大幅なコスト削減を実現!オフショア成功企業が語る活用の秘密~GDOはなぜベトナムを選んだか?~」で紹介したように、オフショア開発を成功させれば、会社のコスト削減や事業スピードに大きく寄与することがわかったことと思う。

またベトナムでのオフショア開発は、中国やインドとは異なり、日本語によるコミュニケーションが可能な企業も多いが、海外であるが故に注意すべき点もいくつかあったことも紹介した。

ところで、オフショア開発は何も会社にばかりメリットがあるわけではないようである。現場のエンジニアにも大きなメリットがあることが今回のお話をうかがってわかってきた。

そこで今回は、日本最大級のゴルフポータルサイト「ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)」のエンジニアである、株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン 開発チーム マネージャー 企画室 村松 篤史 氏に、エンジニアから見たオフショア開発の現状をうかがってみた。

■エンジニアのスキルアップに繋がるオフショア開発
オフショア開発は、海外とやり取りを行う。そこには、日本の開発会社やエンジニアとのやり取りだけでは見逃しがちなことに気づかされる面も多々あるようだ。

村松氏は、
「(日本の)エンジニアを見ていて思うのは、そもそも要求仕様書や設計書など、何を開発してもらいたいかを伝える資料をまともに作ってない人が多いということ。たぶん研修とかではやっているのでしょうけど、日本人同士で仕事を進めていくうちに、なあなあになってしまうのでしょうね。」と、日本での開発の問題点を指摘した。

日本人同士だと、どうしても仕様や設計が依頼者の頭の中にしかないようなことが多くなってしまう。それを、依頼を受ける側が「あうんの呼吸」で理解することが暗黙のうちに求められる。しかしそれは日本人同士で仕事をしていても往々にしてトラブルのもとになる。
そんな依頼者の意識を締め直し、仕様をきちんと伝える能力を見直すという意味でも、オフショア開発にはメリットがあるという。

「仕様書や基本設計書を書くというのは自信にもなりますし、人に説明もうまくできるようになるという意味で、メリットは大きいです。実際、仕様書や基本設計書に対して、ベトナムのエンジニアから質問やフィードバックもあるので、そこで自分に何が足りないのかというのもわかります。」(村松氏)

村松氏によると、仕様書や設計書を書くことは、エンジニアの自信になるうえに、責任を持つという意味でも大きいというのだ。

「こういうのはダメなんだな・・・というのは、皆、一回はあたります。そこで内容の精度がもの凄くあがりますし、彼ら(ベトナムのエンジニア)が動いてくれることで、別の本来やりたかった作業に手が回せるようになったり、無意識にリソース管理をやり始めるようになります。」(村松氏)

オフショア開発の導入は、現場のエンジニアのスキルアップだけでなく、次のステップアップにも繋がるというのだ。開発やテストなどで、自分が依頼したものが、どのように返って来るのか、各工程でわかる。現在では、自分のやり方を確立している人が多いという。

日本のエンジニアも多くは、運用に縛られ、目の前のことで手一杯になってしまい、人に作業を依頼し管理する経験を積めないまま、年齢を重ねていきがちだ。

その点、オフショア開発を使う経験を持つことで、グローバルレベルでの開発や運用管理を経験できるようになる。また、それによって、自分の手も空くので、新しいこともできる環境ができる。

年齢を重ね、部下を持ち、30代40代になってようやく自分がしたいことが出来る環境を得ることが出来る(かもしれない)のが、これまでの日本のエンジニアのキャリアパスであった。
しかし、日本人の部下を持たせてもらうのはコスト面で難しくても、オフショアなら自分のやらなくてはいけない作業を依頼することが低コストで出来る。それが自分のスキルアップにもつながるうえに、自分がやりたいことが出来る環境が整っていく。
人の指示通りに作業をするだけのエンジニアはオフショアに仕事を「取られてしまう」立場になってしまうが、指示や管理ができるエンジニアにとっては能力を発揮していくチャンスと言えるだろう。
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン 開発チーム マネージャー 企画室 村松 篤史 氏


■コミュニケーションは重要
オフショア開発は、現場エンジニアにとってもメリットがあることが分かったが、逆に苦労した点はないのだろうか。

「彼ら(ベトナムのエンジニア)は頑張ってくれるのですが、最初は心のうちをあまり打ち明けてくれない時期があったんですね。何も言ってくれないから、大丈夫なのだと思っていると、時限爆弾式に最後にドカン!ときて、スケジュールも後ろに倒さなければいけないこともありました。」(村松氏)

先に言ってもらえば何でもないことでも、ギリギリに報告を受けると対応できないことも多々ある。そういう意味で、コミュニケーションと信頼関係は重要なものとなってくる。

「すごく頑張ってくれるので、有り難いです。でも、習慣なのか、できないというのが自分への敗北宣言のように感じているのでしょうか。」(村松氏)

ただ、これらの悩みは、数か月ごとに現地に赴き、チームのメンバーとコミュニケーションも重ねることで解消されてきているとのこと。特に現地のリーダーとの信頼関係が形成されるに従い、リーダーがチームメンバーのフォローをし、それをきちんと報告して相談する形が出来てきているのだという。


ところで、ベトナムと、ほかの国々との違いは何だろうか。

「根本的な違いは、日本語が通じるか通じないかの違いですね。それが一番大きいです。あとは、積極性があるのかと思います。インドや中国、米国は、書いてあることしか実現しようとしないです。その裏にある意図、質問する姿勢は、ベトナムの人は積極的だと思います。」「それに、仕様や設計を伝えた後にベトナムからあがってくるQ&Aの表は、日本のベンダーさんと変わらないくらい細かく質問や確認事項が書いてありますね。」(村松氏)


インドや中国は、仕様書に書いてあることを自分なりに解釈して作る。これは米国も変わらない。話が早く進むこともあるが、思わぬ誤解があったことが、完成品を見て初めて明らかになる場合もある。
その仕様書で何を実現しようとしているのか、GDOのベトナムのチームのエンジニア達は、目的そのものを理解して作り上げようとする姿勢があるというのだ。

これは日本人には有り難い気質といえるだろう。
ベトナムのエンジニアについて語る、GDO 村松 氏


日本語が話せるとはいえ、ベトナムはやはり外国だ。日本人は、良くも悪くもあうんの呼吸があり、あとから微調整も可能だが、ベトナムを含め、海外の取引先ではそうはいかない。仕様書ひとつとってみても、グローバルに対応するという意味では、オフショア開発に挑戦する意義は多いにある。

とはいえ、日本人のエンジニアとしか、やりとりをせずに開発していた会社が、いきなりオフショア開発に取り組むのは少しハードルが高いようにも思える。

そこで次回は、ベトナムでのオフショア開発サービスを提供している企業に、ベトナムオフショア活用の成功例や失敗例、開発会社側の工夫などをうかがうことにしよう。

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