霊写真」なるものとは違って、通常の撮影で、超常現象と呼ばれるものが写真に写ることはない。

では、なぜ写らないものをテーマに選んだのだろうか? 謎は謎をよぶ……。

「超能力とか、超常現象を題材に撮っているんですけど、念ってどれだけ強い思いで念じても、端から見ていてわかるもんじゃないなと思って。この作品では写真に写るもの、写真に写らないものをそれぞれ印画紙に写しています。念を込めている写真を見てもわからないし、念を込めてますって言葉だけ見てもわからない。2つを組み合わせたときに、『ああ!こういうものだったんだね。』と、してみたかったんです。」
佐藤氏のテーマ念力  ダウジング

写真作品には、作家の「メッセージや解」が大抵はある。見る者もその「メッセージや解」や自分なりの答えを探すものだ。

ところが、佐藤氏の作品は、その解が見つからない。考えれば考えるほど、見れば見るほど、悩ましくなってくる。

そこが佐藤氏が持つ不思議空間だと気づくと、納得できた。
回答の無い写真、曖昧ながらも存在しているモノたちの「ゆるさとおもしろさ」なのだ。


しかし、なぜ超能力を写真のテーマにしようとしたのだろうか?
「知り合いが悩んだりしているのを見ていて、考えをめぐらせて先のことを考えれば考えるほど、気持ちばかりがどこかにいってしまって、体が現実的な世界に置いていかれてるように見えたんです。“気持ちが先走って、うっかり体を忘れていた”みたいな。それが、なんだか幽体離脱しているみたいだな、と思ったのが、キッカケです。」

佐藤氏の写真の特徴はとにかくサイズが大きい。一見すると普通の写真に見えるのだが、区間を大きくとらえて細かいディテールにテーマが隠されていたりする。

「出演している人の性格だとか、印象だとかを考えて、撮りたいイメージに合っている人に出演してもらっています。
まったくのノンフィクションではなく、フィクションでもない、その中間あたりのイメージです。4×5で撮影することによって、撮影の際にも非日常的な空間が生まれるかなと思っています。」

「幽体離脱」 生きている人間の肉体から霊魂が離れてしまうこと。
  休憩中 彼は思いついた 「動かなくても 旅行はできる」



「超常現象をテーマにしてますが、超常現象が本当に起こっているかどうかは見ていてもわからないじゃないですか。起こっていても起こってなくてもよいと思っています。」

こう言い切る佐藤氏は、現実世界にある「解」のない不思議さをそのまま写真空間に映し出しているのだ。



今後の活動についてうかがってみた。
「写真にこだわって作っているスタイルではないですが、写真と言葉の組み合わせで面白さを作りたいですね。動画やストリーミングではなく、このスタイルでないとできないことがあると思っています。ほかにも動画で作品を作ることもあるので、今後も写真をツールとして使いますが、写真にこだわって写真だけやるスタイルではないですね。」
佐藤 志保 氏 「念力」作品


■実物大のリアリティ輪郭の内と外 - 人見 将 氏
人見氏のテーマ「輪郭」で描き出されている写真はカメラを使わない写真だ。

「フォトグラムという写真独自の技法で、デジタル技法ではありません。印画紙の上に何かをのせて作品です。
元々は写真も撮ってているのですが、写真と自分の距離感を保つため、いまはフォトグラムという手法で作品を作っています。

撮影という写真をやめてみても、何かを作り出したいという気持ちがフォトグラムという表現をとらせているのだと思います。」

フォトグラムは、古くからある暗室作業の1手法だ。カメラを用いずに、印画紙の上に直接物を置いて感光させるなどの方法で、1800年代から使われはじている。一般的にはマンレイなどの作品で知られるようになった。
「輪郭」をテーマにフォトグラムを使った人見氏の作品


フォトグラムを本格的にやりだしたのは、30歳くらいからだそうで、4年ほどフォトグラムで作品を創り続けているという。

今回の人物のフォトグラムは、人見氏にとっても珍しい作品で、人を素材に集中的に創作したシーズンの作品とのことだ。
「フォトグラムで人を扱うひとつの長所は、等身大というのがあります。プリントという紙の中に縮小して入れ込むのではなく、実際の大きさが出ますので、それだけで十分な意味があるのではないかと思いました。」

このリアルなサイズにより複数での人物というダイナミックな作品が生まれている
実際のサイズ感が圧倒的な作品


今後の活動について伺ってみた、
「こう見えて写真好きなんですよ。写真から少しそれたところで写真がわかる、これ、写真じゃないよね。ということは、写真は何であるのかがわかる。そういう繰り返しで、自分は意識しないで作品を作っているので、何か作っていくと思います。」
人見 将 氏 「輪郭」作品


■写真という固定概念を超えて
今回の3人に共通しているのは、写真というツールを使っているが、写真という概念にしばられていない自由さがあるというところだろう。

この自由さが、便利ではあるが、様々なことで制限されている現代人にとって、楽しさと、癒やしを与えてくれるように思えた。

人見氏の作品は「人はいるけど、輪郭しかない」、佐藤氏の作品は「人は写っているけど、そこに人はいない。」中央の畠山氏は、「浮遊し滲透しながら流れていく」。
左が人見 将 氏、中央が佐藤 志保 氏、右が畠山 雄豪 氏

3つの自由が絡み合う洞窟を旅しているいるような錯覚をも覚えるなんとも不思議な空間の写真である。


●写真家プロフィール
佐藤志保(さとう しほ)氏
山形県出身
2010年東北芸術工科大学デザイン工学部情報デザイン学科映像コース卒業

畠山雄豪(はたけやま ゆうごう)氏
東京都出身
2010年リコーフォトギャラリーRING CUBE 学生対抗フォトイベント「銀座写真選手権」入賞
2011年、2012年御苗場 レビュアー賞

人見将(ひとみ まさる)氏
埼玉県出身
1998年東京工業専門学校電気工学科卒業
2006年東川町フォトフェスタ ストリートギャラリー グランプリ受賞

写真展概要
名  称:佐藤志保、畠山雄豪、人見将の写真展「念力、滲透、輪郭」
期  間:2012年6月13日(水)~6月24日(月) ※休館日を除く
主  催:株式会社リコー
協  賛:北海道上川郡東川町
場   所:リコーフォトギャラリーRING CUBE 9Fフォトスペース
所 在 地:東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8階/9階(受付)
電   話:03-3289-1521
開館時間:11:00~20:00 (最終日17:00まで) 
休 館 日:火曜日
入 場 料:無料

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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