コスト削減でも日本と変わらぬ品質!いま注目されているオフショア開発とは?」では、オフショア開発についての概要を紹介した。

オフショア開発がうまく行くと、高い技術力を持ったエンジニアを安価に雇用できる。逆に失敗すれば、納期が遅れたり、仕様と違ったシステムが納品されてしまったり、十分な品質を確保できなくなってしまう。

どう立ち回ればオフショア開発で成功できるのかは、誰もが気になるところだろう。

そこで今回は、実際にベトナムのオフショアで成功している企業のひとつ、日本最大級のゴルフポータルサイト「ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)」の運営に携わっている、ゴルフダイジェスト・オンライン システム革新本部 本部長 渡邉 信之 氏に、オフショア開発の現状と、どのようにしたらリスクが回避できるのか、その辺のノウハウについてうかがってみた。

■中国やインドとは違う!日本語が使えるベトナム開発
GDOのシステム開発は、外注比率が高いのだそうだ(渡邉氏)。3年前に株式取得で子会社化した株式会社インサイトのメンバーが加わり15~16名から一気に30名の体制となったものの、現在は約8割が外注となっている。

「外部のベンダーさんだと、入れ替わりが激しかったり、コストも高かったりという状況で、当時は改善策を色々と検討をしていました。」と、渡邉氏は当時を振り返る。

また、GDOは過去、ベトナム以外の地域でもオフショア開発も行っていた。

「過去、オフショアは、中国もやりましたし、インドもやりました。いろいろトライをしてきたが、うまく成功しませんでした。本当は、オフショアはあきらめかけていたのですが、ベトナムは日本語が通じるということで、前から興味があって、価格的にも興味があって、もう一度トライしてみようということになりました。」とベトナムでのオフショア開発に至った経緯を語ってくれた。

同氏によると、外国人の仕事の進め方は、日本とは明らかに異なるそうだ。そうした中で、ベトナムは日本語が通じるエンジニアが比較的多いという点、低コストである点で前々から興味があり、ひょっとしたらうまく行くのではないかとうすうす感じていたそうだ。

特に日本語が通じるエンジニアがいるというメリットは明らかに大きいという。たとえば、仕様書ひとつとってみても、細かいニュアンスなどが英語だと通じず、指示を伝えづらいそうだ。これが日本語だと微妙なニュアンスもしっかり伝わるというのだから驚きだ。ただ、良く考えれば、伝えたい側の人間が自国語でドキュメントを書き、それを伝えられる側が分からない部分を相手の国の言語で確認するほうが伝わりやすいと考えれば納得もいく。

現在では、現地とのミーティングは、9割5分が日本語でのやり取りだそうである。それでも言葉や文化の壁は多少あるという。

「我々はゴルフを扱うサービスですが、ゴルフはベトナムであまり一般的ではありません。それをどうしたかというと、いろいろノウハウが載っているサイトを探して、それでゴルフを理解してもらいました。実際に業務を説明しましたが、わからないものは、慣れてもらうしかないんです。」(渡邉氏)

日本語が使えるエンジニアがいるとは言え、海外であるが故の苦労もやはりあるようだ。
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン システム革新本部 本部長 渡邉 信之 氏


■作業工程の視覚化が重要
日本語が通じても言葉の壁はあったわけだが、ほかにも苦労した点はあったのだろうか。

渡邉氏は、「彼らの作業スピードが見えなかったので、どういう風に進めるのがよいのか。彼らの作業工程表を採用して、彼らのやりやすいように作業をさせる方法を見つけるのに、1ヶ月~2ヶ月ほど掛かってしまいました。」と、日本との違いを語ってくれた。

開始当初は、日本側がやりたいフォーマットで進めようとしても、なかなか思うように行かず、説明するのにも時間がかかってしまったそうだ。そこをベトナムの担当者がやりやすいように置き換えることで、作業効率が劇的に改善されたという。

なお、GDOはいわゆるラボ型契約で、固定された稼働時間を固定された費用で購入する方
式でオフショアを利用している。なぜこの形式を選んだのだろうか。

「もともとベトナムでやりたかったことは、保守作業をアウトソーシングしたかったというのがあります。GDOの仕事は、保守サービスをメインでやるものが多く、それをアウトソーシングすることで、(自社のエンジニアが)よりビジネス寄りの仕事にシフトできると思っていました。そうなると、依頼内容は請負よりも、もっと細かい単位になってくるので、請負は最初から考えていませんでした。」(渡邉氏)

細かい単位で仕事をこなしてもらい、その管理はGDOがしていくというものだ。保守・運用をまかせるという意味では、ラボ型契約のほうが何かと都合がよく、それによって社員は保守・運用以外の作業を行えるようになる。また、保守運用以外の開発でも、開発しながら改善していく、いわゆるアジャイルでの開発が行いやすく、自社サービスの試作と改善を繰り返すような手法にも向いているようだ。
ベトナムのオフショア開発について語る、GDO 渡邉 氏


■年間で1億円くらいの削減へ
ところで、GDOは現在、どれくらいの作業をベトナムに移管しているのだろうか。また、コスト的には、どれくらいの削減が実現できたのだろうか。

「どんどんサービスが増えていくので、そのぶん保守が増えてきますから、なかなか静止点でとらえられない部分があります。全体の保守という作業の割合からいうと、6割くらいはベトナムになっているイメージです。」(渡邉氏)

現在、ベトナムには保守・運営に携わっている人が25名ほどいるが、国内ならその8割くらいの人(20名くらい)は絶対的に必要だという。

気になるコストについては、
「(国内で行うのと比べて)年間で1億くらいの削減効果があります。」(渡邉氏)
GDOのサービスは規模も大きいので、削減効果も大きいようだ。だが、話を聞く限り2~3人の規模の保守や運用業務が定常的に発生するようなケースであっても相応の削減効果は見込めそうである。
ベトナムでのオフショア開発の現状について語る、GDO 渡邉 氏


最後に、これからオフショア開発を始める会社に対してのアドバイスをうかがってみた。

「丸投げは基本的にダメです。自分たちである程度設計して品質を担保してから進めるのが大原則です。」(渡邉氏)

これはベトナムに限らず、また海外オフショアに限らず、外部の開発会社やエンジニアに作業を継続的に依頼していくうえでは重要な事項と言えそうだ。


今回は、オフショア開発を推進した会社の責任者にお話をうかがったが、オフショア開発は採用した会社だけでなく、現場のエンジニアにも大きなメリットがありそうだ。

そこで次回は、現場のエンジニアにお話をうかがってみることにしよう。


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