写真でチャンスを掴みたいすべての人のための参加型写真イベント「御苗場」において、見事にRING CUBE賞に輝いた、文本貴士氏の写真展「追憶」が、東京・銀座にあるリコーフォトギャラリーRING CUBEにて開催中だ。
文本氏は、フィルムでモノクロ撮影した写真にデジタルで着色するという、独自技術によるアート作品を創りだしている。「御苗場」で受賞した文本氏の作品には、電通担当者が興味を示すなど、商業写真界からも高い注目を集めている。
写真でも違う、絵画とも違う、文本氏のアート作品は、どうやって生み出されているのか?
じっくりとお話を伺った。
■日本で難しいアート写真作品だったがRING CUBE賞で自信をもらった
昨年RING CUBE賞を受賞後、写真展開催の話があり、今年の1月に打ち合わせで、新作の創作が順調だったことから、写真展開催が決まり、作品づくりにも拍車が掛かったそうだ。
写真撮影と後処理により写真作品つくりは、海外では多くのアート作家が用いている技法も一つだが、日本ではあまり評価されることは少ない。
文本氏も、その点に不安があったが、御苗場でのRING CUBE賞が大きな自信になったという。
「やっていることは、『写真じゃなくても、いいんじゃないの。』って、思う方もいるかもしれません。
御苗場である意味、認めていただいたというところがあるので、この路線で行っても大丈夫だなという自信にもなりました。」
「写真はある程度、真実を写すというものがあります。僕は『記憶』をテーマについてやっているんですけど、虚構空間をのせることで、自分の中にあるもうひとつの世界を、写真という媒体を使って表現したいなという思いがあります。」
■不思議な心象風景
文本氏の作品は、リアリティと幻想が混在して不思議な心象風景を生み出している。
その不思議さを生み出している独特の色使いだ。
「派手すぎると、パッと見た時点で嘘だと見えてしまうし、自分の中でも違うなというのがあります。『記憶』をテーマにしている時点で、自分の記憶を大元にしているので、ある程度、現実に近いかたちで、虚構というものをのっけたいです。」
■自然との対話でシュールな世界へ!
「御苗場」でRING CUBE賞を受賞した作品は人工物をテーマとした作品だったが、今回の作品展では、自然を対象とした作品が目立つ。
「基本的に自然が好きなので、よく海とか、山とかに行くんですけど、結局、自分の中の良かったなという風景をうつしていったら、こういった作品になってました。」
「御苗場のときは、110ブースあった中で気に留めて頂かなくてはいけない、ということで、無意識に少し派手めの色にしていたのだと思います。今回は、認めていただいた部分があるので、それをさらに進化させて、本当に『記憶』というものに立ち返り、色を反映してみました。どちらかというと、写実に近いものとなっています。」
■文本作品はこうして作られる!秘密の作業部屋を公開
文本氏の作品は、4×5カメラで撮影し、その後デジタルで加工という非常に手間のかかる作業から生み出されている。
現在、会社員をされている文本氏が、仕事が早く終わった日や、休みの日を利用して、作品づくりに没頭しているそうだ。時間をみて写真を撮りに行って、その作品を元にアートな作品に仕上げる。1ヶ月くらい掛かって、やっとひとつの作品ができるという。
さて、ここで文本氏の作品制作の現場を覗かせていただこう。
作品制作の大まかな手順は、下記のとおりだ。
1.4×5(シートフィルム)カメラで、モノクロで撮影する
2.自分で現像する
3.パソコンに取り込む
4.彩色する
文本氏が撮影に使用してるカメラは、4×5シートフィルムを使用する大判カメラだ。
フィルムの入手も難しいし、価格も高価だ。
なぜ、あえて4×5カメラを利用しているのだろうか。
4×5カメラは、全画面のどこでもピントを自由に操作できる。また、あおりにより画角のパース修正が可能な点も135mmなどの一般のカメラとは大きな違いだ。
文本氏が4×5カメラを使用しているのは、ピントとあおりだけが理由でない。
4×5シートフィルムがもつ圧倒的な画像粒子の解像度だ。
文本氏の作品では撮影後の彩色には、元となる画像の解像度が重要となる。特に細部の形状がしっかり起きてないと彩色でディテールがつぶれてしまうという。さらに、モノクロのフィルムは階調が多いので、色をのせたときに情報が飛ぶことなく、最適なのだ。
