「GPS Punch!」というアプリをご存じだろうか。GPS機能を利用して現在地・行動をリアルタイムで報告できるスマートフォンアプリだ。どこにいても簡単に出退勤や業務内容を報告できるため、業務を効率化し、コストの削減にもつなげることができる。

この便利な「GPS Punch!」の仕掛け人であるレッドフォックス株式会社 代表取締役社長 別所宏恭氏に同社を立ち上げるまでの秘話や「GPS Punch!」による戦略についてうかがった。

■中学時代の決意から起業の道へ
まず初めにレッドフォックスの事業内容について聞いた。

「基本的には、現在システム開発が売り上げのメインですが、今後はGPS Punch!がメイン業務になってくると思います。システム開発のほうですが、弊社の創業が平成元年で、最初は科学技術計算から始まり、UNIXのダウンサイジングが始まってからずっとビジネス系で、特に金融関連のお付き合いが多かったです。」とのこと。

別所氏によると、リーマンショックよりも前から業務をネット系にシフトしており、現在はテレビ局や出版社、ネット企業、スマホ関連企業など、多岐に渡って展開しているそうだ。

社名の由来についてうかがってみると、
「社名と言われて、それまで考えていなかったので、適当に書いちゃったら、それがそのまま変えられなくなってしまったんです。社名を変えたら悪いことが起きたというのが、我々の業界の定説ですから・・・」と、笑いながら教えてくれた。

創業当時、システム系の仕事をしている会社には、○○コンピューター、○○システムといったような社名が多く、レッドフォックスには「おたくさん七面鳥やっていますか?」という電話が、冗談ではなく本当にかかってきたそうだ。

その後、レッドハット(Linuxのディストリビューションのひとつ)が流行、さらにFirefox(ファイアーフォックス)というWebブラウザーが広く知られるようになってからは、IT企業らしい社名として認知されたというから、世の中はわからないものだ。
レッドフォックス株式会社 代表取締役社長 別所宏恭 氏


ところで、別所氏が起業するキッカケは何だったのだろうか。

『中学のとき、貧乏だったんですよね。いつもお腹を空かせているときに、「友達のうちに行って夕御飯を食べてきなさい。」といわれて友達のうちに行くと、おかずが3つ、出てきたんですよ。ひとりずつに小分けされて。このうちは、なんて金持ちなんだと思って。「やっぱ、おなか一杯食べるには、ここのお父さんのようにならなければ行けないな。」と思いました。そこのお父さんがですね、東大阪で町工場をやっていたんですよ。そのとき、町工場の社長だと、町工場の社長になろうと、中学のときに心を決めたので・・・』と、別所氏は当時を懐かしむように語ってくれた。

高校卒業後は、ウェイターやガードマン、うどん屋、引っ越し屋など、様々な業種の仕事をしながら、何で起業するかを考えていたそうだ。最終的には、電力中央研究所という狛江にある研究所でのバイトが、起業のキッカケになったという。

『あるときコンピューターを扱っている部門があって、みんな嫌がるんですね。当時は。昭和60年とか、そんなぐらいですかね。誰もコンピューターなんて、見たこともない。さわったこともないので、私に押しつけられたんですね。その部門に行ったら、先輩が『ここに僕が作ったプログラムが動いている。計測器で使っているんだよ。これを新しいコンピューターが来たら移植して。これ、マニュアルだから・・・』と言われて、箱から出しておいてね。去って行ったんですよ。』と、笑いながら話してくれた。

生まれて初めてのことで、プログラミングの経験もなかったが、いろいろと本を見ながら、2週間くらいで移植が終わったというから驚きだ。

『「ああ、これ、自分に向いているかもしれない」と思って、あと、暇になったので、いろいろなプログラムを作って、そこにいた学生さんとかに遊ばせたりして、みんな年上なんですけどね。この人たちはゲームで遊ぶ人で、俺は作る側だなと思って・・・。コンピューター系に仕事内容を変更して、最初、個人でやって、そのあとで法人にしたんです。』と、起業までのいきさつを語ってくれた。

起業に不安はなかったが、会社を設立してからいろいろと苦労したそうだ。会社設立当時は平成元年で、まだバブルの時代だった。大手企業 東芝との取引もあり、銀行も快くお金を貸してくれたそうだ。ところが、バブルが崩壊して事態は一転する。