「今だからできることだと思うんですよね。昔はデジタルの技術がありませんでしたから。高画質である4×5の画質と高画質対応したデジタル技術を組み合わせることで、ハイブリットのものができるというところが、面白いところだと思います。」
ところで、いつから作品づくりを始めたのだろうか。
「『御苗場』に向けて作品をつくろうと思ってたときで、去年の今くらいです。自分で現像がしたかったので、モノクロをやってみたときに、写真の中の色の重要性を初めて知りました。
モノクロは見た方が想像した色を思い浮かべると思うんですけど、ここであえて自分の色を入れることで、自分の世界を出せたらと思いました。それが表現として面白いなと思って、始めました。」
デジタル技術の進歩で、写真を加工することは誰でもが楽しめるものとなったいるが、それを作品として人の鑑賞に堪えられるクオリティにまで昇華するには非常に難しい。、
「新作としていくつか出していますが、作品にならなかったものもいくつかあります。自分が持っていたイメージとかけ離れた色使いになってしまったり、色をつけていくなかでそういうときもあります。」
文本氏も、また予想外の結果になることも多々あるという。
今後の活動について、文本氏にうかがってみた。
「今は風景が多いですが、いろいろな被写体について撮っていきたいのと、『記憶』をどれだけ多様化できるかに挑戦したいです。」
最高のアナログのフィルム写真と最高のデジタル技術が出会って生まれた文本氏の不思議な写真空間を味わってみては如何だろうか。
●文本貴士氏のプロフィール
1984年 愛知県生まれ 名古屋市在住
2007年より写真を撮りはじめ、2010年より作品を意識して写真を撮るようになる。
2011年御苗場 vol.9 関西へ出展。RING CUBE賞を受賞。
大判カメラとモノクロフィルムを使い、彩色することで自身のテーマである「記憶」を表現している。
写真展概要
名 称:9Fフォトスペース NEXT GENERATION 文本貴士 写真展「追憶」
期 間:2012年7月4日(水)~7月16日(月) ※休館日を除く
場 所:リコーフォトギャラリーRING CUBE 9Fフォトスペース
所 在 地:東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8階/9階(受付)
電 話:03-3289-1521
開館時間:11:00~20:00 (最終日17:00まで)
休 館 日:火曜日
入 場 料:無料
■リコーフォトギャラリー「RING CUBE」
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昨年RING CUBE賞を受賞後、写真展開催の話があり、今年の1月に打ち合わせで、新作の創作が順調だったことから、写真展開催が決まり、作品づくりにも拍車が掛かったそうだ。
写真撮影と後処理により写真作品つくりは、海外では多くのアート作家が用いている技法も一つだが、日本ではあまり評価されることは少ない。
文本氏も、その点に不安があったが、御苗場でのRING CUBE賞が大きな自信になったという。
「やっていることは、『写真じゃなくても、いいんじゃないの。』って、思う方もいるかもしれません。
御苗場である意味、認めていただいたというところがあるので、この路線で行っても大丈夫だなという自信にもなりました。」
作品について語る、文本貴士氏 |
「写真はある程度、真実を写すというものがあります。僕は『記憶』をテーマについてやっているんですけど、虚構空間をのせることで、自分の中にあるもうひとつの世界を、写真という媒体を使って表現したいなという思いがあります。」
■不思議な心象風景
文本氏の作品は、リアリティと幻想が混在して不思議な心象風景を生み出している。
その不思議さを生み出している独特の色使いだ。
「派手すぎると、パッと見た時点で嘘だと見えてしまうし、自分の中でも違うなというのがあります。『記憶』をテーマにしている時点で、自分の記憶を大元にしているので、ある程度、現実に近いかたちで、虚構というものをのっけたいです。」
モノトーンの空に深みのある青い海が不思議な作品 |
展示の様子 |
■自然との対話でシュールな世界へ!
「御苗場」でRING CUBE賞を受賞した作品は人工物をテーマとした作品だったが、今回の作品展では、自然を対象とした作品が目立つ。
「基本的に自然が好きなので、よく海とか、山とかに行くんですけど、結局、自分の中の良かったなという風景をうつしていったら、こういった作品になってました。」
「御苗場のときは、110ブースあった中で気に留めて頂かなくてはいけない、ということで、無意識に少し派手めの色にしていたのだと思います。今回は、認めていただいた部分があるので、それをさらに進化させて、本当に『記憶』というものに立ち返り、色を反映してみました。どちらかというと、写実に近いものとなっています。」
自然との対話で生まれた新しいアートの作品 |
■文本作品はこうして作られる!秘密の作業部屋を公開
文本氏の作品は、4×5カメラで撮影し、その後デジタルで加工という非常に手間のかかる作業から生み出されている。
現在、会社員をされている文本氏が、仕事が早く終わった日や、休みの日を利用して、作品づくりに没頭しているそうだ。時間をみて写真を撮りに行って、その作品を元にアートな作品に仕上げる。1ヶ月くらい掛かって、やっとひとつの作品ができるという。
さて、ここで文本氏の作品制作の現場を覗かせていただこう。
作品制作の大まかな手順は、下記のとおりだ。
1.4×5(シートフィルム)カメラで、モノクロで撮影する
2.自分で現像する
3.パソコンに取り込む
4.彩色する
文本氏の作品制作現場 |
文本氏が撮影に使用してるカメラは、4×5シートフィルムを使用する大判カメラだ。
フィルムの入手も難しいし、価格も高価だ。
なぜ、あえて4×5カメラを利用しているのだろうか。
文本氏が使用する4×5カメラ |
4×5カメラは、全画面のどこでもピントを自由に操作できる。また、あおりにより画角のパース修正が可能な点も135mmなどの一般のカメラとは大きな違いだ。
文本氏が4×5カメラを使用しているのは、ピントとあおりだけが理由でない。
4×5シートフィルムがもつ圧倒的な画像粒子の解像度だ。
文本氏の作品では撮影後の彩色には、元となる画像の解像度が重要となる。特に細部の形状がしっかり起きてないと彩色でディテールがつぶれてしまうという。さらに、モノクロのフィルムは階調が多いので、色をのせたときに情報が飛ぶことなく、最適なのだ。
「今だからできることだと思うんですよね。昔はデジタルの技術がありませんでしたから。高画質である4×5の画質と高画質対応したデジタル技術を組み合わせることで、ハイブリットのものができるというところが、面白いところだと思います。」
ところで、いつから作品づくりを始めたのだろうか。
「『御苗場』に向けて作品をつくろうと思ってたときで、去年の今くらいです。自分で現像がしたかったので、モノクロをやってみたときに、写真の中の色の重要性を初めて知りました。
モノクロは見た方が想像した色を思い浮かべると思うんですけど、ここであえて自分の色を入れることで、自分の世界を出せたらと思いました。それが表現として面白いなと思って、始めました。」
デジタル技術の進歩で、写真を加工することは誰でもが楽しめるものとなったいるが、それを作品として人の鑑賞に堪えられるクオリティにまで昇華するには非常に難しい。、
「新作としていくつか出していますが、作品にならなかったものもいくつかあります。自分が持っていたイメージとかけ離れた色使いになってしまったり、色をつけていくなかでそういうときもあります。」
文本氏も、また予想外の結果になることも多々あるという。
今後の活動について、文本氏にうかがってみた。
「今は風景が多いですが、いろいろな被写体について撮っていきたいのと、『記憶』をどれだけ多様化できるかに挑戦したいです。」
今後の活動について語る、文本貴士氏 |
最高のアナログのフィルム写真と最高のデジタル技術が出会って生まれた文本氏の不思議な写真空間を味わってみては如何だろうか。
●文本貴士氏のプロフィール
1984年 愛知県生まれ 名古屋市在住
2007年より写真を撮りはじめ、2010年より作品を意識して写真を撮るようになる。
2011年御苗場 vol.9 関西へ出展。RING CUBE賞を受賞。
大判カメラとモノクロフィルムを使い、彩色することで自身のテーマである「記憶」を表現している。
写真展概要
名 称:9Fフォトスペース NEXT GENERATION 文本貴士 写真展「追憶」
期 間:2012年7月4日(水)~7月16日(月) ※休館日を除く
場 所:リコーフォトギャラリーRING CUBE 9Fフォトスペース
所 在 地:東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8階/9階(受付)
電 話:03-3289-1521
開館時間:11:00~20:00 (最終日17:00まで)
休 館 日:火曜日
入 場 料:無料
■リコーフォトギャラリー「RING CUBE」
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