『バブル崩壊って意味がわからなかったんですけど、だんだん会社の電話が鳴らなくなったんです。僕は営業というのは電話の前に座っていて、電話が鳴ったら「やります。」「やりません。」と言うだけだと思っていたので・・・。それで3年過ぎていたのですが、電話が鳴らなくなったので、しょうがないので、パッケージでも作るかと思って。それから「構造化チャートエディターBOS」というパッケージを作ったんですけど。そしたら今度、売り方がわからなかったですよね。それから、借金が数千万円に一気に膨らみました。』

その後、別所氏は営業や経営について学びながら、エンジニアとして仕事をこなす日々を送る。24時間365日、仕事に集中した結果、1人で月300万円くらい稼いだというから驚きだ。結局、数千万円あった借金も2~3年ですべて返済できたが、ハードワークであったため、そのあとに体を壊したという。
会社設立までの経緯について語る、別所氏


■衝撃的なムービーで優秀な人材を確保
レッドフォックス株式会社は昨年、世界一「おしい!」会社として、その採用ムービーがIT業界でも話題となった。このインパクトのあるムービーを作ろうとしたキッカケは何だったのだろうか。

「もともと、うちの会社はシステム開発をやっているので、非常に堅い会社なんですよ。会社説明会でも求人媒体でも書くことは全部、過去の話なんですよね。今、社員はどういう人がいるとか。会社を変えようと思っているのに、過去の話では誰も見てくれないし、気にしないし、媒体にも書けないです。そこで、過去を一度分断しなければ駄目だと考えました。今まで蓄積したもの、今の悪いものはあるかもしれないけど、全部壊してやろうと、壊すための大きな事件が必要だと考えました。」
衝撃的なムービーを制作するに至った経緯を語る、別所氏


「普通なら、別会社を作って、ベンチャーでやるんですけど、面倒くさかったので、壊してやろうと思って、破壊してやろうと、もう徹底的にと思ったわけです。破壊するために何が効果的かなと、あのビデオを作った。そうしたら、ああいうのを見たら、もうほかのことを見ても、あまりイメージに残らないじゃないですか。あのビデオのインパクトだけで、そういう大事件を起こそうと思って、その事件が刑事事件とかだとまずいんで、ビデオを作るという大事件を起こしたわけです。」と、笑いながら語ってくれた。

別所氏によると、これまでの求人では会社の過去や現在を見て判断されるので、今までと同じ人しか来なかったそうで、なまじお堅い歴史があるのがデメリットになってしまうのだという。そこで過去を全て消し去るほどの重大な事実、大事件が必要となり、その大事件が衝撃的なムービーだったわけだ。別所氏のアイデアは功を奏し、後述する「GPS Punch!」の成功に必要な人材を採用するにいたる。

【2014新卒採用開始!】おしい!レッドフォックス完全版

レッドフォックス株式会社には、衝撃的なムービー以外にも、他社にない鉄の掟がある。それは100%禁煙を謳っている会社であることだ。

100%禁煙について別所氏にうかがうと、
「基本的に科学者の会社として作ったので、非科学的で非論理的なことは、あまり理解できません。昔、会社がまだ小さいころ、雇われでPM(プロジェクトマネージメント)とか、コンサルタントとか、やっていたんですよね。そうすると、当然、そこの会社の部下を使ってくれと言われるんですけど、タバコを吸う人は、しょっちゅう席を離れて、ほとんど仕事になってないので。自分の会社で人を採るときは、そうしようと考えました。」と、語ってくれた。

実際に、同社のサイトには、「レッドフォックスが100%禁煙を謳うのは、タバコが人体へ及ぼす悪影響だけが理由ではありません。生産性やエコの面からしても、百害あって一利なしだからです。」と表記されている。
100%禁煙を謳っている、レッドフォックス株式会社のサイト


■GPS Puch!で世界征服へ
「GPS Punch!」は、どこにいても出退勤や業務内容を簡単に報告できる画期的なスマートフォンアプリだ。

主な特長は、下記のとおり。
・ボタンをスライドさせるだけで、出勤、退勤の連絡ができる
・作業開始・終了、移動、訪問、休憩開始・終了など現在の状況を選んでタップするだけで業務報告ができる
・グループ内の全ての報告内容を確認できる


そんな「GPS Punch!」を開発するに至ったキッカケは、何だったのだろうか?

「もともと、うちがネットサービスをいろいろやりたいと思ったんですけど、実は同じようなものを2006年からやっているんです。ガラケーにGPSが付いて、これをもとにいろいろなことができると。じゃあ、これで出退勤管理とか、行動管理とか、いろいろやればいいじゃんと。ifoxというのを作って、リクルートさんとか、いろいろお問い合わせをいただいたりしたんですけど、そんなに機能がない割には高かったんですよね。システムとして。全然、売れなかったんですよ。社内的には使われていたんですけど、それからいくつか、やっていたんですけど2011年にスマホを使って、これをやろうと決めて、3人の新卒を使って3か月で作ったのが、初代のバージョンです。」
現在地・行動をリアルタイムで報告できるスマホアプリ「GPS Punch!」


そんな「GPS Punch!」のプロモーションだが、あまりお金を掛けられなかったので、炎上マーケティングを実施したそうだ。

「普通にやってもバイラルしないから、宣伝費もないから、まずは炎上マーケティングをやろうと、アイコンを変えたんです。」

故意に「サボリ撲滅」という過激なワードを使ったところ、見事にTwitterや2chで大炎上して、ロケットニュース24にも取りあげられ、いろいろなところにリンクを貼られて、SEOがあがったという。使う人と発注する人は別の人なので、問い合わせが殺到したそうだ。


「GPS Punch!」は、様々な業種の企業で使われているが、面白いところでは除雪車を走らせている企業での採用もあった。

「除雪車がその時間に走っているということは、そこに雪が降っているので、除雪車以外は通れません。管理画面の地図上で線がひかれるということは除雪しているということです。100%嘘つかない会社と、もしかしたら?という会社だったら、前者のほうに頼みますよね。」

引っ越し業者や、訪問の歯科診療、買取業者、不動産営業などでは、時間と場所を証明するツールとして、大変重宝されているという。現在、警備会社でも話が進んでいるという。

「GPS Punch!」には、情報ツールとしての使い方もある。

『そこのお客さんのところに前任者がどのような話をしたのか、今、自分がいるまわりで見込み顧客だとか、たとえばビール会社さんだったら、どこかに用事で行ったと。近所にお得意さんの酒屋さんがあったら、ちょっと顔を出して、「こんにちは!」と声を掛けるだけで、イメージが違いますよね。ただ暇なときに寄っただけですけど、それを全部あたまの中に覚えるのは大変じゃないですか。地図でぱっと出る。ピンが出て、このお店はもう2か月顔を出していないというのが出るので。あとは、アポイントメント入っていないけど、売れそうな見込み顧客のところに、ブラっと顔を出してみるとか、いうことはできます。ビジネスチャンスを増やすというのは、今年一番の展望だと思います。』と、別所氏は具体的な使い方を語ってくれた。

もうひとつ大きなテーマを作っているのは、現場作業の安全安心を作ろうというものだ。

「我々のお客さんというのは、世界的に展開されている会社さんが一杯あります。なかには政情不安定な場所にも行ってらっしゃるので、当然、テロとか誘拐とか事故とか、いろいろなことが起こりえます。そういうときに我々がSOSを出せる機能を作ろうと。あと、日本国内は地震が多いので、安否確認とか。この辺が今年、リリースされます。」

別所氏によると、企画している機能だけでも、まだ10%に満たないという。

「今ある機能で、3%ぐらいですかね。おそらく今後、さらにお客さんとお話していけば、そこの作らなければいけないというものが増えてくると思うので。そこは我々にマストというか。使命だと思っています。」
「GPS Punch!」の管理画面の前で派手なパフォーマンスをする、別所氏


最後に人生の目標をうかがってみた。

「世界征服です!まあ、言葉のアヤですけど。世界中の人が誰でも知っているサービスを作り出すとか、そういうのができたらよいと思っています。生まれてきたからには、世界というフィールドでやりたいです。GPS Punch!は、Googleマップを使ってますけど、Googleに勝てる可能性があります。最終的なGPS Punch!の使命としては、デスクワークの人たちにも使ってもらえるものにしたいし、世界中の働く人たちのポータルになっていくと。チベットだろうが、南アフリカだろうが、エジプトだろうが。いろいろな人たちに使っていただきたい。働く人たちに、もっとも愛され、必要とされるサービスを作りたいんです。」
法人契約の携帯電話の回線数について語る、別所氏


2016年で、法人契約の携帯電話の回線数が2700万回線になると予測されているという。そのくらいは少なくとも外まわりの人がいて、実際には3000万人以上の人が外を出歩いている可能性がある。そういう人たちにも「GPS Punch!」を使って欲しいと考えている。

「働く人たちに、もっとも愛され、必要とされるサービスを作りたい。」というのが、別所氏が願う世界征服だ。

「GPS Punch!」製品情報
レッドフォックス株式会社